学校の上履きでもおなじみ、ムーンスターが守り続ける実直な靴づくり「手間ひまをかけたものの価値はきっと伝わる」

難波寛彦

さまざまな靴製品を展開するシューズメーカーとして知られるムーンスター。学校指定の「上履き」などで、同社の靴を履いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。そんなムーンスターが守り続けているのは、こどもたちの成長期に寄り添う実直なものづくりの姿勢。手間ひまをかけたヴァルカナイズ製法を用いた靴づくりなど、その姿勢は現在まで受け継がれていると社長の井田祥一さんは話します。

【後編】「こんなものが売れるわけがない」その考えを覆し、老舗シューズメーカーが人気ブランドとなった理由

学校の”上履き”で知られるムーンスター(旧社名:月星化成)が本社を構えているのは、福岡県南部に位置する久留米市。ゴム産業の街としても知られるこの地で1873年に創業した、座敷足袋製造の「つちやたび店」が同社のルーツです。

つちやたび本店
創業当時のつちやたび店
提供:ムーンスター

その後、ゴム底の地下足袋の開発を経て運動靴などのスニーカーの製造にも着手し、1920年代後半からは児童用靴の製造を開始します。1950年代後半ごろには、現在でもおなじみのゴムバンドつきの上履きを発売し、全国的にその名を知られるシューズメーカーとなっていきました。

サイズやカラー、機能など豊富なバリエーションがあり、丈夫で長持ちすることもムーンスターの上履きの特徴です。社長の井田祥一さんは、こどもたちの成長期に寄り添う実直なものづくりの姿勢が、多くの消費者に支持されてきた理由ではないかと話します。

「空気」のような存在だからこそ

ムーンスターのスクールカラーM
ムーンスターを代表する上履きのひとつ、「スクールカラーM」。
2013年にグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞。
提供:ムーンスター

「学校生活を支える上履きは、こどもたちにとって空気のようなもの。『ムーンスターの上履きであれば大丈夫』という信頼に応え高品質な製品を提供することはもちろん、あって当たり前の製品だからこそ、可能な限り不良品を出さないようにすることも私たちの使命です」

効率よりも重視する履き心地

ムーンスターの吊り込みの作業
「吊り込み」の作業の様子
提供:ムーンスター

ものづくりに対する実直な姿勢が反映されているのは、学校用の上履きだけではありません。ムーンスターを語るうえで欠かせない、「ヴァルカナイズ製法」が用いられたスニーカーもそのひとつです。

加硫製法とも呼ばれるこの製造方法は、靴本体と硫黄を加えたゴムの靴底を加圧・加熱することで強力に接着することが特徴で、しなやかでやわらかい履き心地となります。長く履くことで足なじみが良くなるというメリットもあります。

ただ、最初に靴本体と靴底をピッタリと合わせる「吊り込み」など、職人による手仕事の工程が多いため熟練の技術が必要とされ、国内でも製造できる工場は限られているといいます。

量産向きのセメント製法(靴本体と靴底を接着剤で貼り合わせる)と比較しても、圧倒的に手間がかかるヴァルカナイズ製法。それでも、ムーンスターはこの製法にこだわり続けています。

井田祥一(いだ・よういち)/ 株式会社ムーンスター代表取締役社長
井田祥一(いだ・よういち)/ 株式会社ムーンスター代表取締役社長
福岡県大牟田市出身、中央大学法学部卒。1983年月星化成(現ムーンスター)に入社。執行役員経営企画担当、常務取締役管理本部長などを経て、2018年に代表取締役副社長、2020年に代表取締役社長に就任。 
提供:ムーンスター

「長きにわたり靴をつくり続けてきた私たちにとって、履き心地の良さは何よりも重視してきた部分だからです。現在では同じ製法を採用した安価な輸入品もありますが、手間ひまをかけた日本製の価値はお客様にもきっと伝わると考えています」

実際に、「生産数自体も年々増えてきている」と井田社長。ヴァルカナイズ製法は、これからも守り続けていきたいシューズメーカーとしての矜持なのです。

【後編】「こんなものが売れるわけがない」その考えを覆し、老舗シューズメーカーが人気ブランドとなった理由

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OTEMOTO
著者
難波寛彦
大学卒業後、新卒で外資系アパレル企業に入社。2016年に入社した編集プロダクションで、ファッション誌のウェブ版の編集に携わる。2018年にハースト・デジタル・ジャパン入社し、Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画などを担当。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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