「人生のパートナーは必要。でも『結婚』じゃなくてもいいのかも」アラサー女性たちのリアルな結婚観

最所あさみ

「両親の世代までは、女性にとって結婚は『大船に乗るようなもの』だったかもしれない。でも、私たちの世代に一生を預けられるような『大船』なんてないと思うんです」──。女性の社会進出が進み、自ら稼げるようになった世代の女性たちは、結婚に伴うコストとリスクをシビアに見ていると語る。

結婚についての企画で、未婚女性に「夫婦になるとしたら」を聞いたところ、そもそも結婚願望がないという人が少なくなかった。

そう語るのは、ミレニアル世代でキャリアを築き経済的に自立している女性たち。

その理由は、結婚はもはや一生を預けられる大船ではないから。自立している女性にとっては、結婚はメリットだけではなく、逆にリスクやコストを感じて二の足を踏んでしまう面もあるという。

「生きる意味」としての結婚

ある日、Aさんは母親に「なぜ結婚しようと思ったのか」と質問してみた。すると返ってきたのは、「自分のためだけに生きるには、人生は長すぎるでしょ」という答え。それまで特に結婚願望はなかったAさんだったが、その答えを聞いて「結婚というかたちでなくても、パートナーはいた方がいいのかもしれない」と考えるようになったという。

Asami Saisho/ OTEMOTO

これまで男女が一緒に暮らす場合は結婚が当たり前とされてきたが、事実婚の広がりもあり、あえて籍を入れずに共に暮らす選択をするカップルも増えている。

現在恋人と同棲しているBさんは、事実婚も含めてあえて「結婚」というかたちをとらない選択をしているという。

「長年付き合っているのもあって両親からは『そろそろ結婚したら』とやんわり促されることもありますが、私たち二人にとっては今の距離感がちょうどいいんです」

Asami Saisho / OTEMOTO

Bさんは毎週末東京から長野に通い、友人たちと畑仕事をするなどして「プチ移住」を楽しんでいる。ゆくゆくは移住もできたらと考えており、結婚によって今のライフスタイルが制限されることに抵抗があると語る。

「パートナーのことはもちろん大切。でもそれ以外にも自分の大切にしたい『生きる意味』を複数持っていると、結婚という枠に押し込められることで失うものもあるのではないか、と考えてしまいます」

「結婚」に伴う責任としがらみ

これまで結婚の責任は主に男性に課されてきたが、今の適齢期とされる女性たちに話を聞くと、女性側にも責任を追う意識が高まっているようだ。

Cさんは、何かあった場合に自分が家計を支えていけるかどうかも意識しているという。

「社会人として働くなかで、体調を崩して休職したり退職する人たちの姿も目にしてきました。もしパートナーが一時的に働けなくなったら、そのあいだ私の稼ぎだけで家計を支えていけるだろうか、ということはよく考えますね。男性に支えてもらうだけではなく、何かあれば自分も支える覚悟がないと結婚には踏み切れない気がします」

Asami Saisho/ OTEMOTO

金銭面だけでなく、結婚に伴う親戚づきあいも、「結婚」を選ぶ際のネックになっているという。

「結婚となると、やはり二人だけの問題ではなく、相手の両親が家族になるということでもある。二人の関係は対等なパートナーでも、入籍した瞬間に昔ながらの伝統や慣習に合わせなければならない場面が増えると思うと気が重い」

「将来的にお互いの両親の介護をどうするかなど、結婚に伴う責任の重さを思うと二の足を踏んでしまう」

「籍を入れずともパートナーとの関係も安定しているので、あえて結婚という形式をとる必要性を感じない」

自由な生き方や対等なパートナーシップといった価値観を当たり前のものとして育った世代にとって、旧来の家族観に根ざした振る舞いを求められることが「結婚」のひとつのハードルとなっているようだ。

「結婚したくない」わけではないけれど

一方で、3人に共通していたのは「結婚しないと決めているわけではない」という点だ。最近の調査でも、「いずれ結婚するつもり」と回答した人の割合は以前と大きく変化していないことがわかっている。

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そしてもうひとつ印象的だったのは、彼女たちの語り口に「焦り」が一切感じられなかった点だ。「負け犬」というワードが一世を風靡した時代もあったように、適齢期に入って結婚していない女性は結婚に焦っているものである、というイメージが長年もたれ続けてきた。

しかし今回話を聞いた女性たちは、「結婚しなければならない」と焦ることもなく、恋人に結婚を迫ったりもせず、自分が覚悟を持てるかどうか、という視点で「結婚」と向き合っている。

誰かと一緒に、支え合いながら人生を歩んでいきたい。でも、そのためのかたちは従来の「結婚」だけではないのかもしれない。ひとつの理想を追いかけるのではなく、それぞれが自分にあったパートナーシップのかたちを模索する時代が、はじまっている。

取材後、Bさんがこんな感想を送ってくれ

「『結婚』という言葉にはリスクや責任といった重たいイメージがありますが、『夫婦』という言葉は、二人で支え合いながら生きていく感じがあっていいですね」

毎年11月22日に盛り上がる「いい夫婦の日」は、結婚やパートナーシップを理想や正解に押し込めるためではなく、それぞれの「ちょうどいい」を見つめ直すためにあるのかもしれない。

著者
最所あさみ
リテール・フューチャリスト/ 大手百貨店入社後、ベンチャー企業を経て2017年独立し、「消費と文化」をテーマに情報発信やコミュニティ運営を行う。OTEMOTOでは「職人の手もと」連載を中心に、ものづくりやこれからのお店のあり方などを中心に取材・執筆。
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