つぶつぶで描いたリアルな動物で、史上最年少受賞。中学生アーティストConocaさんの母親に「支え方」を聞いた
大小さまざまな円形模様を組み合わせて描く「つぶつぶアート」というスタイルを生み出したConocaさんは現在、中学1年生。10歳にして個展を開催し、2024年3月には、新進気鋭の作家の登竜門と呼ばれる「第59回昭和会展」で特別賞を受賞。小学6年生での受賞は史上最年少でした。Conocaさんの母親の千葉恵子さんに、制作活動を支えるうえで心がけていることを聞きました。
山や海の動物を描くことが多いConocaさん。ピンク、水色、山吹色、藍色、エメラルドグリーン……、色鮮やかなグラデーションの円形模様で描かれた動物たちは、まるで生きているかのよう。10歳での初個展で250人以上を集客したのを皮切りに、これまで各地で展覧会を開催してきました。2024年夏は、富山県の「朝日立町ふるさと美術館」で個展を開催しました。
ーー富山県で個展を開催したきっかけは?
美術館の学芸員さんがインスタをフォローしてくれていたというご縁でお話をいただき、実現しました。「いつかお願いしたいと思っていたのです」とおっしゃっていただき、うれしかったです。インスタに絵を投稿しはじめた7歳の頃から最新の作品を含め、ホタルやエリマキトカゲ、鳥などの絵160点を展示しています。最近は、動物とともに、植物や岩などの背景を描くことも増えました。
――動物たちが、今にも動き出しそうです。
動物園や水族館に行った際に撮影した写真をもとに描くことが多いですね。首のしなやかさや立体感、関節や筋肉を表現する際のつぶつぶの向きや大きさに気をつけているようです。
どこにどの色をのせるかは、彼女が感覚で決めているそうですが、その時々で彼女の好きな色があって、放っておくと好きな色ばかりの作品ができあがることがある(笑)。そのような時は、「ピンク色の作品が見たいな~」などと声をかけるようにしています。それでも「こっちの色のほうが良い」という場合は、尊重するようにしています。
例えば、オーダーをいただいた場合やコラボ作品などの場合、相手が求めているものがあるならば、プロとして要望に沿った方が良いですよね。独りよがりの絵になってしまうと相手の笑顔も見られないし、彼女も楽しくないでしょう。描きたいものを尊重しつつ、方向性は持っていけるよう、声をかけるようにしています。
――色鉛筆の作品、アクリル絵の具の作品があります。違いは?
色鉛筆が好きだったので色鉛筆画が大部分でしたが、最近はアクリル絵の具を使うことが増えました。色鉛筆だと基本的に紙に描くので、展示したり販売したりするのなら、キャンバスにアクリル絵の具で描いたほうが作品の持ちが良いということもあります。
実は、そもそも色鉛筆は後片付けが楽だという、私側の理由もありました。こどもが幼いうちは、私が片づけをしなければいけません。絵の具は、筆を洗ってパレットを洗って、と片付けるのに一苦労ですから。
もう自分で絵の具を使った後の片付けができるだろうと、小学高学年ぐらいからアクリル画に挑戦しはじめました。アクリル絵の具は初心者だったので、絵がひび割れしない方法など、アクリル画に詳しい方に使い方を教えてもらいながら描いてきました。
才能より幸運だった
幼稚園の頃、1970年から続き、国内外から約10万点の応募がある絵画展「世界児童画展」で佳作に選ばれたものの、絵の才能があると確信していたわけではないそう。幼稚園、小学低学年の頃は、つぶつぶアートではなく、キャラクターなどを、のびのびとしたタッチで描いていたそうです。
――当時はどのような絵を?
例えば、7歳の頃に描いた「パパピトラ」。当時、2歳だった弟と物語を空想して遊んでいて、そのなかに出てきたキャラクターです。この絵で何かしたいなと思ったので、プリントしたTシャツやポストカードをマルシェで販売しました。Tシャツは何枚か、ポストカードが100枚ほど売れたかな。
社会経験になればという思いもありました。私はこどもの作品を売るために表に立つのは気が引けたので、あくまで裏方……笑。出店までの手続きはして、店頭には本人が立ちました。もちろん、後ろには控えていましたが、お客さんとのコミュニケーションやお金のやり取りなども、ほぼ彼女がしました。いらした方、皆さんに温かく見守っていただきました。
それから、徐々に色々な模様を使って描くようになりましたが、色を塗るときに統一感を出すのに困っていたので、模様を統一することを提案し、少しずつ統一していきました。円系の模様だと動物の骨格や丸みも表現しやすいようで、今のつぶつぶアートに行き着きました。
――絵が得意だと気づいたのは、何歳ごろ?
才能に気がついたというよりは、最初は「絵が描ける」と気がつきました。昔から細かい遊びが好きで座って作業することを嫌がらない性格でした。水泳、ダンス、ピアノなどの習い事のなかでも絵画が好きでした。
米国に住んでいる私の姉とスカイプで話している際に、彼女がたまたま絵を描いていたのです。それを見せたら、「毎日描いて、インスタに投稿してみたら」と言ったのです。私は新しいことをするのが好きな性格なので、早速、投稿しはじめました。姉は当時から「個展をしてはどうか」と提案してくれていて、それが10歳で実現しました。とは言いつつ、姉も私もアート関係の仕事をしているわけではなく、私は、図画工作は全くです……笑。
長年にわたって毎日、描き続けてきた努力と、持ち合わせていた色彩感覚などが作品を通して磨かれたこと、発信できる環境があったことなど、さまざまな要素が重なりあって今があると思います。どちらかというと、才能より幸運だったという面が大きいと思っています。
したいことを大事に
Conocaさんには5歳年下の弟さんがいます。Conocaさんの活動に寄り添いつつ、弟さんのお世話もある。恵子さんは「どちらにも気を配るよう心がけている」とは言いつつ、「自分がしたいと思うことをすること」を支える姿勢を大事にしています。
――活動を支えるうえで、心がけていたことは何でしょうか。
のびのびと描ける環境を整えてきました。周りからの反対や反感があったら続けることはできなかったでしょう。それは、恋愛や結婚と同じだと思うのです。本人が好きでも親戚や両親が大反対だったら、好きな気持ちは、なかなか成就できない。私たちは恵まれていて、周囲の大人の方々がとても優しかったし展示させてくれる場所もありました。活動が楽しければ、さらに活動もやりやすく、さらに楽しくなります。
大人だと生活のために働かなければいけないので、「本当はこういうものを描きたいけれど、こっちのほうが売れるから」ということもあると思います。こどもなので、そういうこともなくのびのびと描き続けられたという面もあると思います。
――父母の役割分担は、どのように?
夫は見守り、私はアドバイスをしながら伴走する。まだこどもなので活動費は夫に助けてもらい、実際の活動には私もプラスワンで入ってきましたし、しばらくはこのような感じだと思います。周りの方々に感謝しながら、好きなことを楽しく続けられる環境づくりを、これからも手伝えたらと考えています。
ですが、中学生になりましたし、将来は絵で生計を立てていくでしょうから、今後のサポート体制をどうしていくか、どのように本人中心の活動にシフトしていくか、考えていかなければならない時期にきていると思います。
――姉弟で好きなこと、やりたいことが違うときはどうしていますか。
姉弟で年が5歳離れているので、「どちらかが、どちらかのしたいことに付き合うことがあるかな?」と思っていましたが、彼女の環境にいると結構、彼も楽しめることも多いようです。今は彼も大きくなり、私がいなくても夫と温泉などに行って楽しめるようになってきました。
今度、パリでの展覧会出展のため、私は彼女に付き添う予定です。パリは初めて。右も左もわからない中で、弟までいると大変なので日本で待っていてもらう予定ですが、弟には「パリに行く前にあなたの好きなユニバーサル・スタジオ・ジャパンを楽しみ尽くそう!」と伝えてあります。
連れていけないけれど別の日にデートすることで、彼の中でモヤモヤが残ったりトラウマになったりしないように、ケアするようにしています。
彼は私にそっくりな面があって、心の内を理解しやすいのです。姉に注目が集まっていることが、彼の自己肯定感や自尊心に影響を与えてほしくない。そんなことを気にせず、のびのびと育ってほしいので、気をつけてはいます。
――気を回すことに疲れたりつらくなったりはしませんか。
そうですね。子育てって本当に面倒……笑。こどもたちに、「こんなにしてあげたのに」などと思うことがないよう、自分のしたいことをするようにしています。マルシェでの販売も好きだからした。インスタへの絵の投稿も楽しかったからしたのです。
最近は、一緒にいて同じ時間を過ごしつつ、お互い自由時間のような感じで楽しんでいます。例えば、「今日は映画ナイト」と決めて夕方から好きな映画を家でのんびり観る。この前は「トムとジェリー」を観ながら、私は途中で寝落ちしてしまいました笑。毎週1日、映画ナイトを開催しようと思っています。
世の中にない色をつくりたい
Conocaさんは、恐竜のように絶滅した動物や、絶滅危惧種に関心が高いとのこと。動物の保護活動もするほど動物好きです。絵を描くうちにウミガメが海中のゴミに苦しんでいることを知り、最近は環境問題への関心も高くなっているそうです。
――今後は、どのような活動を?
これまでと変わらず動物を描いていくそうです。表現などは、これまでの描き方に捉われ過ぎず模索していくと思います。
色使いの面では、廃棄コスメで絵が描けるキットをいただいたこともあり、そういうものを使って描けたらと考えています。私が持っている化粧パレットもさまざまな素敵な色が入っているけれど、使わない色もある。粉状の化粧品は絵の具の代わりとして使いやすそうです。
彼女は、「この世にない色を作ってみたい。誰も表現したことがないような色を使ってみたい」との思いがあります。彼女の能力を生かし、彼女が楽しくできることを通してゴミを減らしたり、環境や動物たちのための活動をしていく予定です。