「部屋が汚い」でも気になり方が違う。夫婦も他人。心地よい関係になるまで
「手をつないでいるのではなく、背中合わせの感じ。見ている方向は違うけど、支え合っている」。ある女性は、パートナーとの関係をそう表現しました。OTEMOTOが「いい夫婦の日」に向けて結婚観について取材とアンケートを実施したところ、それぞれにとって心地よい関係が見えてきました。気になる「家事分担」にも、それぞれのスタイルがありました。
夫婦で「嫁姑ごっこ」
夫が片付け、妻が水回りの掃除。
広告代理店につとめるミホさん(20代、仮名)と映像制作会社で働く夫は、ルールをつくらなくても家事を分担できています。
「同じ『部屋が汚い』でも、夫は『散らかっている(messy)』ことが気になり、私は『衛生的でない(dirty)』ことが気になるという『違い』がわかったからなんです」
結婚前は、お互いひとり暮らしをしていました。「とりあえず一緒に住んでみて、何か支障が出てきたらルールを考えよう」と家事分担については特に何も決めていなかったといいます。
一緒に暮らしはじめて2、3カ月たった頃、「いつも私が掃除している気がするな」とか「リビングに置いている物は彼がよく整理しているな」など、お互いに気になる部分や気になる度合いが違うようだと気がつきました。
そのころから相手に声をかけるようになったのですが、その方法がなんと「嫁姑ごっこ」。
「なぜか彼が架空の姑キャラを演じながら言ってきて、私もそれに乗っかってイビられる嫁風に返事をしたことがきっかけで、家事周りの不満は互いに嫁姑ごっこ形式で伝えるようになりました(笑)」
ごっこ形式だとストレートかつコミカルに伝えられるので、余計な感情が入らず、シンプルに課題解決の方法を話し合うことができたといいます。
収納用のカゴを買ったり掃除ロボットを導入したりとお金を出し合って「仕組み」で解決できることもありました。手を動かさなければならないときは、相手にしてほしいことを伝えたうえで、気になったほうが無理のない範囲でやるようになりました。
「相手は家事をやってもらおうと甘えているのではなく、この状況が相手にとってまだ気になる度合いに達していないだけ」
2人ともそう考えられるからこそ、絶妙なバランスの役割分担が成り立っています。
「役割をつくってしまうと、気になるからやっていたはずの家事を義務としてプレッシャーに感じたり、逆に相手の役割をカバーする際に見返りを求めたくなったり、もともとの気楽さが失われそうなのでお互いに避けているのだと思います」
2人で1冊の日記を書く
ミホさんと夫は、大学生の頃にサークルで出会い、社会人数年目で結婚しました。
趣味のコミュニティで出会い、価値観が似ていた2人。付き合っていくうえでは「似ているけど、ここは違う」という部分を知る経験を積み重ねてきたといいます。意見の違いは、新たな自分や相手を発見する楽しみでもありました。
「食事や趣味など共通の経験をし、それに対する相手の反応を少しずつ積み重ねることで、自分と相手の違う部分、変わらない部分と年月や状況によって変わりゆく部分がわかってきました」
ミホさんは、思ったことを夫に伝えるときの距離感やタイミングのとり方も大事にしているといいます。その工夫のひとつが、2人で書いている一冊の日記です。
「LINEですぐ伝えたいこともあれば、直接目を見て伝えて反応がほしいこともあります。話すほどでもないけど軽く共有したいつぶやき程度のことは、この日記に書くようにしています」
「内容に合わせて幅広いコミュニケーション手段を柔軟に活用することで、言われた側が負担にならないように思いを伝えることをお互いに意識しています」
惣菜に抵抗、ある?ない?
価値観が異なる2人が生活をともにするうちに「あうんの呼吸」や「暗黙のルール」が生まれることがあります。それらは必ずしも自然に発生するのではなく、相手を理解したり尊重したりしようとする、たゆまぬ努力によるものも。歩み寄るプロセスが、2人にとっての心地よさをつくりあげていくのです。
「私も我慢しているけど、相手も我慢してくれていることがある。それに気づけたことで、モヤモヤすることがずいぶん減りました」
会社員のサヤカさん(30代、仮名)がそう話すのは、育児休業から復職するときに、エクセルで家事育児の分担表をつくった経験からです。
ふだんの家事と育児を50以上のタスクに分け、夫婦の分担状況を可視化しました。「ごみ捨て」と呼ばれる家事でも「ごみを集める」「ごみ袋を替える」「ごみを捨てに行く」とタスクを細かく区切り、「子どもの服に名前を書く」といった不定期の雑務も含めました。
「この表を見ながら夫と話し合ったことで、『私のほうが多くやっているのに』と不満をためて不機嫌になることがなくなり、相手にやってほしいことを伝えやすくもなりました」
一方で、言葉にしなくても同じ感覚で進められることも多いといいます。
例えば、食費の感覚。サヤカさんも夫も、外食を頻繁にするわけではないものの、食費を細かく切り詰めないタイプ。惣菜や宅食など、時間や利便性をお金で買うことに抵抗がない点が共通しています。
「惣菜なんて買うものじゃないとか、宅食は割高だという考えのパートナーだったら、いちいち気を使ったりもめたりしていたかもしれません。日常的にその必要がないのはとても楽です。年に一度、夫の誕生日に高級寿司店のカウンターで食事をするのも夫婦の楽しみになりました」
「理想の夫婦」は役に立たない
今回、OTEMOTOの取材には、一般的な「いい夫婦像」や「理想の家族像」を示されることに抵抗がある、という声もありました。
「夫から妻に花を贈るのが当たり前という風潮は見ていてつらい」
「CMが描く家族像と目の前の現実の差に凹む」
キラキラした「理想の夫婦」よりも、リアルな心地よさ。結婚という形をとるにせよとらないにせよ、それぞれの関係にとって大事なポイントでともに尊重し合うことが心地よいという声が寄せられました。
「落ち込んでいるときなどに適度に放っておいてくれる。愛し方、結婚に対する価値観がよく似ている。もしくは似てきたのかも」(20代女性)
「お互いがお互いの深めたい世界を持っていて、その世界で楽しかったことをたまに共有する。生活はともにするけど片方には依存しない、自立した関係」(20代女性)
「仕事に集中しているときでも、子育てでも趣味でも、相手がいま大切にしていることや熱量をもっていることを応援し合える関係」(30代男性)
サヤカさん夫婦は共用のメールアドレスをつくり、Googleカレンダーに平日の残業や飲み会の予定を「早い者勝ち」で入れ合っています。休日も半日ずつは自由時間をもつようにしています。
子育てをしながらも「妻」「母」「夫」「父」といった役割だけではなく、ひとりの人間として充実した時間をもつことをお互いに尊重しています。
「夫とは『背中合わせ』のイメージなんです。夫婦で手をつないで一緒の方向に進んでいくというよりは、見ている方向は違うけど背中を預けていて、どちらかが転びそうになったら支え合うというような」
理想や正解ではなく「心地よさ」を追い求め、そのために協力しあえる関係。それが「ふうふになる」ことの醍醐味なのかもしれません。