コンパスで刺された僕に、担任がかけてくれた言葉。「あなたのおかげで今も生きています」

難波寛彦

まもなく終わりを迎える夏休み。長くも短いお休みが終わる一方、さまざまな事情で新学期の始まりを憂鬱に感じている子どもたちがいます。OTEMOTO編集部は、学生時代に「学校に行きたくない」「生きるのがつらい」といった悩みを抱えていたAさんに、当時のお話を詳しく聞きました。

「あの時、あなたが声をかけてくれたおかげで今も生きています。ありがとうございました」

中学校時代の担任へのメッセージを寄せてくれたのは、40代のAさん。中学1年生の頃、ひどいいじめを受けていたといいます。

「いじめの加害者は一人で、後ろからつねるなどの嫌がらせを始めました。その後は、コンパスで太ももを刺されたり、耳元で『殺してやる』と言われたりするなど、陰湿ないじめが続きました。13歳当時の僕は、他者の気持ちや空気を読めずに仲間はずれにされることが多々あり、いつもオドオドしていたと思います。僕が他人に相談できないのをいいことに、いじめは徐々にエスカレートしていきました」

生きていてもいいんだ

Adobe Stock / maroke

当時の心境を、「とにかく何も感じたくない、無になりたかった」と振り返るAさん。家族や友達にも相談できないなか、唯一当時の担任の先生だけがAさんの異変に気づいたといいます。

「ある日の授業が自習となり、僕だけが先生に呼び出されました。一対一の状況のなか、突然先生が泣き出し、『何か悩みがあれば打ちあけてほしい』と言ったんです」

目の前で大人が涙を流している状況に驚いたというAさん。いじめについて打ち明けることはできませんでしたが、先生の必死の思いはAさんにも伝わっていました。

「その場では何も言えなかったのですが、そこまで真剣に自分を見てくれている人がいるという事実で、『生きていてもいいんだ』と思うことができたんです」

充電の時間を大切に

その後、異変に気づいたクラスメイトが止めてくれたおかげで、いじめから解放されたAさん。現在は、医療関係の仕事に携わっているといいます。当時のつらい体験と同時に、救いの経験は今でもずっと心に残っていて、「いつかは僕も先生のように他者に寄り添うことができれば」と話します。

「当時の僕には、『よく頑張ったね』と声をかけてあげたいです。できることなら抱きしめてあげたいですね。学校に行きづらいと感じている子どもたちには、つらい時はどうか思い切って休んでほしい。バッテリーを充電するように、身体も心も休める時間が必要です。長い人生、そのうちの何年か休んだってたいしたことはありません。大丈夫です」

問題を根本的に解決するに越したことはありませんが、その人にできる最大限の思いやりが人の心を動かすこともある。Aさんの告白からは、そんな可能性を感じずにはいられませんでした。

著者
難波寛彦
秋田県出身。玉川大学卒業後、外資系アパレル企業を経てファッション誌のウェブ版の編集に携わる。Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画を担当。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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