「なぜ校則を変える校則がないの?」現役高校生がつくった全国1700校の校則データベースを使ってみた

小林明子

中学生のときに校則に疑問を持ったことをきっかけに、情報公開制度を利用して全国の校則を集めたデータベース「全国校則一覧」を創設した高校生の神谷航平さん。このデータベースは各地で校則を改革する動きに活用されています。ところが、全国の都道府県立高校1700校を超える校則を比べて見えてきたのは「校則の変え方を定めた校則がない」という残念な事実でした。

神谷航平さんは群馬県の県立高校に通う3年生。「日本一『校則』を持っている高校生」として活動し、NPO法人Change of Perspective代表理事も務めています。2023年8月には、Forbes JAPAN 30 UNDER 30(日本発「世界を変える30歳未満」)に選ばれました。

神谷航平さん
神谷航平(かみや・こうへい) / 全国校則一覧 創設者 / NPO法人Change of Perspective代表理事
2005年、群馬県生まれ。中学生の頃、校則を調べて公開する活動をスタート。2022年11月にデータベース「全国校則一覧」を開設。2023年11月時点で掲載校は1700校を突破。全国高校生My PROJECT AWARD 2022「文部科学大臣賞」受賞。現在、群馬県の県立高校3年生
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

神谷さんが校則に関心をもったのは、中学生のとき。

「登下校のときの靴の色は白のみ」「学校から帰宅後、午後4時までは自宅から外出してはいけない」

当たり前のようにあった、こんな校則を疑問に感じたからです。

「午後4時まで外出禁止の『4時禁ルール』のために、部活がない日は先生たちが生徒に念押ししたり、校外パトロールをしたりしていました。でも正直、意味がわからなかった。本来なら学校が責任を負わなくてもいいはずの放課後の過ごし方にまで、あえて踏み込むのはなぜなんだろう、と不思議でした」

友達同士では「4時禁ルールはおかしい」とたびたび話題になりましたが、声をあげる生徒はいませんでした。神谷さんは他の中学校ではどうなっているのか気になり、他校の校則を調べてみることにしました。

最初は同じ塾の友達に聞いて、近隣の中学校の校則を教えてもらいました。さらにTwitter(当時)に「他校の校則を集めている」と投稿したところ、「公立の学校なら自治体に情報公開請求するとよいのでは」と教えてくれた人がいました。

親に「やっても無駄」と言われて

新型コロナウイルスの感染拡大で一斉休校となっていた中学3年生の春、神谷さんはひとりで近くの市役所に出向き、情報公開制度を利用して市立中学校の校則を開示請求しました。

「資料は自宅に郵送されたため、親が見つけて『なんだこの手紙は』となって(笑)。『あと1年で卒業なんだから、こんなことやっても無駄でしょう』というようなことを言われて、ますます『やってやるぜ』と奮い立ちました」

他校の校則と見比べると、似ている点と異なる点が一目瞭然でした。白い靴は当時、近隣の中学校の共通ルールだったということもわかりました。

生徒会の活動はしていなかったという神谷さん。校則を変えたいと主張するだけでなく、データを提示して『うちの学校の校則はここが厳しい』『ここはこう変えたほうがいい』と具体的に問題提起する作戦を立て、生徒指導の先生にかけ合いました。

「結果的に中学の校則は変えられないまま卒業してしまいましたが、このときの経験が、活動を全国に広げることにつながりました」

持っているだけだともったいない

神谷さんは高校1年生になる4月1日、今度は群馬県教育委員会に県立高校の校則の開示を請求しました。ところが、届いた通知は「不存在決定」。県教育委では、各高校の校則に関する文書を「保管していないから」というのです。

中学生のときの経験やTwitterでのアドバイスから、「管轄する県教委が開示しないのはおかしい」とさらに交渉し、校則の開示にこぎつけました。

いざ校則の束を目の前にしたら「自分で持っているだけだともったいない」「これを公開したら、校則を変えたいと思っている人や、高校受験を考えている人たちの役に立つんじゃないだろうか」と感じたという神谷さん。

校則を公開したいとTwitterに投稿すると、サイト制作や資料づくりを手伝ってくれる人が集まり、全国各地の校則の情報公開請求とデータベースの開設が実現しました。

全国校則一覧
各都道府県に開示請求して集まった校則のデータ
写真提供:Change of Perspective

とはいえ、開示される校則は紙に印刷されたものがほとんど。スキャナーで画像として読み込み、文字データに変換してサイトに転載しています。最近はデータで提供してもらうようリクエストしていますが、CD-Rが郵送されてくるのでまだアナログな作業が一部は必要です。

現在は、現役の中学生から定年退職した人まで幅広い年代の人たちがボランティアとして関わり、情報公開にかかる経費は寄付でまかなっています。

「ひとりで始めた活動でしたが、共感が広がって心強いです。校則って学校内の問題だと思われがちですが、学校の外からでも学校を動かすことができるんだと実感しています」

偏差値と校則の関係は?

データベースに掲載した校則は、2023年11月時点で1700校を超えました。文部科学省の学校基本調査によると2020年度の全国の公立高校は3537校なので、約半数がすでに掲載されたことになります。

神谷さんは、校則には地域差や学科による違いなど一定の傾向があるといいます。

「よく『偏差値が高い学校は校則が緩い』といわれますが、あまり関係ない気がします。どちらかというと進学率。工業高校や商業高校など卒業後の就職率が高い学校ほど、校則は厳しい傾向がみられます」

「全国校則一覧」を参考にして、校則を変えようとする取り組みも広がっています。文部科学省が12年ぶりに改訂した生徒指導の手引き「生徒指導提要」では校則の見直しや学校ホームページでの公開を促しており、各地の動きが注目されます。

「このデータベースを自由に活用してほしいです。高校に進学する生徒のために使いたいという中学校の先生からの問い合わせもあり、受験生にも参考にしてもらえるとうれしいです。いまは校則のネガティブな点に注目されがちですが、いずれ校則を売りにするような学校が出てきてもいいのでは、と思っています」

神谷航平さん
2023年8月、Forbes JAPAN 30 UNDER 30(世界を変える30歳未満)に選出された
写真提供:神谷航平さん

学校の外からも変えられる

しかし、校則の見直しの動きはまちまちで、大きく前進するところもあれば、「靴下の指定色がひとつ増えた」など本質的な改革とまでは言いづらいケースもあります。

校則の見直しが進みづらい背景について神谷さんは、生徒、先生、仕組みの3つの理由をあげます。

1つ目は、生徒が受け入れてしまっていること。

「校則に違和感を持っていても『どうせ変えるのは無理』とあきらめている生徒がたくさんいます。校則は守るか破るかの選択肢しかないと思い込んでいるからです」

神谷さんは、入学前に校則に関する情報がほとんどオープンにされていないことを問題視しています。

「学校説明会では良い面ばかりがアピールされますが、高校生活にリアルに影響するのは、服装やスマホやアルバイトのことですよね。校則について理解したうえで入学する生徒は多くはなく、『こんなはずじゃなかった』となりがちです」

2つ目は、先生たちの大人の事情。

校則だけでなく授業や行事などでも、生徒ではなく先生が主導して決めることが多いのが、いま多くの公立学校の現状です。

「その先生たちも業務に追われ、教育委員会を含む上下関係に縛られていて、生徒と同じように『変えるのは無理』とあきらめているように見える」と神谷さんは話します。

3つ目は、校則を変えるプロセスが不明なこと。

「校則を変える校則がないんです」

そう神谷さんは指摘します。

一般的な契約書や利用規約では、契約や規約の変更に関する項目が必ずあります。しかし、ほとんどの学校の校則にはその項目が見当たりません。

生徒会で決めればよいのか、校長に決定権があるのか、教育委員会や保護者に働きかけが必要なのか。校則を変えるために必要なプロセスがあらかじめ開示されていない状態なのです。

文科省の「生徒指導提要」には、「校則の在り方は、特に法令上は規定されていないものの、判例では、社会通念上合理的と認められる範囲において、教育目標の実現という観点から校長が定めるものとされています」と記されています。

また校則の見直しについては、「生徒や保護者など学校関係者から意見を聴いたうえで定めることが望ましい」「校則を策定したり見直したりする場合の手続きの過程について示しておくことが望まれる」と書かれています。

神谷さんは活動を通して「校則をめぐる仕組みの問題提起をしたい」と語ります。

「校則を変えたいと思ったときに、どんなアクションを起こせば変えられるのかがそもそもわからない状態です。僕も中学校では校則を変えることができませんでした。学校内の問題としてだけでなく、校則をめぐる仕組み自体を変えることができないかと俯瞰して考えるようになりました」

「もっと言えば、校則は学校内の民主主義を考えるうえでの一つの要素に過ぎません。声をあげても無駄だとあきらめているこどもを少しでも減らして、自分の力で変えられるという成功体験を増やしていきたいと強く思っています」


検索でわかる「ブラック校則

「全国校則一覧」はキーワードを入れて検索できるため、「ブラック校則」の現状をあぶり出すこともできます。筆者も実際に使ってみました。

「ツーブロック」で検索すると、207校の校則に記載があることがわかる
※「全国校則一覧」には校則の開示時期が明記されていますが、古い情報が開示されている可能性もあります。
出典:全国校則一覧


例えば「ポニーテール」で検索すると、「特異な髪型」として禁止している学校もあれば、「さわやかな印象をつくります」と推奨している学校もあります。

東京都は都立高校の「ブラック校則」を2022年度に廃止し、サイドのみを刈り上げる「ツーブロック」を解禁したり、もともと黒髪ではない生徒に提出させていた「頭髪に関する自己申告書」を廃止したり、下着の色指定をなくしたりしましたが、これらのルールを続けている都外の学校も検索によって見つけることができました。

ほかには、大掃除の「清掃マニュアル」として1から8までの手順を細かく指示して徹底を求めている学校、「8:25までに正門を通過し、8:30までに着席して朝学習を行い、8:40のチャイムが鳴り終わった時点で自分の席に着いていない者は遅刻とする」と着席ルールを細かく決めている学校、「個性は社会人になってから」という制服デザイナーの提言を付記している学校などもありました。

多様な性のあり方や選択肢を踏まえたジェンダーレス制服や制服選択制の導入が広がる動きの一方で、一部の学校の校則にはいまだに「不純異性交遊」「男女交際」といった表現が見られたり、性別によって身だしなみに求める要素が異なったりするケースもありました。

気候の変化に合わせた対策ができず健康に関わりそうな服装規定や、ルールを破ったらいったん帰宅させて再び登校させる「再登校指導」も、校則のうえでは昭和の時代から滅びてはいませんでした。

校則が定められた時期によっては、時代錯誤で有名無実化している項目もありそうです。

学生のときは従うことしか考えられませんでしたが、社会人になってさまざまな一般的な規約の文書を目にする経験を積んだからこそ、校則という文書が醸し出す一方的な強制力が、ある種の異様さを伴って見えるようになったのかもしれません。

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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