人口減少率ワースト1位の秋田で。県外の若者たちとともに、楽しみながら受け継いでいく郷土芸能

難波寛彦

少子高齢化や若者の県外流出などで、人口減少率が全国ワーストの秋田県。県内各地には伝統ある郷土芸能も数多くありますが、その担い手不足も深刻となっています。2024年3月24日に秋田市で開催された音楽イベント『わっかフェス』では、地元の担い手や東京から参加した大学生たちが郷土芸能を披露。さまざまなアプローチで継承方法を模索する、地方の郷土芸能の未来とは。

2024年3月24日、秋田県秋田市のあきた芸術劇場ミルハスで開催された音楽イベント『わっかフェス』(主催・三菱商事、朝日新聞社、AAB秋田朝日放送)。

音楽と各地の伝統芸能やお祭りを通し、地域の魅力を発信するというこのイベント。ステージで県内各地の郷土芸能を披露したのは、秋田に住む郷土芸能の担い手や東京から参加した大学生たちです。

出演したのは、「秋田市土崎港 港ばやし保存会」、「毛馬内の盆踊り「花輪ばやし」「Akita和太鼓パフォーマンスユニット音打屋-OTODAYA-(なまはげ太鼓)」の郷土芸4団体。そして、「秋田市土崎港 港ばやし保存会」、「毛馬内の盆踊り「花輪ばやし」の3つの郷土芸能団体には、東京学芸大学 和太鼓サークル 結(ゆい)に所属する大学生たちが加わりました。

県外の若者が披露する郷土芸能

各郷土芸能に参加した学生たちは、本番に向けた練習のため数回にわたって秋田を訪問。各地の地域住民たちとも交流し、郷土芸能の担い手たちから本場の指導を受けながら練習を重ねてきました。

「大小3つの太鼓を扱いながら、大きくしなやかな動きを見せることが難しかったです」と話すのは、結のリーダーを務める東京学芸大学2年の佐藤匠さん。参加したのは、ユネスコの無形文化遺産や国重要無形民俗文化財にも指定されている、土崎神明社祭の曳山行事で演奏される「港ばやし」です。

秋田市土崎港 港ばやし保存会
秋田市土崎港 港ばやし保存会

「動画を繰り返し見て動きを研究し、東京でも練習を重ねてきました」と話す佐藤さん。それぞれの手の動きや叩く位置を全てメモに書き起こすなど、さまざまなアプローチで練習に打ち込んできたといいます。

「かなり練習してきたようで、本番では自信たっぷりに演奏していましたね」と学生たちの様子について語るのは、演奏技術を彼らに手ほどきしてきた「港ばやし保存会」の保坂司会長。毎年7月に行われるお祭りの本番でもぜひ演奏してほしいと、参加してくれた学生たちに期待を寄せます。

「地元の若者たちは進学や就職で県外に出てしまうことが多く、最も活気ある年齢の彼らがいないとお祭りが成り立たないという現実があります。なんとか戻ってきてほしいとは思いますが、年末年始やお盆に帰省せずともお祭りにだけは参加してくれるという人もいて、その点はとても助かっています」

わっかフェスでのゆずと郷土芸能の演者たち
ステージで共演したゆずの二人とともに

継承してきた祭りへのリスペクト

父親がお祭りに参加していたこともあり、中学生の頃から港ばやしに親しんできたという保坂さん。当時は年齢が近い”お兄さん”や”お姉さん”も多く、さまざまな面で面倒をみてもらっていたといいます。

「お祭りに参加してもう50年以上になりますが、やはり年齢を重ねていくうちに責任のある役を務めることも増えていきました。カレンダーに印をつけ、『あと〇〇日だ!』とワクワクしていたこどもの頃と現在はまた違う心境ですね。今後を担う若い連中も育てていかなければなりませんから」

東京から学生として参加した佐藤さんも、そもそもの発祥である土崎神明社祭の曳山行事に対する敬意を感じながら演奏したと話します。

「今回演奏したのは、地域に伝わる郷土芸能です。保坂会長もステージ上でお話されていましたが、後に続く子や孫の代にも伝えていきたいという信念を強く感じました。そうした思いを踏みにじるようなことをしてはいけないと心に留めながら、本番でも演奏しました」

こどもたちの憧れの存在に

厚生労働省が発表した人口動態統計の速報値によると、2023年の国内の出生数は過去最少の75万8631人。秋田県では少子高齢化に加え若者の県外流出も顕著で、2023年1月1日時点の住民基本台帳をもとに総務省がまとめた県内の人口は94万1021人と、前年からの1年間で1万5815人減少しています。人口減少率は全国ワーストの1.65%で、郷土芸能を受け継ぐ担い手不足も深刻になっているのです。

「少子高齢化と若者の県外流出で、下の世代の担い手がいなくなってきているという現状があるので、県外から興味をもって参加してくれるイベントは非常にいい機会だと思います」

Akita和太鼓パフォーマンスユニット音打屋-OTODAYA-(なまはげ太鼓)
「Akita和太鼓パフォーマンスユニット音打屋-OTODAYA-(なまはげ太鼓)

今回のイベントについてこのように評するのは、「Akita和太鼓パフォーマンスユニット音打屋-OTODAYA-(なまはげ太鼓)」のメンバーの岩澤将志さんです。

「秋田でこんなイベントがあって、こんな郷土芸能があるんだよと県外の人に伝えていただけるきっかけにもなるだろうなと。参加した学生たちが再び秋田に来て参加してくれたりするのも面白いなと思っています」

秋田を象徴する神事として全国的にも知られる「なまはげ行事」。鬼のような赤と青の面をかぶり、「泣く子はいねぇが」とおどろおどろしく登場するこの行事は、国の重要民俗無形文化財とユネスコの無形文化遺産にも指定されています。そこに和太鼓演奏を組み合わせた「なまはげ太鼓」は、伝統の継承、そして地域振興のため昭和の頃に生まれた郷土芸能です。

わっかフェス

イベントの終盤では、出演アーティストとして参加したゆずとともに『夏色』を披露。ゆずの北川悠仁さんもなまはげの面をかぶり登場するなどして、会場を盛り上げました。

「郷土芸能としてだけではなく、コラボレーションや創作曲などを通して『こういうこともできるんだ』と若い人たちに感じてもらいたい。なまはげという郷土芸能を守りつつも、新しいことにも挑戦していきたいと思っているんです」と岩澤さん。

若者たちにも興味をもってもらえるよう、新たなアプローチも続けていきたい。そのためには、参加する人が楽しんで取り組むことも大切だと話します。

「全てに通ずることだと思うのですが、自分が楽しくなければ見ている人にも楽しさは伝わらない。私自身、何かあっても常に楽しんで太鼓を叩くようにしています。根を詰めて『完璧にできなければならない』と焦ってしまうよりも、まずはできることや楽しいと思えることを見つける。そのことを優先した方がいいと思いますね」

心のローカル
OTEMOTO
著者
難波寛彦
大学卒業後、新卒で外資系アパレル企業に入社。2016年に入社した編集プロダクションで、ファッション誌のウェブ版の編集に携わる。2018年ハースト・デジタル・ジャパン入社。Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画などを担当。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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