「地震ごっこ」「飛行機事故ごっこ」をするこどもに、周りの大人が伝えるべきことは
能登半島地震、航空機の衝突事故など元日から立て続けに起きた悲惨な出来事は、こどもたちの心に少なからず影響を及ぼしています。いま何が起きているのか、心がザワザワするのはなぜなのか。それらを知るのは「こどもの権利」だとして、こどもに向けたメッセージを専門家がまとめました。
「1月1日ににほんのにほんかいにちかいところで、じしんがありました。」
「ふだんとちがうことが多いと、ふあんになることもあるかもしれません。いろんな気持ちになるのはとてもしぜんなことです。」
こどもの孤立を防ぐ活動をしている認定NPO法人PIECESは2024年1月4日、公式サイト上に「地震やいつもと違うニュースなどにふれる全ての皆さまへ」と題したメッセージを掲載しました。
同時に、こどもにわかりやすい言葉で、いま何が起きているのか、心や身体にどんな変化が起きるのかを説明したこども向けのメッセージも掲載しました。
いつもと違う感覚は自然なこと
このメッセージは、災害や事故などいつもと違う状況が続いたとき、身体や心に起きうる変化とその対処法を紹介。こどもとの関わり方については次のようなことを共有しています。
- わからないことも含めて、いま起きていることを共有する
- いつもと違う感覚になることは自然であると伝える
- できるだけ普段通りの日課や慣れていることを大切にする
- ニュースから離れる時間を定期的につくる
このメッセージを制作した一人、PIECES代表理事で児童精神科医の小澤いぶきさんは、こう話します。
「震災の影響を直接受けた地域には、日常生活や慣れ親しんだ風景を失った方、いまなお続く余震により、緊張が続いている方もいます。大切な人、暮らしを失い、今日明日をどうしていくかを考えなければいけない中、まずは食べものや睡眠、必要なケアなど物理的な安全がとても大切になります」
「こどもたちはこのようなとき、その子なりに対処したり表現したりしていることがあります。こどもがいま起きていることを知り、それに対して起こりうること、できることを知っていくのは、こどもの権利の一つです」
安全の喪失感
小澤さんは、大規模な地震が元日に起きたことと、航空機事故や北九州市の大規模火災、山手線車内での傷害事件など立て続けに事件事故が起きたことから、それらを実際に体験したりニュース映像を通して見たりすることで、影響があるのは誰にとっても自然なことだと言います。
「お正月は、例えば親しい人で食卓を囲んだりお参りに行ったりと毎年同じように過ごす人もいるかと思います。また、地域の行事などもあるかも知れず、共同体があることで感じる安全を再確認するような節目として機能している面もあります。そのような毎年のルーティンが突然崩れ、お茶の間で毎年見ていたことがニュースに変わることで、安全の喪失をより強く感じた人もいるでしょう」
「集団がいつもと違う反応をしたり、痛みを感じているように見えたりするのは自然なことです。そんなとき、時にはこどもは周りの状況を見て、自分の不安や心の動きを表現しづらい可能性もあるかもしれません」
大きな災害の後は、通常の活動や発信を控える自粛の動きもありますが、小澤さんはこう話します。
「心の影響を考えると、できるだけ普段通りの生活をし、明日もいつもと変わらない日常が続くから大丈夫だと、大人もこどもも感じられるようにすることがとても大切です」
「被災地から離れた場所に住む人が、被災地に対してできることを考えることと、自分自身の状態を知ってケアすることは、どちらも大切なのではないかと思います。自分の心を守るためにニュースから離れる時間も必要だといわれています」
特にこどもにとっては、好きなテレビ番組が報道番組に切り替わることも日常が失われることの一つになる場合もあるかもしれない、と小澤さん。
「大きな災害があったんだから我慢しなさい」と諭すのではなく、「まだ地震が続いているから、みんなに伝えるために番組がニュースになっているんだよ」と説明したり、「代わりにどんなことをして過ごしたい?」と聞いて、代わりの日課を一緒に考えたりするのがよいといいます。
「ごっこ遊び」は止めない
地震や事故を再現する「ごっこ遊び」は、こどもの表現や対処のかたちとして知られるようになってきましたが、ニュースで見聞きしたことの「ごっこ遊び」をすることもあるそうです。
「こどもたちは、ごっこ遊びを通して自分なりの対処をしていることがあります。そんな時は、止めずに見守ることが大切です。こどもにとっては遊びもとても大切な権利です」
小澤さんによると、「ごっこ遊び」でも苦しそうな同じパターンを何度も繰り返していたり、例えば「全員が死んでしまった」「すべて燃えてしまった」など本人が痛みを伴うような結末を何度も繰り返している場合には、注意しながら見守る必要があるといいます。
「こども本人も苦しんでいる可能性があるので、『なんとかなったね』『暖かいところでホッとしたね』など、肯定的な結末のパターンも、こどもと一緒に考えていくといいでしょう。長く繰り返す場合は、専門家に相談できるといい場合もあります」
飛行機事故のニュースでは、煙が充満していたり炎が上がっていたりする映像が繰り返し流れました。
「こどもはこどもなりに、断片的な映像からなんとか出来事について理解しようとします。一方で、日頃からどんな安全対策がなされているのか、これからどんな方法で予防がなされるかなど、断片的なことだけではない流れについて知る権利はこどもにもあります。どんなことが起きて、それに対してどんな対策がされているのか、安全を守るにはどんな方法があるのかを、本人のタイミングで共有してみてください」
いつまで余震が続くのか、次にどこで地震が起きるのかなど、こどもの問いに答えられないこともあります。
「わからないことは、わからないということを伝えて大丈夫です。そのうえで、詳細に話す必要はないので、いまの時点でわかっていることを『いろんな人が研究しているから、わかったら話すね。気になったら何回でも聞いて大丈夫だよ』と、こどもの知りたいことを大切にしながら伝えてみるのもいいでしょう」
「このようなとき、大人の余裕がなくなるのも自然なことです。保護者だけですべてを頑張ろうとせず、自分なりのペースを大切にしていただけたら。そのうえで、少し余裕があるから何かできないかと感じたたら、このメッセージを参考にしてもらえたらとうれしいです」
詳しいメッセージの内容はこちら。
【おことわり】小澤さんからの提案により、記事公開後に一部の表現を変更しています