『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』の原作者が価値観"アップデート"をすすめるわけ。「おじさん自身にも幸せであってほしい」

難波寛彦

LINEマンガの大人気作が原作のドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』ファンからは『おっパン』の略称でも親しまれている同作を手がけた、漫画家の練馬ジムさんにお話を聞きました。

いま話題となっているドラマ、『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(毎週土曜日23時40分〜、東海テレビ・フジテレビ系全国ネット)。思わず二度見してしまうようなユニークなタイトルの作品は、国内累計閲覧数7900万回(2024年3月時点)を超えるLINEマンガの大人気作が原作です。

古い常識や価値観を押し付けるあまり、家庭でも職場でも疎まれていた中年男性の沖田誠が、自分を変えるべく一念発起して"アップデート"に取り組む…そんな斬新な視点で描かれた物語は幅広い読者の共感を呼び、ファンからは『おっパン』の略称でも親しまれています。

©Zim Nerima/LINE Digital Frontier

原作を手がけた漫画家の練馬ジムさんは、ネーム(コマ割りやセリフ)と作画の二人体制。男性同士の恋愛を描くBL(ボーイズラブ)作品を中心に創作を続け、2021年3月からLINEマンガで連載中の『おっパン』は、現在6巻まで発売されています。

ドラマもいよいよ佳境に入った『おっパン』を手がけるお二人に、誕生秘話から作品に込めた思いまで、同作にまつわるお話を聞きました。

"嫌なおじさん"に着想

ーードラマ化も話題の『おっパン』ですが、「新たな価値観にアップデートしていく」という視点が生まれたきっかけは?

練馬ジム:ネーム担当「作画担当と一緒にアルバイトをしていたことがあるのですが、私たちは当時から現在まで一緒に暮らしているので、職場の人に『彼氏いないの?』『結婚しないの?』と聞かれて嫌な思いをするかもしれないと最初は不安でした。でも、そんなことを言ってくる人は誰もいなかったんです。

むしろ、『漫画家として一緒にやっていこうとしてくれている人がいるなら、結婚なんかせずに絶対に続けた方がいい』と言ってくれる人さえいて(笑)。

そこで思ったのは、『ひょっとすると、世間は"年頃の男女は結婚すべき"という固定観念にとらわれている人ばかりではないのでは?』ということだったんです。そこで、LGBTQを含めたマイノリティに属さない人の目線で、作品を描いてみたいと思うようになりました」

『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
©Zim Nerima/LINE Digital Frontier

ーーお二人の実体験も元になっているんですね。

練馬ジム:ネーム担当「ほとんどがそうですね。主人公の誠も、日常のなかで実際に出会ったことがある"嫌なおじさん"をモチーフにしたキャラクターです。実体験といえば、萌(誠の長女)にまつわる腐女子エピソードは、ほぼ私たちの経験談のようになっています(笑)」

ーー世代間の分断を煽るのではなく、「アップデート」という表現にしたことも印象的です。

練馬ジム:ネーム担当「私自身も感じていますが、『そんなことも知らないの?』と無知を責められるのは誰しもつらいこと。なので、"知らない"ことを責めるような表現は絶対にしたくありませんでした。

道でぶつかってきて舌打ちをする…そんな嫌なおじさんを少しでも減らしたいという思いもありました。価値観をアップデートするとコミュニケーションの幅も広がりますし、"いいおじさん"にもなれる。おじさん自身にも幸せであってほしいんです」

ーー敵対するのではなく共存するということですね。そのために欠かせないキーワードとして登場する「パンツ」に目をつけたきっかけは?

練馬ジム:ネーム担当「二人でヨガ教室に通っていたのですが、そこでの着替え時に参加者のみなさんの下着がふと目に入って。すると、Tバックだったり派手な色や柄だったり、私たちが『こんな窮屈そうで肌触りも良くなさそうなのに誰がはくんだろう』と思っていたような下着を、みなさん普通にはいていたんです。でも、"他人の目を気にせずに、自分の好きなものをはいていていいな"とも思いました。

例えば、LGBTQ非当事者の方が当事者の気持ちになることは難しいと思うんですが、そうした個性を、多くの人が日ごろ身につけているであろう下着に例えたらわかりやすいのではと思ったことがきっかけです」

練馬ジム:作画担当「多くの人は無意識かもしれませんが、下着には何かしらのこだわりがあると思うんです。例えば、私たちは素材などのはき心地を重視して選んでいるのですが、みなさんにもきっと1つはこだわりがあるだろうなと思ったので、自分で選ぶことが多いパンツに例えてみることにしました。もちろん、『はかない』というこだわりがある方もいるかもしれませんね」

『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
©Zim Nerima/LINE Digital Frontier

家族を趣味と呼んでもいい

ーーそれぞれの個性を、パンツへのこだわりに置き換えたんですね。主人公の誠はこれといった趣味もなかったため、大地(ゲイの青年)に「趣味は家族だ」と言われ少し自信を持つことができたような描写もありました。

練馬ジム:ネーム担当「友人に『趣味がない』とずっと悩んでいる人がいたのですが、私たちはいわゆる"オタク活動"をしてるので、その気持ちがいまいちよくわからなかったんです。何か趣味が欲しくてなんとなくカメラに挑戦し、なかにはレンズに十数万をかけたという人も。それを聞いて、『趣味を見つけるってそんなに大変なんだ』とかなり驚きました。

誠は趣味がないというキャラクターだったのですが、だからといって趣味がない人を否定したくはなかった。そこで、家族が一番大事で、一緒に過ごすために頑張っていることは趣味と呼べるんじゃないかと思ったんです」

『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
©Zim Nerima/LINE Digital Frontier

練馬ジム:作画担当「趣味があって、情熱を向ける何かがあれば、家族との会話が少なかったとしても気にならない場合もあると思うんです。でも、誠は家族とコミュニケーションをとりたいとは思っているのに、否定的な言葉しか出てこなくて結果的に家族から嫌われているというキャラ。つまり、本質的に家族が趣味の人なんですよね」

ーー息を吐くように他人を否定してしまうあまり、腐女子の萌の逆鱗に触れるというシーンもありました。

練馬ジム:ネーム担当「これは実際にあったことですが、知人に『わけのわからない漫画を描いて、本当に仕事になっているのか』と言われたことがありました。

SNSでも『少女漫画の男に恋するならわかるけど、男同士に萌えるという女は、彼氏がいないせいでおかしくなっているんじゃないか』という腐女子に対する批判があったんです。私も同じ趣味を持つものとして、それを見た時にすごく腹が立ったんですよ」

『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
©Zim Nerima/LINE Digital Frontier

練馬ジム:作画担当「腐女子以外の人から見たら私たちは奇異に映るかもしれませんが、そうした心ない言葉をかけられてしまうと、『もう関わりたくない』とシャットアウトしてしまいたくなりますね」

練馬ジム:ネーム担当「萌は、家族のなかでも最も誠と敵対しているキャラ。以前、読者の方に『萌の誠に対する態度がひどい』と感想をいただいたこともありますが、他人にそこまで否定されたらこういう態度にもなるよ、という気持ちも込めて描いています」

ーー現在放送中のドラマも話題となっていますが、実写化に際して大切にしてほしかったポイントなどはありましたか?

練馬ジム:ネーム担当「誠は否定的でキツいセリフが多いキャラなので、実写化の際はそんなセリフを口にしても怖くない人に演じていただきたいと思っていました。そういう意味では、お茶の間でも愛されキャラで人気の原田泰造さんに演じていただけたことは、本当によかったと思っています」

ーーお二人にとっても理想的な人選だったんですね。内容についてはいかがですか?

練馬ジム:ネーム担当「LGBTQに関するエピソードもありますが、自分たちが間違った認識をしていないか不安ではありました。当事者の方が不快な思いをされることは絶対に避けたかったので、LGBTQ監修を入れることをドラマ化の条件にしようとは考えていましたが、最初にドラマサイドからLGBTQ監修が入ると連絡をいただき、安心してお任せすることができましたね」

『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
©Zim Nerima/LINE Digital Frontier

大切にしてほしい自己肯定感

ーードラマもいよいよクライマックスですが、『おっパン』を通してお二人が伝えたいことはありますか?

練馬ジム:ネーム担当「『おっパン』では誠のアップデートがポイントになっていますが、必ずしもアップデートしなければいけないと伝えたいわけではないんです。強制されて何かをやってしまうと、うまくいかなかったときに誰も褒めてくれず、他人のせいにしてしまいがち。でも、自分から進んでやったことならどんな結果でも受け入れられるはず。

何かを変えたいと思ったならば自分の意思で変えるべきですし、変化することを決断した自分も褒めてあげてほしいです。そのことが、結果的に自己肯定感をアップさせることにもつながると思います」

練馬ジム:作画担当「自己肯定感というと壮大に感じがちかもしれませんが、例えば『今日の夕飯はカレーにしよう』と決めたら、その決断をすることができた自分を褒めてあげる。それが自己肯定感という満足につながるのではないでしょうか。

価値観のアップデートも同じです。世間がうるさいから仕方なくするというよりも、自分からしたいと思って決断したのなら、まずは自分を褒めてあげて、自信をもってほしい。人には得手不得手があるので、人と比べてしまっては疲れるだけです。自分ができることを何よりも自分が認めてあげることが、幸せにつながるんだと思います」

著者
難波寛彦
秋田県出身。玉川大学卒業後、外資系アパレル企業を経てファッション誌のウェブ版の編集に携わる。2018年、ハースト・デジタル・ジャパンに入社。Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画を担当する。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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