「ビジネスが破壊したものは、ビジネスで解決する」ヒット商品の舞台裏、つくり手のことば

小林明子

OTEMOTO[オ・テモト]は、日本の丁寧なものづくりと人に寄り添うウェブメディア。「つかい手も、つくり手も、豊かな社会」の実現に向けて発信しています。さまざまな経営課題に直面しながらも、時代に合わせたアプローチで新たな可能性を探る企業や人の挑戦を、2024年に公開した記事から振り返ります。

※それぞれの言葉は記事から抜粋編集しています。敬称略。画像をクリックすると記事を読むことができます。

「限界集落を守るため、配達車を走らせる」

木次乳業
祖父は"カリスマ百姓"だった。乳業メーカー3代目が「牛乳屋をやめる」と宣言する理由
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

1978年、全国に先駆けてパスチャライズ(低温殺菌)の牛乳を流通させた島根県雲南市の木次乳業。本州では珍しい放牧の酪農や飼料の自給自足など、安全安心な牛乳づくりにこだわったうえで、3代目はあえて「僕たちは"牛乳屋"じゃなくていい」と宣言します。

「山間部の集落では物流がままならなくなっています。地域の暮らしを守るという使命を考えると、僕たちが配達車を走らせ、他の商品も一緒に乗せることができれば、物流のインフラの役割を担えるかもしれない」(佐藤毅史 / 木次乳業3代目社長)

「ビジネスが破壊したものは、ビジネスで解決する」

サラヤ
地球にやさしいはずの洗剤、"炎上"から20年。「見た者の責任」を問い続けるサラヤの本気度
写真提供:サラヤ株式会社

植物性の洗浄成分を使った「ヤシノミ洗剤」などで知られる医薬品メーカーのサラヤ。2004年、ヤシノミ洗剤の原料が環境破壊につながっているかもしれないと知ったことから、ボルネオの環境保全活動に取り組んでいます。

「長い年月をかけてビジネスが破壊してきたものは、チャリティーだけではなかなか回復できません。ビジネスで解決しなければならないのだと、強く感じています」(代島裕世 / サラヤ取締役)

「失敗しても、技術が後退することは絶対にない」

R&Dteam
ミツカン「ZENB」開発トップが「薄皮まで丸ごと」にかけた執念。「失敗しても、技術が後退することは絶対にない」
写真提供:株式会社ZENB JAPAN

豆や野菜の皮や芯などをまるごと使った「ZENB(ゼンブ)」は、大手食品メーカーのミツカングループが立ち上げた食品ブランド。「新しい主食をつくる」という信念のもと、豆の薄皮まで使い切る麺づくりは、失敗の連続でした。

「技術というものは、やり続けている限りは後退することは絶対にありません。失敗が続いたとしても、着実に、確実に、積み上がっている。1カ月前よりも1カ月後は進歩しているし、半年後になるとそれは大きな差になります」(榎本直樹 / ㈱Mizkan Holdings 新規事業開発R&Dチームリーダー、㈱ZENB JAPAN専務取締役)

「1分単位で給料を支払います」

バターのいとこの製造現場
製造工場では「1分単位」のタイムカードを導入。那須から各地へと広まる、課題解決型スイーツが目指す未来
写真提供:株式会社GOOD NEWS

那須銘菓として人気の「バターのいとこ」は、人口約2.5万人の栃木県那須町で製造されています。働き手が不足する中、地域で暮らす多様な人たちが働きやすいよう、1分単位のタイムカードを導入。給料を1分単位で支払うようにしました。

「厳密な時間管理が苦手な人や、働きたい時間が日ごとに変わる子育て中の主婦の方にも、継続的に来てもらえるようになりました」

「時間で拘束して一定量のノルマを課したら生産性は上がりますが、 僕らは効率だけを求めてやってはいません。生産者、障がいがある人や主婦のみなさん、そして会社もハッピーになれることを目指しています」(宮本吾一 / GOOD NEWS代表)

「つらい作業は機械がやり、繊細な仕上げは職人がやる」

金子眼鏡BASEMENT
最先端ロボットは匠の技を支えるためにある。金子眼鏡が鯖江で起こした"産業革命"
Seigo Ito

世界屈指の眼鏡産地である福井県鯖江市で、2006年に自社一貫生産をはじめた金子眼鏡。最先端のロボットを導入し、工程の8割を占めていた人の手による研磨作業に革命を起こしました。

「職人たちの負担になっていた泥磨きを自動化すれば、職人は仕上げの繊細な磨きにより集中でき、時間をかけてスキルアップもできる。みんながきついと感じているなら工夫してみようというのがロボット導入のきっかけなので、職人の仕事を奪うという議論はあてはまりません」(市川純一郎 / 金子眼鏡取締役、生産管理部部長)

「産地の中でしのぎを削る」

IKEUCHI ORGANIC
今治生まれのタオルメーカーが「いいものを安く」を目指さない理由。「1社1社がとんがれば産地も繁栄する」
出典:IKEUCHI ORGANIC 公式note

タオル生産に携わる小さな工場が分業体制で発展してきた愛媛県今治市。廉価な輸入タオルが台頭した1990年代、産地消滅の危機に瀕します。そんな中、今治生まれのタオルブランド「IKEUCHI ORGANIC(イケウチオーガニック)」は、個性を打ち出してきました。

「複数の自社ブランドがとんがった形で存在する産地はすごく強いし、熱烈なファンがついてくれるはず。同じ製品をつくり続けながら、見た目を変えることなく品質を上げるのはとても難しいことですが、各メーカーがしのぎを削ることで、お客さんを飽きさせず、満足してもらい続けることができると思うんです」(池内計司 / IKEUCHI ORGANIC代表)

「生産者の希望になるような商品を開発したい」

カゴメトマト畑
ひたすら真面目に、派手さもない。日本のトマト畑から生まれた「実直」なカゴメトマトジュースの意外な背景
写真提供:カゴメ株式会社

カゴメの「日本のトマト」は、国内生産量が減少傾向にある加工用トマトの生産者の声から生まれた、国産トマト100%のジュースです。

「加工用トマトは完熟を迎える夏に一斉に収穫するため、作業の負担が大きいうえ、つくり手が高齢化し、国内生産量は減少傾向にあります。日本で加工用トマトをつくる人が減ってしまうと、トマトジュースをつくることも難しくなります」

「手塩にかけて育てたトマトがおいしいジュースになり、お客さんに喜んでもらえたら、生産者の方たちの希望になり、トマトづくりの励みになるかもしれない。そんな価値のあるジュースを開発したいとずっと思っていました」(山口貴之 / カゴメ飲料企画部 2グループ課長)

「学校生活を支える製品をつくる」

井田祥一社長
学校の上履きでもおなじみ、ムーンスターが守り続ける実直な靴づくり「手間ひまをかけたものの価値はきっと伝わる」
写真提供:ムーンスター

学校の上履きで知られる、シューズメーカーのムーンスター。履き心地を重視した熟練の技術を応用し、社内の若手の声から生まれたファッション性の高いスニーカーの製造も手がけています。

「学校生活を支える上履きは、こどもたちにとって空気のようなもの。あって当たり前の製品だからこそ、可能な限り不良品を出さないようにすることも私たちの使命です」(井田祥一 / 株式会社ムーンスター代表取締役社長)

「結果を評価するより、未来に投資する」

木村石鹸
給料は社員自ら提案。「性格のいい人」を採用。創業100年の石鹸メーカー4代目の「曖昧」な経営とは

2024年に創業100年を迎えた石鹸メーカー「木村石鹸工業」。社員が希望する給与額を会社に申告する「自己申告型給与制度」を2019年度に導入し、注目を集めています。申告額の基準は、前年度の実績による「結果への報酬」ではなく、これからやろうとしていることの価値に対する「未来への投資」である点も特徴です。

「一般的には『結果』を評価して報酬に結びつけるため、『360度評価』などさまざまな仕組みを使ってなるべく正確に評価しようと努めるものだと思います。僕は、その仕組み自体がそもそも無理ゲーじゃないかと思っていて。人が人を正確に評価することはできないという前提に立っているのが根本的な違いです」(木村祥一郎 / 木村石鹸工業社長)


温故創新で、つかい手も、つくり手も、豊かに。OTEMOTOは、日本の丁寧なものづくりと人に寄り添い、2025年も発信してまいります。

sekisuihouse
特集:時を超えた価値
OTEMOTO
著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
SHARE