男性27歳「妻にはずっと働いてほしい」 "推し活"ではない結婚のリアル

小林明子

結婚年齢のピークは、男性27歳、女性26歳。20代は結婚についてリアルに考える世代なのに、向き合いづらい現状がある、とニッセイ基礎研究所の天野馨南子さんは指摘します。その理由と、いまの20代の結婚観について聞きました。

何歳で結婚する人が多いのか

ーー平均初婚年齢は男女ともにおおむね上昇が続いており、2021年は夫31歳、妻29.5歳でした。これは晩婚化ではないのでしょうか。

平均値の上昇という意味では上昇してはいるのですが、平均値というものをよく理解していないと、あたかも「結婚適齢期」が動いているかのような錯覚を起こしかねません。

少子高齢化社会である日本では、60代以上になって初めて結婚する人によって平均年齢が押し上げられています。「何歳あたりで結婚する人がメインなのか」という話をするならば、実態とは異なる年齢へと平均値がどんどん乖離している状況なのです。

そこで、全婚姻届のうち、初婚同士の結婚を年齢別に集計してみたところ、2020年は結婚年齢のピーク(最も多い年齢)が男性27歳、女性26歳となりました。

男性は27歳が1位、26歳が2位です。そして初婚同士で提出された婚姻届のうち7割が32歳までの、8割が34歳までの、9割が38歳までの男性が提出した婚姻届となります。

男性の結婚年齢
厚生労働省「人口動態調査」より天野さん作成

女性のほうは26歳がピークで、続いて僅差で27歳。初婚同士の結婚の7割が30歳までの女性が提出した婚姻届になります。

つまり、男性なら32歳、女性なら30歳を超えた結婚歴のない人が婚姻届を出せる確率は高くない、ということです。「逃げ恥婚」で話題になった星野源さんのような40代前半での結婚は、71組に1組というスーパーミラクルな事例なのです。

結婚は「推し活」ではない

もちろん、結婚をするかしないかも、いつするかも個人の自由です。

ただ、結婚は「推し活」ではないので、いつでも自分の好きなタイミングでできるわけではありません。年齢を重ねるごとに既婚者の割合が多くなっていきますし、あとから同世代人口が増えるということは日本では起こりませんので、30歳をすぎて「いい人がいない」という感覚が生まれるのは当たり前のことなんです。

結婚の選択は自由だけれど、結婚する意志があるならなるべく早く行動するほうが「早い者勝ち」の世界では有利であり、合理的といえます。

結婚式の写真
Adobe Stock /  Paylessimages

ーー晩婚化だけでなく非婚化もよく言われていますが、結婚する意志はどうなのでしょうか。

2021年の国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査によると、18歳から34歳の独身者で「いずれ結婚するつもり」と考える人は、男女ともに8割超をキープしたままで、大きく低下はしていません。

ただ、結婚する意志がある人たちが結婚と向き合いづらくなっている実情が気になっています。

「結婚したい」は恥ずかしい

埼玉県が2022年5月に実施した「少子化対策深堀り調査」の一環で婚活中の20代の男女と意見交換会を実施したところ、男性からはこのような声がありました。

「まだ若いんだから、と言われて残業や休日出勤などブラック労働を押し付けられる。恋人がほしくても疲れて行動に移せない」

「恋人がほしいと言えない。恥ずかしい雰囲気がある」

「25歳で婚約したところ、同世代の男性から、『なに焦ってるの』『早いねえ』と嘲笑された」

結婚や恋愛をしたいという願望を、周りから「恥ずかしいこと」だとされ、「恋愛にうつつを抜かさず若いうちは働け」というプレッシャーを、20代男性が感じているというのです。

埼玉県少子化セミナー
埼玉県の少子化に関するセミナーには経営者らが参加し、熱心にメモをとる姿がみられた(2022年11月8日)

Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ーー「結婚しろ」とプレッシャーをかけるというのはよく聞く話ですが、「結婚するな」という圧があるということでしょうか。

人口マジョリティである中高年世代は未婚率が低い社会で生きてきたため、「結婚できて当たり前」「結婚しろなんて言わなくても、したきゃできるだろう?」という認知が共有されやすかったことが影響していると考えられます。

結婚に肯定的な行動はあまねく、個人の選択の自由に介入するハラスメントだとする結論があり、それにあわせてメディアなどもデータを取捨選択して伝える。これは「確証バイアス」といい、非多様性につながる行動のひとつです。その結果、「結婚したくない人もいるんだから、結婚したいなんておおっぴらに言わないほうがいい」といった逆方向からの価値観への介入がみられるようになりました。

結婚したい人も結婚したくない人も等しく尊重されるのがダイバーシティのはずですが、結婚がうかつに触れてはならない話題になったことで、腫れ物に触るようにネガティブにとらえる人も出てきてしまったのです。

また、先ほどの結婚年齢のピークを見ると20代はまさに「適齢期」なのですが、平均初婚年齢をもとに「まだ早い」と誤解されているケースもあるでしょう。「30歳にもなっていないのに、焦っているのでは」という統計的には根拠のないことを言ってしまう人がいるのも、統計を正確に把握せず「晩婚化」というパワーワードに飛びつく「確証バイアス」の表れだと感じます。

いまとは大きく異なる価値観の中で生きてきた親や管理職の世代である中高年が、自分たちの価値観にもとづくアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)でいまの結婚に関する不用意な発言をしたり、個人の人生設計を阻害しかねない働き方を強いたりしていることで、20代が結婚に向き合う壁を感じている可能性があることを考えてみてほしいと思います。

妻には「両立コース」を望む

ーー20代はどんな結婚を思い描いているのでしょう。

理想の家族は「夫婦共働き」の傾向がより強まっています。

いまの20代は1993年以降に生まれています。景気のよい時代を知らず、バブル崩壊後に物心ついたころには父親がリストラされたり、住宅ローンの返済に苦労したりする人が増加した状況下でした。専業主婦だった母親がパートに出るようになって支え合う両親の姿を見て育ったような世代ですから、経済的に助け合う夫婦を志向する傾向があります。

上の世代から見れば、自分たちの時代と比べて違う点を「かわいそうに」と感じるのかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。子どもたちは親の姿を否定的にとらえたり比較したりすることなく、そうやって懸命に育ててくれたことを自己肯定感のベースとして、自らの結婚に向き合うわけです。

2021年の国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査では、結婚相手に求める条件として「経済力」をあげた男性がより増え、48.2%となりました。男性がパートナーに望むライフコースは「両立コース」が39.4%で最多、「専業主婦コース」は6.8%でした。結婚し、子どもを育てながら仕事を続けるライフコースを、女性本人よりも男性のほうがパートナーに望んでいるという結果になりました。

そのライフコースを実現するために、家事や育児を分担したり、育児休業を取得したりする男性が増えるのは当然の流れです。

ある地方の企業では、男性の「寿退社」が相次いで、人事担当者が対応に奔走しているということでした。学生時代から交際している女性が東京で就職したため、結婚後に一緒に暮らすのであれば妻が仕事を辞めて地方で再就職先を探すより、夫が東京に転職したほうが世帯収入が下がらないという合理的な判断からです。

天野馨南子さん
天野馨南子(あまの・かなこ) / ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー
東京大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。1995年日本生命保険相互会社入社、99年より同社シンクタンクに出向。総務省統計局「令和7年国勢調査 有識者会議」委員、専門分野は人口動態に関する社会の諸問題。政府・地方自治体・法人会等の人口関連施策委員、アドバイザー等を務める

20代前半夫の4割が年上妻

2020年の婚姻統計によると、20代で初婚同士で結婚している男性の3割は、妻のほうが年上でした。さらに20代前半にしぼると4割が年上妻となっていました。

夫が働き、妻が専業主婦として家事や育児をするいわゆる「内助の功」が主流だったころとは、「支えてくれる人」の意味、すなわち結婚の意味が完全に変わっています。互いに経済的に自立し、精神面で支え合えるパートナーを、20代の夫婦はともに求めていることがわかります。

長時間労働を押し付けられて出会いを求める時間もなく、恋愛や結婚をしたいというと揶揄されるーー。若い男性が世代間格差によるハラスメントともいえる状況に苦しんでいる様子が、各種調査から浮き彫りになっています。

中高年世代は、自分が若かったころの結婚をベンチマークとして「あんなものはイマドキじゃない!」とことさらにタブー視することよりも、こうしたいまの20代のリアルな結婚観を尊重し、希望に合った労働環境や家族のサポート体制を用意できるか否か。これはいまの日本に最も求められている「多様性」への挑戦ではないでしょうか。

そして若い世代はどうか、上司世代や親世代の価値観に引きずられず、自信をもって自らが希望する家族像やライフコースを主張していってほしいです。



著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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