視力のいらないボルダリング。見える子も見えない子も同じルールで"見えない壁"を越える
視覚障害がある子とそうでない子が、同じルールでクライミングをすることでお互いを知るイベントが、本格的に始まります。
目の前に立ちはだかるのは、身長の倍以上はある3〜4メートルの高い壁。視覚障害のある子は壁を触り、難しい課題に立ち向かう緊張感を友達と共有します。
2024年4月、視覚障害のある子を含む8人のこどもがクライミングを体験しました。見える子はアイマスクを着けて、見えない子と同じ状態で登っていきます。頼りになるのは、手で触れるものと、背後から聞こえる友達の声だけ。
「もうちょっと下に足を伸ばして」「左手も一緒に」「10時の方向にあるよ」と、できるだけわかりやすい指示を出そうと工夫を重ねるこどもたち。登る子はその応援を背に受けながら、ホールド(壁の突起)をひとつずつ触って確かめ、足を踏ん張って進みます。
このイベントは、「見えない壁だって、越えられる。」をコンセプトに障害者クライミングの普及活動をしているNPO法人モンキーマジックが実施しました。
代表理事の小林幸一郎さんは、パラクライミングの世界選手権で5回の優勝経験がある、現役フリークライマー。16歳でフリークライミングと出合い、28歳のときに目の難病でいずれ失明すると医師の告知を受けてからはパラクライミングの普及活動を続け、一般社団法人日本パラクライミング協会の共同代表理事も務めています。
小林さんは「クライミングというスポーツを通していろいろな人が仲間になれるのはすごいこと。新しい仲間をつくってほしい」と、参加したこどもたちに伝えました。
フリークライミングは、対戦スポーツや時間制限があるスポーツとは異なり、自分のペースで向き合うことができるスポーツ。また、視覚障害者のためにデザインされたものではなく、見える人も見えない人も同じ課題とルールでできることから、モンキーマジックは障害の有無に関わらず参加できるクライミングイベントを全国各地で実施しています。
小中学生に向けてもこのイベントを実施しようと、キッズ版の交流型クライミングイベント「モンキッズ」を企画。障害のある子もない子も幼い頃からお互いを理解する機会をもつことで、障害に対する偏見が減るようにとの思いもあります。
前述のプレイベントに参加したこどもたちは「見える人と交流でき、いろいろ知ってもらえてよかった」(見えない子)、「普段自分で登るよりも、みんなで協力すると楽しかった」(見える子)などと感想を話しました。また、イベントで使ったアイマスクを家庭に持ち帰り、家族で目隠しをして階段の昇り降り、着替え、野球の素振りなどを体験したという声もあったといいます。
参加したこどもの母親は、こう話します。
「息子が8歳で全盲になってから、見える子との交流が断絶されてしまいました。本来は、幼い頃から交流できる機会があれば、社会の見えない壁はきっとなかったはず。インクルーシブなんて言わなくてもいいような時代になればすばらしいですよね」
交流型クライミングイベント「モンキッズ」は2024年は7月15日から、東京都武蔵野市で実施されます。対象は小学4年生から中学3年生で、視覚障害の有無やクライミング経験に関係なく参加できます。