地方出身の女性には「冷たい街」と思っていた渋谷で。高層ビルのふもとにこども食堂を開いたわけ

難波寛彦

東京都庁に新宿パークタワー、東京オペラシティ…。西新宿の超高層ビル群にもほど近い渋谷区代々木の立正寺で、この地域に住む人々が集う「こども食堂」が毎月開かれています。運営しているのは、その名も「渋谷区おばさん」。都心で子育てをする人々を取り巻く環境、そして都心だからこそこども食堂が必要なわけとは。渋谷区おばさんのメンバー、磯部真優さんにお話を聞きました。

クリスマスを目前に控えたこの日、立正寺で開かれているこども食堂で行われていたのは、スターバックス コーヒー ジャパンのパートナー(スタッフ)たちがサポートする「バリスタ体験」。スターバックスが販売する粉末状のスティックタイプコーヒーを使い、こどもたちにお店のバリスタのような気分を味わってもらおうというイベントです。

会場では、サンタクロースに扮したパートナーたちが、こどもたちに牛乳を泡立てるミルクフォーマーなどの使い方などをレクチャー。こどもたちひとりひとりに話しかけながら、ドリンクづくりを手伝っていました。

写真提供:スターバックス コーヒー ジャパン

こうした取り組みは、地域の居場所づくりを支援している、認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえとスターバックスのパートナーシップにより実現したもの。今年は全国36カ所のこども食堂でバリスタ体験が行われ、ドリンクの売り上げの一部を活用し、フロランタンやポップコーンなどスターバックスのフードをホリデーギフトとして届ける取り組みも行っています。

誰でもお節介なおばさんに

今回、バリスタ体験が行われたこども食堂を運営しているのは、渋谷区内で活動している「渋谷区おばさん」。通称「しぶおば」です。

そのユニークな名前の由来について、メンバーの磯部真優さんは「誰かのちょっとしたお節介が、困っている人の助けになることがあります。渋谷区に住んでいる人なら、誰でも私たちのような”お節介なおばさん”になれる。企業や有資格者ではなく、普通の主婦がやっているんだよということを伝えたかったんです」と話します。

Hirohiko Namba / OTEMOTO

磯部さんほか、渋谷区内に住む地方出身の女性たちによって立ち上げられた渋谷区おばさん。立正寺を会場に毎月開催され、お弁当のテイクアウトなども行っています。その背景には、都心ならではの子育てをめぐる課題がありました。

「地方から上京して知人がおらず孤立している、夜遅くまで父親が仕事のため1日中こどもとお母さんだけ、といった地域とのつながりがない方が多い印象です。私自身も地方から上京してすぐに妊娠・出産を経験したのですが、どこに小児科があるのか、どこにこどもの遊び場があるのかなどが全くわからず、孤独な子育てをしていました」

こうした自身の経験もふまえ実際に活動を始めてみると、それまでは"冷たい街"というイメージだった渋谷区の印象も変化したといいます。

「一歩踏み出したことで、この地域でもボランティアなどさまざまな活動をしている方がいると知り、そうした方々とつながることで世界が広がりました。今ではより多くの人とつながりができ、近所を歩いているだけで声をかけ合うといった関係も増えました。自身が子育てをするなかで困った経験があって始めた活動でしたが、私自身も子育てがしやすくなったという実感があります」

こども食堂は、こどもだけではなく、地域の居場所として多世代の交流拠点の側面もあります。渋谷区おばさんにおいても、より多様な人が関わることができる取り組みを行ってるといいます。

「親子やママ友といった縦や横だけのつながりではなく、"斜め"の立ち位置にいる人の関わりも大切です。渋谷区おばさんでは、青山学院大学の学生ボランティア団体『しぶっこ』の学生さんたちにもお手伝いに参加していただき、近所のお兄さん・お姉さんのような立場で活動に関わってもらっています」

地域で行う"子育て"

磯部さんは、今回のバリスタ体験では初めて、いつも参加しているこどもたちの保護者にもお手伝いを呼びかけました。結果として多くの人が集まり、積極的に「何をしたらいい?」と声をかけてくれたといいます。

「普段はこどもたちしか参加しなくても、こちらがヘルプを出すと駆けつけてくれる。そうした関係を築けていることはありがたいですね。地域のみなさんとのつながりをあらためて感じる機会にもなりました」

最近では、未就学児のこどもを連れてくる母親も多いといいます。となると、こども食堂に集まるのは未就学児から小学校高学年まで、幅広い年齢層のこどもたち。この日も30人以上のこどもたちが集まり、会場ではカオスな一面も見られましたが…。

「ダメなことはダメ、としっかり言うことを心がけています。私たちはお寺に会場を提供してもらっているので、境内で何かを壊してしまいそうになったり、誰かに危害が及んでしまいそうな場面では特にしっかりと叱るようにしていますね。それが『地域でこどもを育てる』ということにもつながると考えています」

Adobe Stock / 中村健二

意外と狭い行動範囲

認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえが先日発表したこども食堂全国箇所数調査結果によると、全国のこども食堂は合計9131箇所。これは、全国の公立中学校と義務教育学校の数とほぼ同数です。

しかし、小学校区に対する充足率(校区実施率)は全国平均30.56%と、自分の足で歩いて行ける範囲にこども食堂がある小学生の割合は約3割にとどまっています。

「立正寺の周辺には2つの小学校がありますが、実は私のこどもが通っている小学校の周辺にはこども食堂がないんです。大切なのは、こどもたちが一人で行ける距離にこども食堂があること。こどもの行動範囲は意外と狭いので、より多くのこどもたちがアクセスしやすいよう、今後は渋谷区内でさらにこども食堂を増やしていけたらいいなと思っています」

著者
難波寛彦
秋田県出身。玉川大学卒業後、外資系アパレル企業を経てファッション誌のウェブ版の編集に携わる。Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画を担当。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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