"闘う料理人"こめおさんが聞きたいのは「おいしい」の一言。手ごろで簡単な料理を通してこどもたちに伝えたいこと
格闘技イベント『BreakingDown』での活躍で人気選手となった、"闘う料理人"こと、こめおさん。麻布十番に「割烹こめを」をかまえる料理人としての一面もあり、2024年1月には自身初となるレシピ本『こめおメシ ごはんに合いすぎるおかず&どんぶり』(徳間書店)も上梓しています。自身の過去の経験も反映されているというレシピの誕生秘話、そして、力をいれる「こども食堂」の取り組みについて聞きました。
格闘技イベント『BreakingDown』に出場し、そのアグレッシブなファイティングスタイルで一躍人気選手となった"闘う料理人"こと、こめおさん。2023年には『BreakingDown』への出場とSNS活動の休止を発表したことでも話題となりましたが、現在はその二つ名の通り料理人としても活躍の場を広げています。
2024年1月、こめおさんは自身初となるレシピ本『こめおメシ ごはんに合いすぎるおかず&どんぶり』(徳間書店)を上梓。自身が持つお米に関する資格の「ごはんソムリエ」が「こめお」という名前の由来になっているということもあり、お米に合うおかずやどんぶりのレシピの数々が掲載されています。
レシピにこめた思い
日本の食文化には欠かせない食材、お米が大好きだというこめおさん。そんなお米に魅了されたのは、とある場所での食事がきっかけでした。
「一時期、刑務所にいたことがあるのですが、提供される食事の主食は麦と白米を混ぜたものがほとんどでした。年に数回ほど白米だけで提供されることがあるのですが、その時に『本当においしいな』と心から思えたんです」
お米のおいしさに触れたことで、出所後はよりお米について詳しく学びたいと考えたというこめおさん。そこで挑戦したのが、お米に関する知識や技術を有することを認定する資格、「ごはんソムリエ」の取得でした。
「それまでは、なぜお米がおいしいと感じるのかを具体的に言語化することができませんでした。ごはんソムリエの資格を取得してからは、味や香り、ツヤ、銘柄など、あらゆる面からお米を捉えることができるようになったと思います」
こめおさんは、高級飲食店がひしめく東京都港区麻布十番に、コース料理がメインの「割烹こめを」もオープンさせています。普段は趣向を凝らした日本食に腕を振るっていますが、レシピ本に掲載されているのはどれも挑戦しやすい料理ばかりです。
「僕のファンには、シングルマザーで子育てをされているという人も多いんです。ですから、できるだけ手間と材料費がかからないレシピを紹介したかった。僕がお店でつくっている料理は高級食材を使い時間もかかるものが多いですが、今回のレシピ本に掲載している料理はいかに簡単につくれるかを重視しています」
手ごろで簡単な料理を届けたい。その思いの背景には、誰かと一緒に食事をする機会が少なかったという、こめおさん自身の幼少期の経験も関係しているといいます。
「シングルマザーの家庭だったので、母が仕事前につくった料理をひとりで食べることが日常でした。日によっては、家に何も食べるものがないという日も(笑)。
やはり、シングルマザーで働きながら料理までこなすのは大変なことだと思うんです。そんな人たちのために、ごはんをつくるという行為のハードルを下げていきたい。今の時代に合った時短がかなう料理もあるので、固定観念にとらわれずにごはんをつくってほしいという思いがあります」
自身の過去と支援活動
当時は、インスタントラーメンでさえ「高級品だった」と話すこめおさん。そんな過去があるからこそ熱心に取り組んでいるというのは、全国にも広がる「こども食堂」の支援活動です。
「自分の生い立ちとも重なる部分があり、働いているお母さんたちの手助けになりたいという思いがありました。こどもたちにも、ひとりでごはんを食べるのではなく、みんなで食べることができるような環境を用意してあげたいなと思い、こども食堂の支援活動を始めました」
こめおさんが中心となった有志で、東京、群馬、大阪、福岡などでこども食堂を開催。現地の飲食店と協力しながら、食を通した支援を続けています。
「どこに行っても、来ているこどもたちは本当に元気です。僕が幼少期の頃もそうでしたけど、自分が貧しいだなんて思っておらず、単純にごはんが食べられるからという理由で来ている子も少なくありません。そうした機会があるからこそ集まれるという面もあると思うので、みんなが出会う居場所にもなっていると思います」
支援活動を続けるなかで出会った子が、成長してからこども食堂の手伝いに来てくれることもあるといいます。「こどもたちの元気な姿を見ることは。僕自身の活力にもなっています」と話すこめおさんは、今回のレシピ本の印税の全額をこども食堂と被災地の支援に寄付することも表明しています。
「こども食堂は大切な居場所ですが、さまざまな事情を抱えたこどもたちを救う根本的な解決にはならないとも思っています。世の中には育児放棄をされたり、幼少期から施設で育つなど、親の愛情を受けて育った経験がないという人もいます。誰かの愛情を感じるという経験は、人生においてとても大切なことだと思うので、里親制度の拡充などにも関心はありますね。
僕自身も、こども食堂以外にも施設を回るなどして、こどもや働く人たちと触れ合える機会をつくりたいと思っています。やはり現場の声に直に触れることが大事だと思うので、そこで得た気づきも今後の支援活動に生かしていきたいです」
「おいしい」が聞きたくて
食を通し、こどもたちの居場所づくりにも積極的に取り組んでいるこめおさん。レシピ本の前書きにも書かれていたのは「誰かと一緒に食べる楽しさを知ってほしい」という思いです。
「幼少期の僕もそうでしたが、やっぱりひとりで食べるごはんは寂しい。当時は、食べながら『おいしい』と感じることさえほとんどなかったですね。
食事の際の『おいしい』という言葉は、コミュニケーションのなかで生まれるものだと思うんです。もちろん、ひとりで食べる時にも感じることではありますが、『みんなと一緒に食べてもおいしいって思えるんだよ』と伝えたい気持ちは根底にあります。
誰かと笑顔になりながら食べることで『おいしいね』という言葉が自然に出て、『次はこれを食べたいね』と会話が生まれる。そうすることで、よりポジティブな気持ちになれると思うんです。
僕ができるのはそういった環境を用意してあげることだけですが、これからももっとこどもたちから『おいしい』を引き出せるように頑張っていきたいと思っています」