「息子は髪型のせいで卒業式に出席できなかった」黒髪ストレートが"正しい"と決める校則を問う
黒人ルーツの髪型をしていた生徒が卒業式から隔離されたことを受け、髪質や髪型で差別しないよう求める署名活動を始めた団体が2023年9月7日、文部科学省に署名を提出し、校則の見直しを要望しました。生徒の父親は「多様性を受け入れて」とメッセージを寄せました。
兵庫県姫路市の県立高校で2023年2月、3年生の男子生徒が黒人ルーツの髪型「コーンロウ」で卒業式に出席しようとしたところ、学校から不適切だとして2階の席に隔離されました。
兵庫県教育委員会は記者会見で、学校は生徒に髪を切るよう指導しており、卒業式当日にコーンロウにすることは知らなかったと説明したうえで、「もっと生徒に寄り添った対応ができたはずだった」と述べました。
頭髪指導をめぐっては2017年、大阪府立高校に通っていた女子生徒が、祖父がアメリカ人で生まれつき髪が茶色であるにも関わらず教員から黒染めを強要されて精神的苦痛を受けたとして、府に損害賠償を求める裁判を起こしました。最高裁は2022年6月、生徒側の上告を棄却し、黒染めを強要する校則は違法ではないという二審判決が確定しています。
差別だという自覚がない
今回、署名を呼びかけたのは、人種差別の啓発活動をしている団体「Japan for Black Lives」。2023年3月からこの日の提出までに3万7694筆を集めました。
文科省には、管轄する教育機関に対して、①差別的な行為を禁止し、問題ある校則の見直しを求めること ②多様な髪色や髪質が存在することを教員らが学ぶ機会をつくること③ 当事者や家族の話を聞くことーーを要望しています。
同団体代表の川原直実さんは、「そもそも校則によって差別をしているという認識がないまま指導をしている学校現場が多いと感じます。基本的人権に関することなので、学校や教師から変わっていってほしいです」と話します。
同団体には、校則や理不尽な指導を経験したという声が集まっています。
- 南米系移民の子ども。強いくせ毛のせいでいじめに遭ったため、小中学生の頃は縮毛矯正をし続けていた。高校生になると校則が「パーマ禁止」で、教師から「縮毛矯正をやめろ」「黒染めしろ」と言われた。
- 中東のミックスルーツで、髪染めを疑われ、「地毛証明書」を提出した。
- 天然パーマかどうかを確認するために髪の毛に水をかけられた。
- 複数の教員に囲まれ、髪を触られながら「傷んでいるから明るいんだ」などと言われた。
文化やルーツを否定される
会見に同席した弁護士の林純子さんは、こうした理不尽な指導が子どもに与える影響は主に2点あると語ります。
「校則は『中学生らしい髪型』などざっくりとした表現で、実際は教師が『ひとつに結びなさい』などと画一的な指導をしています。個人の髪質を考慮せず特定の髪型を強要するため、生徒に負担をかけています」
「また、髪型には文化的な側面があるのに、それを軽視していることも問題です。子どもの頃に自分のルーツやアイデンティティを否定されると、人格形成や家族関係に影響する可能性があります」
カリフォルニア大学バークレー校客員研究員の下地ローレンス吉孝さん(社会学)は、こうした校則や指導そのものがマイクロアグレッション(日常的に特定のマイノリティを見下す言動)にあたると指摘します。
「黒髪ストレートが『正しい髪』で、それ以外の髪型や髪質、髪色は『悪い髪』だとみなすルールは、人種的な善悪を決定づける人種差別に相当します」
下地さんは、校則は「規範」として機能するため、いじめや集団差別などの二次被害にもつながる可能性があると警鐘を鳴らします。
「校則が差別を正当化していないかをチェックするガイドラインが必要ではないでしょうか。学校は、人種だけでなくジェンダーや宗教なども多様なひとりひとりの生徒が通う場所だということを、教師も保護者も生徒もともに学んでいける場であってほしいです」
さまざまな髪質がある
この日の記者会見では、卒業式で隔離された生徒の父親からのメッセージも読み上げられました。
「息子が卒業式に選んだ髪型は、特に北アメリカの黒人の間では伝統的なものです。ニュースで強調されなかったこと、それは私の息子が日本人であるということです」
「多様化が進み、さまざまな日本人の顔、さまざまな日本人の肌の色、さまざまな日本人の髪質だけではなく、新しい日本の文化実践、新しい日本の考え方など多岐にわたります」
「日本は現在、高齢化、経済の停滞、出生率の低下などという本当の危機に直面しています。この視点からみれば、古い価値観による髪型の禁止は非常に意味のないことに焦点を当てているように思います」
「新しい日本と新しい日本人の多様性を受け入れることが、私がいま誇りに思っているこの美しい国の唯一の希望だと思うのです」
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