犬山紙子さんが、7歳の娘の本音を聞けた日。道の駅から子どもの夢中を探しに行く、新しい旅のかたち

小林明子

家族で旅をすることが大好きな、イラストエッセイストの犬山紙子さんと小学生の娘、つるちゃんこと夫の劔樹人さん。

春休みに1泊2日で出かけたのは、歴史と自然が調和した世界遺産のまち、栃木県日光市。

家族一人ひとりがその日感じた思いを大切に、気の向くまま過ごした旅のレポートをお届けします。

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Photo by Kamiko Inuyama(記事中すべて)

春休みには家族でどこか旅行したいね。

そう話し、やっとの思いで仕事を調整したのに、その日、東京は朝から冷たい雨が降っていました。

旅先で、ものづくり体験をすることが好きな娘。長崎では木靴、沖縄ではやちむん、ベトナムではノンラーという三角帽子の絵付けを体験してきました。

そこで、春休みには栃木の伝統工芸である「日光彫」を体験しようと、1泊2日で日光の旅を計画したのでした。

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犬山紙子(いぬやま・かみこ) /  イラストエッセイスト
1981年、大阪府生まれ。仙台のファッションカルチャー誌の編集者を家庭の事情で退職し、20代は難病の母の介護をする日々。2011年ブログ本を出版してデビュー。現在はテレビ、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍。2014年に結婚、2017年に長女を出産してから、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「こどものいのちはこどものもの」を立ち上げ、活動中。

車内の空気がピリつく

東京から車で2時間半、高速道路を降りると、雨は雪に変わりました。しかも、どんどん積もっていきます。

(レンタカーのタイヤ、大丈夫かな......日光彫の体験に間に合わなかったらどうしよう......)

ハンドルを握る夫つるちゃんの表情も険しくなり、車内の空気がピリついてきます。

「雪がひどくなったら、ホテルの中で本を読んだり絵を描いたりしよっか」

後部座席の娘に、何でもないことのように努めて明るく言いました。「イヤだイヤだイヤだーー!」という反応がくるだろうと予想していたからです。

ところが娘は素直にうなずきました。わかってるよ、というように。

成長している。

娘を楽しませるつもりが、娘に楽しませてもらっている。

いい旅になる予感がありました。

旅先をリスペクトする

雪はだんだん弱まってきました。願いが通じたのでしょうか。

しかし、お目当てだった洋館レストラン「明治の館」は、あいにく20人待ち。

諦めて、敷地内のカフェレストラン「ふじもと」を訪れました。

「日光湯波のオムレツライス」など、栃木の食材を使った料理はどれも絶品。待望明治の館のチーズケーキも味わうことができ、言うことなし◎

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ワクワクしたり、ガッカリしたり、成功したり、失敗したり。

そんな感情の波も、家族と共有すると何倍もおもしろくなる。

「寒い、寒い」と叫びながら、日光彫の体験ができる「五十嵐漆器店」にすべり込みます。

彫刻刀を使う日光彫は小学1年生にはやや早いようですが、ふだんから工作でナイフを使っている娘の「やりたい」は止まりません。熟練の職人さんがぴったり横について教えてくれました。

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いつも旅をするときに大切にしているのは、その場所をリスペクトするということ。地理や産業、特産品などを事前にこどもにわかる範囲で調べていき、海外ではその国の言葉で挨拶ができるように練習します。

私は、日本各地の工芸品や、職人さんが染めたり刺繍をしたりした洋服が大好き。この誇らしい技術を次世代に残していくにはどうしたらいいのだろう、と考えます。

伝統工芸を体験できる店舗ではたいてい、プロの職人さんによる作品を見ることができます。自分で体験すると技術の難しさを実感するので、作品の価値が感覚的にわかってくる気がします。

子どもが工芸品の魅力を知って好きになることが、未来につながるといいな。夢中に手を動かしている娘を見つめながらそう思うのでした。

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ホテルを出て生活圏へ

娘は手鏡に「見ざる、言わざる、聞かざる」を彫ったので、そのあとに日光東照宮で「三猿」を見るなり「あれが彫った猿だよね」とうれしそう。私が彫った「眠り猫」を見つけたときも盛り上がりました。

朱色、黒、白、金、青緑など極彩色の彫刻は、子どもの目にも鮮やかに映ったよう。

「これ全部、職人さんが彫ったんだね」「昔の人は象をこんなふうに捉えていたんだね」

気づくと3人とも夢中で上を見ていました。雪はやみ、水滴がキラキラと輝いていました。

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いったんホテルにチェックインし、濡れた靴を乾かします。宿泊したのは、日光東照宮から車で5分の「フェアフィールド・バイ・マリオット 栃木日光」。全国各地の道の駅の近隣にあるホテルで、館内にレストランはありません。道の駅やホテルを拠点に地域の食や文化を探訪するという、新しい旅のスタイルを提案しています。

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これまでの旅では、食事や入浴、アクティビティをホテルの中で済ませることが多かった私たち。積極的にホテルから出てみると、地元の人たちの生活圏にお邪魔しているような感覚になり、この地域をもっと知りたいという思いが強まります。

休憩後は「道の駅 日光 日光街道ニコニコ本陣」へ。道の駅ってどうしてこんなにときめくんでしょう。「ゆばむすび」「いちごワッフル」などの限定グルメが目白押し。娘はぬいぐるみの「いちごにゃん」をゲットしました。

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つるちゃんの旅の目的はグルメ。湯葉お食事処「栞」のコース「日光名物膳」と地元のお酒を堪能し、1日目は終了です。

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2年生になる葛藤

翌日は、金谷ホテルベーカリーのパンで朝食。日光山輪王寺を拝観したり、「グラススタジオ ポンテ」でガラス細工を体験したり。鬼怒川温泉「あけび」で貸し切り露天風呂に浸かり、ホテルの朝食ボックスでブランチを済ませた後、日光江戸村で着物を着てだるまの絵付け体験。日光をとことん遊び尽くします。

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ちょうど1年前、沖縄でお茶碗に絵付けをしたときに、つるちゃんが娘の似顔絵の横に「もうすぐ小学生」と文字を入れました。そのお茶碗を使うたびに「これをつくったとき、まだ保育園に通ってたよね」と家族で話すのが楽しくて。

「ああいうのをまたできたらいいね」と言いながらつるちゃんは、グラスに絵付けをするときに「もうすぐ小学2年生」と刻みました。

するとふと、隣でグラスに絵を描いていた娘が「2年生になったら......」という話を始めたんです。

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それは、学年が上がって1年生が入学するのでしっかりしなきゃという思いと、甘えられなくなる寂しさとの間の気持ちの揺らぎでした。慌ただしい日常では聞くことができなかったかもしれない、娘の本音。体験がきっかけで話せた感動を胸に、帰路につきました。

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仕事が不規則で出張も多い私は、娘が寝たあとに帰宅して「今日も娘としゃべれなかった」と嘆くこともたびたび。

だから旅は、私にとってはご褒美。家族で楽しみを共有する機会であると同時に、娘との密な時間を慈しむ究極の贅沢でもあるんです。

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最近、お風呂に日本地図のポスターを貼りました。

娘は訪れた場所を覚えていて、うれしそうに指さしています。車で移動した時間や食べた特産品などがリアルな記憶となって、地図から浮かび上がってくるようです。

「次はどこに行こうか?」。そんな会話が自然に生まれています。

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「TRIP BASE STYLE」を体験できる宿泊券をプレゼント

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宿泊先一例:「フェアフィールド・バイ・マリオット 栃木日光
積水ハウス

TRIP BASE STYLE」とは、日常の中にいるように旅先でも自由気ままに過ごし、日本中に自分らしくいられる居場所をつくる新しい旅のスタイルです。お子さんの夢中になることを一緒に探しながら、地域の魅力を家族みんなで体験してみませんか。

アンケートにご回答いただいた方から抽選で3組様に「TRIP BASE STYLE」が体験できるホテル、フェアフィールド・バイ・マリオット 道の駅宿泊券(朝食ボックス付)をプレゼントします。

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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