駐日ジョージア大使が語る、遠く離れた日本との意外な共通点「茶道のようにワイン道がある」

難波寛彦

2024年12月に、12年ぶりとなる来日公演を行うジョージア国立バレエ。バレエファン待望の公演を前に、芸術監督のニーナ・アナニアシヴィリさんとプリンシパルのニノ・サマダシヴィリさんがひと足早く来日し記者会見を開催しました。この会見に特別ゲストとして参加したのは、ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使。20年以上の在住経験がある大使が語る、ジョージアの文化とバレエ、そして日本に対する思いとは。

東欧の国であるジョージアの首都、トビリシの劇場を拠点に活動するジョージア国立バレエ。2024年12月に全国各地で開催される待望の来日公演を前に、芸術監督のニーナ・アナニアシヴィリさんとプリンシパルのニノ・サマダシヴィリさんが来日し、記者会見を行いました。

記者会見には、SNSなどの投稿が度々話題となる”バズる大使”としてもおなじみ、ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使も特別ゲストとして参加。ジョージアの文化とバレエ、そして日本に対する思いなどについて語りました。

日本で触れたジョージア文化

ジョージア国立バレエが日本で公演を行うのは、2012年の来日公演以来およそ12年ぶり。これまでにも幾度となく来日公演を果たしており、ジョージア生まれ日本育ちのレジャバ大使も、幼少期に日本で鑑賞したことがあるのだといいます。

「現在でもそうですが、私がこどもの頃は日本に住んでいるジョージア人がとても少なかったんです。そんな状況のなか、日本にいながらにしてバレエを通し自国であるジョージアの文化を知ることができたという経験は、非常に贅沢なことだったと思います。今回の来日公演も、日本で暮らすジョージアのこどもたちがバレエを通し自国を知ることができる、素晴らしい機会になるでしょう」

ジョージア国立バレエ
©︎Khatia Jijeishvili

レジャバ大使によると、20年にわたりバレエ団を率いる芸術監督アナニアシヴィリさんは、ジョージア国内でも高い知名度を誇り、国民から尊敬を集めている人物とのこと。日本における「人間国宝」に匹敵する存在だと言っても過言ではないと語ります。

「私の上司にあたるのは外務大臣や大統領といった国のトップですが、そうした方々よりもアナニアシヴィリさんとお話する時の方が緊張するんですよ(笑)。ジョージアにとって彼女はそれくらい偉大な存在であり、かけがえのない人物なのです」

芸術監督のニーナ・アナニアシヴィリさん(右)とティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使
芸術監督のニーナ・アナニアシヴィリさん(右)とティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使
提供:光藍社

遠く離れた日本との共通点

12月の来日公演で披露されるのは、「チャイコフスキーの三大バレエ」のひとつであり、クリスマスシーズンらしい物語が世界中で愛されている『くるみ割り人形』。

ただし、ジョージア国立バレエのオリジナル版で、舞台が首都・トビリシの設定になっていたり、登場人物の名前もジョージア風になっているなど、随所にジョージアらしさが感じられる作品となっているといいます。レジャバ大使も、ジョージアのユニークな文化を堪能できる作品だと太鼓判を押します。

多様な文化をもつジョージアという国の特徴について、レジャバ大使は日本との共通点も織り交ぜながら次のように話します。

「日本にはひらがなやカタカナといった独自の文字があり、一目見ただけで日本という国だとわかりますよね。実は、ジョージアもそうなんです。33文字で構成されるグルジア文字は独自の発展を遂げたもので、文字だけでわかるという国はヨーロッパ諸国のなかでは稀です」

「また、小国でありながら自然豊かで、気候も多様、そしてヨーロッパとアジアの境界に位置するという特異性もあります。そうした環境のなかで醸成された固有の文化を継承し続けているという保守的な側面を持ちながら、隣国と共生していくための寛容な土壌もあるからこそ、小国でありながらバレエをはじめとする芸術も発展していったのではないかと考えています」

東の茶道、西のスプラ

さらに、ジョージアという国を語るうえで欠かせないのがワインの存在です。諸説あるものの、紀元前6000年ごろからコーカサス山脈の周辺地域、現在のジョージアですでにワインづくりが行われていたことが知られており、これがワインの発祥とされているのです。

ブドウの実を丸ごと使い、クヴェヴリという独自の瓶を使用して作られるワインは、その色合いからアンバーワインと呼ばれます。近年では「オレンジワイン」としても人気を博しており、ジョージアを代表する特産品として世界中の人に愛されています。

ジョージアが誇るワインを通じた伝統文化についても、「日本と多くの共通点を見出すことができる」とレジャバ大使。

「お茶を通し発展した日本の茶道のように、ジョージアにはスプラという”ワイン道”とも言える伝統的な宴会文化があります。亭主が接待し、掛け軸や茶碗で客人の目を楽しませる茶道のように、スプラにもタマダと呼ばれる進行役がいて、合唱や詩の朗読などでゲストをもてなすのです。私はよく『東の茶道、西のスプラ』とも呼んでいるのですが、飲み物を通した儀式を独自の文化にまで発展させているのは、世界中を見ても日本とジョージアくらいではないでしょうか」

芸術監督のニーナ・アナニアシヴィリさん、プリンシパルのニノ・サマダシヴィリさん、ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使
写真右から:芸術監督のニーナ・アナニアシヴィリさん、プリンシパルのニノ・サマダシヴィリさん、ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使
提供:光藍社

寛容で豊かな文化的背景があるからこそ、茶道とスプラのような伝統的な儀式が発展し、そして何より自国の文化に誇りを持っている。共通点も多い両国の交流は、お互いの文化を再発見することにもつながるのではないかとレジャバ大使は語ります。

「日本とジョージアは、多くの価値観を共有する国。私の目標のひとつでもありますが、両国が交流を深めることで、それぞれの文化を再発見することにもつなげていきたいんです。そうした考えもあり、私の視点から見た日本文化についてまとめた『日本再発見』と題した書籍も出版させていただいています。自国の文化を伝えるだけではなく、相手国の文化も知る。そうした姿勢が、外交そして交流の基礎になるのではないかと考えています」

著者
難波寛彦
大学卒業後、新卒で外資系アパレル企業に入社。2016年に入社した編集プロダクションで、ファッション誌のウェブ版の編集に携わる。2018年にハースト・デジタル・ジャパン入社し、Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画などを担当。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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