豆腐を食べるのは「めんどくさい」。そんな若者たちに届けたい、鳥取のメーカーが生み出した新たな豆腐のかたち

難波寛彦

良質な"水"を求め、1988年神戸から鳥取県智頭町へ移転した豆腐メーカーの楽粹(らくすい)。長年豆腐をつくり続けてきましたが、ライフスタイルの変化などによる、若者たちの「豆腐離れ」に直面。そこで新たに手掛けたのは、飲む豆乳ヨーグルトをはじめとするスイーツ事業の「粒と雫」でした。

中国山地の山々に囲まれた、鳥取県智頭町(ちづちょう)。町の面積のおよそ9割を森林が占め、豊かな自然によって育まれた岩清水は名水として知られています。国定公園の芦津渓谷を有する芦津地区で豆腐づくりを行う楽粹(らくすい)は、36年前に良質な”水”を求めてこの地へとやってきました。

「元は、神戸で地下水(宮水)を使った豆腐づくりを行っていました。ですが、住宅や道路の開発による地下水の量の減少などが重なり、良質な水を求め思い切って移転することを決めました。1988年に智頭町芦津に工場を設立したのが楽粹の始まりです」

鳥取県智頭町
写真提供:株式会社楽粹

豆腐づくりに欠かせない水が会社設立、そして移転のきっかけだったと話すのは、楽粹の代表取締役・行光秀夫さん。神戸で洋菓子店を営んでいた父が、事業転換で1968年に豆腐づくりをスタート。事業は好調だったものの、父が病に倒れたことを機に家業を引き継ぐことになったといいます。

約70%が水分でできている豆腐。豆腐づくりのあらゆる工程でも、多くの水が用いられます。硬度が低い軟水を使うとおいしさがより引き立つということもあり、超軟水の芦津の水は豆腐づくりにはうってつけだったといいます。

「豆腐の基本となるのは水。たとえ辺鄙な場所だったとしても、良質な水を使うことができる場所で豆腐づくりを続けたい。そんな思いでの神戸から芦津への移転でした」

楽粹の代表取締役・行光秀夫さん
行光秀夫(ゆきみつ・ひでお)/ 株式会社楽粹代表取締役
神戸で洋菓子店を営んでいた父が、事業転換で1968年に豆腐づくりをスタート。父が病に倒れたことを機に家業を引き継ぎ、1988年に鳥取県八頭郡智頭町芦津に移転し工場を設立。2023年からはスイーツ事業「粒と雫」をスタートさせる。
写真提供:株式会社楽粹

より手軽に大豆の魅力を

以来、現在まで芦津で豆腐づくりを続けてきた行光さん。しかし、現代人のライフスタイルの変化など、”水”だけではない新たな問題にも直面。そのひとつが若者たちの「豆腐離れ」でした。

かつては日本の食生活に欠かせない豆腐でしたが、和食から洋食中心にシフトした食生活の変化などによって需要が減少。豆腐の業界団体である一般財団法人全国豆腐連合会と厚生労働省の調査によると、最盛期の1960年には全国に約5万カ所あった豆腐製造事業所は、2013年の時点で約8000カ所にまで激減。50年ほどで約6分の1にまで減っています。

「需要が着実に減少していくということには大きな危機感を持っていました。でも、長年取り組んできた豆腐づくりも続けたい。そこで、豆腐だけにこだわらず幅を広げ、新たな需要を生み出していきたいと考えたんです」

粒と雫の店舗
写真提供:株式会社楽粹

そこで2023年に新たにスタートさせたのは、焼き菓子やプリンといったスイーツに特化した事業の「粒と雫」。主力商品の飲む豆乳ヨーグルトに使われているのはもちろん、豆腐づくりにおけるメインの材料となる豆乳です。

「私たち昭和生まれの世代にとって、味噌汁に冷奴、湯豆腐など、豆腐は当たり前にあった存在。豆腐に抵抗があるという方はほとんどいないと思います。ですが、何かと忙しい現代人、特に若者世代にとって、容器から出しお皿に盛り付けて食べる豆腐は、食べるという行為そのものが面倒くさい食品。そこで、蓋を開けたらすっと飲み切ることができる飲む豆乳ヨーグルトに注目しました」

たんぱく質など、栄養価が高いことでも知られる豆腐。その元となる豆乳を使えば、栄養価は変わらないのに摂取方法をより簡便化できる。そんなメリットがあった一方、豆乳ならではの「青臭さ」がネックとなる飲みにくさという課題もありました。

「豆腐という大豆の風味を感じられる商品をつくってきたわけですから、あえて豆乳の青臭さを”消す”のではなく、味を前面に”出す”ことを考えました。そこで生まれたのが、豆腐の食べにくさと豆乳の青臭さの両方を解決できる、飲む豆乳ヨーグルト。乳酸菌で発酵させることによって引き出すことができた旨み、そして豆乳に合うサトウキビの粗糖などを使用した甘みを感じられるように仕上げています。

一般的に、豆乳は『決しておいしいとはいえないもの』と捉えられていると思いますが、『豆乳だけどおいしい』から『豆乳だからおいしい』と感じていただける味わいを目指しています」

粒と雫の飲む豆乳ヨーグルト
写真提供:株式会社楽粹

大切にしたい鳥取らしさ

もっとも重要な材料である大豆は、これまでの豆腐づくりにも用いてきたものを使用。ショ糖分が高くより旨味を感じられる、鳥取県の古来品種「大山2001」です。

「せっかくいい水があるのだから、大豆もいいものを使いたい。そう思って探している時に出会ったのが、地元の農家さんが栽培していた大山2001でした。

つくっている豆腐のほとんどを占める水が鳥取のものなのだから、あえて他県の大豆を使わなくてもいいのではという思いもありました。やはり、鳥取を売り込みたいという思いもありますから」

大豆は発芽の際にタンパク質が豊富になるため、発芽を促進する特許技術を使用。これにより、食物繊維やGABAなどが豊富に含まれる大豆になります。また、豆乳の粒子をより細かくする技術によって口あたりもよくするなど、粒と雫でしか味わうことのできないオリジナリティも確立させています。

大豆と豆乳
写真提供:株式会社楽粹

地域産業をバーティカルに

さらに、大豆を豆乳にする際にできるおからはこれまでは廃棄されていましたが、発酵させ肥料に加工して販売。おからを加工した肥料を地元農家が使って大豆を栽培し、収穫された大豆を再び楽粹が使うという、地域での循環型の取り組みも行っています。

「おからの肥料は、地元の方の野菜づくりなどにも使用していただいています。今後は、耕作放棄地で新しく農業を始めたいと考えている方に使用していただくなど、地域振興にもつながればと考えています。

事業をホリゾンタル(水平)に拡大していくのではなく、地域でバーティカル(垂直)に深く掘り下げていく。そうすることでサステナビリティも見出せれば、非常に良い地域産業の形になっていくのではと思っています」

著者
難波寛彦
秋田県出身。玉川大学卒業後、外資系アパレル企業を経てファッション誌のウェブ版の編集に携わる。2018年、ハースト・デジタル・ジャパンに入社。Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画を担当する。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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