「自信のなさ」も管理職に必要な要素。"発掘"された次世代の女性リーダーたちが組織に起こす変化

小林明子

3月8日は国際女性デー。世界中で女性の地位向上やジェンダー平等を考える日です。2025年は日本でも多くの企業や団体がDEI(多様性・公平性・包摂性)に関するイベントやキャンペーンを展開する中、米トランプ大統領がDEI推進を撤回したことによる「逆風」を懸念する声も上がりました。

国際女性デーのシンボルはミモザの花
Momoka Yasushige

ソーシャル経済メディアNewsPicksは3月5日、東京都内でイベント「WE CHANGE AWARDS 2025」を開催しました。

このアワードは、すでに女性活躍を推進していることを「讃える」のではなく、道半ばであっても本質的な変化に向けて行動する人や企業を「発掘する」という趣旨で、2025年に初めて開かれました。個人部門と企業部門で約180の応募があり、個人6人と企業4社を表彰しました。

個人部門で受賞した土屋鞄製造所のランドセル製造組立リーダーの下田歩さんは「さまざまな個性を持ったメンバーのおかげでここに立てている」とコメント
写真:曽川拓哉

ランドセルの製造現場で女性最年少でリーダーに就いた土屋鞄製造所の下田歩さんは、技術力で統率するのではなく、周りと対話を重ねることで仕組みを変えた点が、「製造現場における女性リーダーの新しいロールモデル」として評価され、個人部門を受賞しました。

他にも、福岡県北九州市の老舗浄水器メーカーのタカギ、電線やケーブルの製造販売を手がけるSWCC、賃貸住宅建設大手の大東建託などが受賞。理由について、NewsPicks for WE編集長の川口あいさんは、「一般的に『男性中心型企業』とみられている業種の中で、仕組みを変えようと変革を推進した点が審査員に評価されました」と語りました。

授与式後のセッションでは、審査員らが講評を述べるとともに、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の現在地についてそれぞれの立場から語りました。

写真:曽川拓

DEIのバックラッシュ

セッションではまず、アメリカでトランプ大統領が就任後の2025年1月、バイデン前政権が推進してきたDEIの施策を撤回する大統領令に指名したことが話題にのぼりました。

DEI研修や講演を通して企業の現状に詳しいジャーナリストの浜田敬子さんは、日本の企業の変化を指摘しました。

「アメリカのDEIのバックラッシュに、日本の企業も大きな影響を受けつつあります。2017年ごろから国際女性デーにイベントやキャンペーンを展開する企業が増えてきましたが、今年は外資系企業を中心に規模を縮小する傾向が見られます。本国の予算が取れないことや、『DEI』という言葉を対外的に使えないことを理由としています」

「ただ、日本では女性の管理職比率が約10%で、アメリカの約40%には及んでいません。過剰に反応してアメリカの真似をすると、女性の労働力を取りこぼすことになってしまいます」

WECHANGEAWARDS2025
NewsPicks for WE編集長の川口あいさんと、審査員でアーティストのスプツニ子!さん、ヘラルボニーCOOの忍岡真理恵さん(左から)
写真:曽川拓哉

イギリスやアメリカでの活動歴があるアーティストのスプツニ子!さんも、「アメリカでは、『DEI』という言葉が使えなくても、別の言葉に言い換えて取り組み自体は進めている企業もある。続々とDEI推進をやめているというのは誤解もあるのでは」と語りました。

世界経済フォーラムが発表しているジェンダーギャップ指数で、日本は2024年、146カ国中118位。政治分野での女性議員の少なさや、経済分野での女性管理職の少なさが、順位の低迷に大きく影響しています。

善意のバイアス

パナソニックホールディングス執行役員の木下達夫さんは、女性登用のハードルの一つに、「善意のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」または「好意的性差別」があることを指摘。

これは「まだ小さなこどもがいるから今回の昇格は見送ろう」「大変そうだから負荷の高い仕事は振らないであげよう」など、周りが先回りして「配慮」することで力を発揮するチャンスを奪うことを指します。一見、好意的な行動のようですが、機会の不平等性を生み、性差別を助長する態度の一つとされています。

組織変革のコンサルティングを行うチェンジウェーブグループ社長CEOの佐々木裕子さんは「アンコンシャス・バイアスは誰にでもあるということを前提に、機会提供を調整する必要がある」と語ります。

同社が自社開発したアンコンシャス・バイアス学習プログラム「ANGLE」で、企業で働く5万8934人を測定調査したところ、約8割の人に「男は仕事、女は家庭」という性別バイアスがありました。特に女性のほうが性別バイアスを強く持っている人の割合が高かったといいます。

WECHANGEAWARDS2025
パナソニックホールディングス執行役員の木下達夫さん、ジャーナリストの浜田敬子さん、チェンジウェーブグループ社長CEOの佐々木裕子さんら審査員(左から)
写真:曽川拓哉

性別バイアスを内面化していると、たとえ機会を与えられても女性本人が手を挙げなかったり、リーダーになりたがらなかったりと、やはり女性登用のハードルになりえます。自分の能力を過小評価する「インポスター症候群」は、男性より女性のほうが陥りやすいとされています。

スプツニ子!さんとヘラルボニーCOOの忍岡真理恵さんは、アンコンシャス・バイアスとの向き合い方について経験談を語りました。

「自分が男性だったらここで手を挙げるだろうか、とシミュレーションしています」

「自信がなくて迷ったときは、『この自己評価は自分の本来の能力に比べて低いものなのだ』『自己評価が低いだけで、私にはできるはずだ』と意識するようにしています。積極的にチャンスを取りに行くと自分も成長するし、次のチャンスが巡ってくる。自分にはできないかも......と先にあきらめるのはもったいないです」

また浜田さんは、そもそも既存のリーダー像や、リーダーに求められる要素にもアンコンシャス・バイアスがあると指摘しました。

「トップダウンで人を動かすだけでなく、コミュニケーションを重視したりフィードバックを丁寧にしたりと、多様なマネジメントスタイルが求められるようになっています。自信のなさは裏を返すと謙虚さ。次世代のリーダーとして必要な要素といえます」

佐々木さんは「女性たちに聞くと、リーダーになりたいのはポジションを得たいからではなく、何かを変えたいからということが多い。誰かのためや世の中のために役に立ちたいという原動力は、リーダーシップを発揮する強さになります」と締めくくりました。

※株式会社土屋鞄製造所は、OTEMOTOを運営する株式会社ハリズリーの関連会社です。

3月8日国際女性デー
特集:国際女性デー
OTEMOTO
著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
SHARE