災害時に「音声」以外で情報は得られる?音のない世界で感じた想像を超える不自由さ

難波寛彦

障害がある人など、災害時に避難や行動にサポートが必要な「災害弱者」と呼ばれる人たちがいます。なかでも、耳が聞こえない、または聞こえづらい聴覚障害がある人々にとって、緊急時に素早く情報を把握することには大きな壁があります。そんな聴覚障害がある人々が生きる世界に触れ、想いを馳せることができるソーシャルエンターテイメントがあります。

妊婦や高齢者など、災害時の避難や行動に支援が必要な要配慮者、いわゆる「災害弱者」と呼ばれる人々。さまざまな障害がある人たちもそうです。

2024年1月1日に発生した能登半島地震においても、そうした人々への支援が十分ではないという、厳しい現状についても報道されています。

なかでも、視覚に頼らざるを得ない聴覚障害がある人々にとって、災害時に速やかに情報を得ることには高いハードルがあります。

一方で、健常者が聴覚障害がある人々の不自由さを理解し、必要な支援を届けるために想像力を働かせることは、日常生活ではなかなか難しいということも事実です。

一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ

対等な立場での体験

2024年1月13日(土)から2月25日(日)まで、東京・竹芝のダイアログ・ダイーバーシティ ミュージアム「対話の森」で開催されているダイアログ・イン・サイレンスは、耳の聞こえない人の文化に触れ、その生活に思いを馳せることができるソーシャルエンターテイメント。

1998年にドイツで開催されたこのイベントは世界各国でも開催され、2017年に日本でも初開催されて以来2万人以上が体験しています。

参加時には、音を遮断するヘッドセットを装着します。プログラム中は、言葉を発しないだけではなく、手話も使用しないことが求められます。そのため、頼りになるのは顔の表情やジェスチャーのみ。そのため、各自の想像力と独創性がコミュニケーションにおける大きなカギとなります。

参加者たちをさまざまなコンテンツが用意された部屋へと案内するのは、音声に頼らずに対話するプロである聴覚障害がある”アテンド”。それぞれが音声の言葉や手話といった言語を持たないという対等な立場で、お互いにコミュニケーションを取る方法を発見していくというプログラムとなっています。

プログラムの詳細な内容については伏せますが、筆者が実際に体験して感じたのは、言葉を使わないことの「難しさ」と「楽しさ」です。

普段の言葉を通した会話ではまじまじと相手の顔を見なくても会話が成立するということもあり、喜怒哀楽や手振りを意識する機会が少ないため、表情やジェスチャーの表現方法を考えるだけでもかなりの難易度。普段はいかに聴覚からの情報に頼っているかを実感できます。

一方で、言葉を使えば簡単に伝えられる情報も、試行錯誤した末に表情やジェスチャーを使って伝わった際は喜びもひとしお。どのようにしたら伝わるのか?を相手の立場になって考えてみたり、理解できていないことを目で訴えかけたりと、伝えるために必死になるという経験がとても新鮮に感じました。

聴覚障害があるアテンドが各プログラムが用意された部屋へと案内してくれる。
Hirohiko Namba / OTEMOTO

瞬時に情報を得ることの難しさ

プログラム終了後にアテンドから問いかけられたのは、「街中の視覚情報にはどのようなものがありますか?」との質問です。

例えば、駅には大型のデジタルサイネージなどが設置されていることがありますが、映し出されているのは広告や動画。緊急時にいち早く流れる音声アナウンスのように、「緊急時にはリアルタイムで配信される視覚情報があるとより良い」という意見にはハッとさせられます。

先日の地震などの災害時、障害がある人が最も困難なのは「〇〇時から〇〇で食料が配られる」、「お手洗いが〇〇に設置された」などの命に関わる大切な情報を得ること。障害のある人が情報を入手するにあたって必要なサポートを行う、「情報保障」の拡充が求められます。

また、聴覚障害がある人にとっては、手話でコミュニケーションをとることができる人の存在も大切です。同じ立場や悩みを持つ人同士が対等な立場で対話する「ピアカウンセリング」の考え方は、メンタルヘルス面でも大きな意味を持つためです。

エントランスには、プログラムを体験した参加者の対話についての思いなどが飾られている。
Hirohiko Namba / OTEMOTO

緊急時にも手話言語を

現在、日本では聴覚・言語障害がある人々(身体障害者手帳保持者)が約34万人(厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査結果」)いると言われています。

2013年には鳥取県が日本初の手話言語条例を制定するなど、手話を言語として認め、多様な人がともに暮らすことができる地域づくりは全国に広がっています。

今後求められるのは、手話言語法の採択など国による法制定。手話言語法が制定された場合、命に関わる放送などは音声言語と手話言語の両方で行うことが義務化されます。

これまでは災害時に手話や字幕での情報を得る機会が限られていた、聴覚障害がある人たちの命を守ることにもつながるのです。

災害弱者の人々のための「情報保障」の充実には、当事者の立場になって考え、伝え方を工夫することが何よりも大切。ダイアログ・イン・サイレンスのプログラムを体験し、そう感じずにはいられませんでした。

著者
難波寛彦
秋田県出身。玉川大学卒業後、外資系アパレル企業を経てファッション誌のウェブ版の編集に携わる。Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画を担当。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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