紙ストローだけじゃない。スターバックスが目指すコーヒーのサステナブルな未来

難波寛彦

グローバル企業としても知られるコーヒーストアチェーンのスターバックスは、「リソースポジティブカンパニー」を掲げ日本国内の店舗でもサステナブルな取り組みを進めています。その内容は、店舗で使用する容器やストローから、コーヒー豆の生産者を取り巻く環境まで多岐に渡ります。今こそ知っておきたい、世界的企業のサステナブルな未来のための活動についてご紹介します。

世界的なコーヒーストアチェーンとして、日本国内にも多くの店舗を展開しているスターバックス。休憩時やひと仕事をする際など、一度は利用したことがあるという方が多いのではないでしょうか。

筆者も時折足を運んでいるスターバックスですが、ここ数年でさまざまな変化が起きていることに気がつきました。例えば、冷たいドリンクを飲む際に使うストローはFSC®認証紙(適正に管理された森林から生産された木材や、その他リスクの低い木材から作られた紙) を使用した紙ストローに。また、店内利用時にはペーパーカップやプラスチックカップではなくマグカップや樹脂製グラスで提供されるようになっていることは、お気づきの方も多いと思います。

容器やストロー以外にも

しかし、こうしたエコな取り組みだけがスターバックスのサステナビリティアクションではありません。実は、コーヒーストアチェーンとしての要でもある、コーヒーの調達においてもサステナブルな取り組みを進めているのです。そのひとつが、独自の基準でエシカルな調達を目指すガイドライン「C.A.F.E.(Coffee and Farmer Equity)プラクティス」です。

写真提供:スターバックス コーヒー ジャパン

この写真は、インドネシアのスマトラ島でコーヒー豆の元となるコーヒーチェリーを栽培する生産者が、レシートと支払い代金を受け取る様子。生産者がC.A.F.E.プラクティス認証農家であることを示すIDを提示して取引することで適正な価格が支払われ、その事実もしっかりと記録されます。

「私がスマトラで会った女性は、スクーターに乗ってコーヒーチェリーを持ってきてくれました。取引時には支払い金額を明記したレシートを渡し、日付や品種は帳簿に記録します。この日は2kgほどの取引だったかと思いますが、どんなに小さな取引であっても全て記録しているのです」

そう話すのは、スターバックス コーヒー ジャパンのコーヒースペシャリスト、若林茜さん。コーヒーの知識や情熱を競う「コーヒーアンバサダーカップ」の運営やコーヒーの学習プログラム内容の考案など、コーヒーのエキスパートとして社内のコーヒー教育をリードする若林さんは、実際に現地に足を運び生産者とも交流しています。

「彼らが情熱をかけてつくったコーヒーに、しっかりと対価を払うというシンプルな考え方です」

コーヒー生産地の多くが連なる「コーヒーベルト」に位置する国のほとんどは、いわゆる開発途上国といわれる国々。コーヒーの買取価格が決められる先進国の市場は価格が激しく変動するため、市場の情報や販売経路を持たない小規模農家たちの多くは中間業者に頼らざるをえません。このために安く買い叩かれてしまうことも多々あり、十分な利益を得られないために不安定な生活を余儀なくされるということが起こっています。

スターバックス コーヒー ジャパンの若林茜さん
若林茜さん
写真提供:スターバックス コーヒー ジャパン

世界のコーヒー豆のうち、およそ5%を購入しているスターバックス。30ヶ国40万人以上もの生産者やその家族の未来は、コーヒーを商品として提供する同社の未来ともいえます。コーヒー豆のエシカルな調達を必要不可欠なものとして捉え、公正で透明性がある取引のための独自の認証プログラムであるC.A.F.E.プラクティスをつくることで、生産者の労働環境を守り、生活向上に貢献することを目指してきました。

生産者からこのC.A.F.E.プラクティス認証農家を示すIDの提示を受けてから取引をし、金額が明記されたレシートを発行することで、適正な価格での生産者への支払いが証明できます。生産者がコーヒーチェリーを販売する際に 「誰に」「いくら」支払い、生産者がお金を 「受け取った」ことを全て記録することが義務化されています。

「また、福利厚生や残業時間など、労働環境に関する項目もチェックポイントです。特に、児童労働についてはとても厳しいガイドラインが設けられています。彼らの生活コミュニティが整えられているかどうかは、コーヒーの品質と同じくらい大事なことだと捉えているからです」

おいしい一杯が助けに

国際労働機関(ILO)の2020年の報告書によると、世界では5歳から17歳の子どもの10人に1人である1億6000万人もが児童労働者であるといいます。その多くを占めているのは農業部門であるため、コーヒー農園も例外ではありません。

C.A.F.E.プラクティスでは、子どもたちの教育や医療へのアクセス向上のサポートや、14歳未満もしくは法的就労年齢未満の人の雇用を直接的だけではなく間接的(雇用者の家族などを含む)にも禁止しています。

2004年に正式ローンチされたこのC.A.F.E.プラクティスは、コーヒー産業における最初のサステナビリティ基準となったガイドライン。同ガイドラインはスターバックスと国際環境NGO「コンサベーション・インターナショナル」が開発したもので、上記の経済的な透明性と社会的責任、そして環境面でのリーダーシップと品質基準の4つの軸が基本となっています。

その特徴のひとつは、小規模農家も含めたあらゆる規模のコーヒー農家をサポートしているという点。つまり、世界的な大企業であるスターバックスですが、大量生産が可能な大規模農家だけではなく、小規模農家も対等に公正な取引をすることを可能としているのです。

「生産者が安定して収入を得るため、私たちバリスタができることは、お客様に心からおいしいと思っていただけるコーヒーを提供し続けること。現地で生産者と会って、改めてそう感じました」(若林さん)

持続可能な毎日を

Hirohiko Namba / OTEMOTO

さらに、スターバックスでは「グリーナーストア」と呼ぶ店舗の展開も進めています。同店は世界自然保護基金(WWF)と策定した国際認証「Starbucks Greener Stores Framework」を取得した店舗で、この国際認証を満たすことにより、従来の店舗に比べ、CO2排出量約30%、水使用量約20%の削減につながるのだといいます。

2022年10月以降の新店舗に関してはほとんどがこの認証を満たしており、現在グリーナーストアは全国で42店舗を展開。日常的に利用する身近な店舗がサステナブルな取り組みを行っているというのは、利用者にとってもポジティブに捉えることができるできごとです。

私たちが日ごろ店舗で目にする商品だけではなく、コーヒー豆の生産やそれに関わる人々の生活という「見えない」部分も重視したスターバックスのサステナブルな取り組み。こうした背景を知ることで、お店でいただく「いつもの一杯」のコーヒーも、また違ったものに見えてくるかもしれません。

いまさらだからこそサステナブル
特集:いまさら「だからこそ」サステナブルって?
OTEMOTO
著者
難波寛彦
大学卒業後、新卒で外資系アパレル企業に入社。2016年に入社した編集プロダクションで、ファッション誌のウェブ版の編集に携わる。2018年ハースト・デジタル・ジャパン入社。Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画などを担当。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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