「女の子なのに政治のこと考えられるんだね」と言われ...地方議会に20代の女性が増えれば変わること
岸田文雄首相は2023年9月13日の内閣改造で、過去最多タイとなる5人の女性閣僚を起用します。日本の政治分野の男女格差は、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で146カ国中125位と低迷している大きな原因。20代、30代の女性議員を増やす活動をしている「FIFTYS PROJECT」が地方議会の選挙の実態を調査したところ、若い世代の女性が立候補しづらい実態が明らかになりました。「地盤(組織力)・看板(知名度)・かばん(資金力)」と言われる昔ながらの選挙に変化は起きるのでしょうか。
政治分野における男女共同参画推進法が2018年に施行されてから2回目となる、2023年4月の統一地方選。女性の立候補者数は過去最多となり、当選者の女性割合も道府県議会で14.0%、市議会で22.0%といずれも過去最高となりました。
「FIFTYS PROJECT」は、政治分野のジェンダーギャップを解消するため、地方議会に立候補する20代、30代の女性(トランス女性を含む)、Xジェンダーやノンバイナリー(自認する性別が男女どちらともいえない人や、いずれにも分類されたくない人)を支援するプロジェクトです。
2022年8月に活動を始め、2023年4月の統一地方選では、地域や所属政党に関係なく29人の選挙活動を支援。うち24人が当選しました。
「地方議会にいなかった人」を
FIFTYS PROJECT代表の能條桃子さんは、こう話します。
「統一地方選で女性議員が少しは増えたものの、十分ではありません。地方議員3万人超のうち、20代、30代の女性議員は1%に満たないのが現状です」
「これまで地方議会にいなかったような人たちを送り出すときに何が壁になり、どんなサポートがあれば増やしていけるのか。困難や成功体験を集合知として共有するために調査を依頼しました」
同プロジェクトは2023年5月13日、落選した4人を含む21人が出馬経験を振り返るワークショップを開催。このワークショップとアンケートで21人のリアルな声を聞いた結果を、社会調査支援機構チキラボが報告書にまとめました。
アンケートの項目の多くは、内閣府男女共同参画局の委託事業である「女性の政治参画への障壁等に関する調査研究報告書」(2021年3月)と同じ調査項目に設定しました。同プロジェクトの支援を受けて立候補した人の回答と、全国の地方議会の議員の実態とを比較するためです。
FIFTYS PROJECTの調査の回答者21人はいずれも女性で、20代6人、30代13人、40代2人です。
一方、内閣府の調査は、全国の地方議会から抽出した1万100人のうち、54.6%にあたる5513人(男性3243人、女性2164人)から回答を得たものです。回答者の年齢は男女とも60代(39.1%)が最も多く、次いで50代(22.2%)、70代(20.7%)でした。全回答者のうち20代、30代の女性は計2.0%でした。
誰かに頼まれて議員になる
FIFTYS PROJECTと内閣府の調査を比べると、「違い」が際立ったのは以下の項目です。
居住年数
内閣府の調査では、いま住んでいる自治体の居住年数が「30年以上」という議員が75.7%(男性83.3%、女性67.5%)。回答した男性議員の8割が地元に人脈を持っていることがうかがえる結果でした。次が「10年以上30年未満」で18.6%(男性13.3%、女性27.3%)でした。
一方、FIFTYS PROJECTが支援した立候補者は居住年数が短い傾向があり、「1年未満」と答えた人が6人(28.7%)と最多。1年以上5年未満が4人、5年以上10年未満が5人で、移住したり地元にUターンしたりして立候補した人も含まれています。
立候補の理由
内閣府の調査では、立候補した理由は「議員となり課題を解決したいという使命感」87.5%、「地元からの要請」49.0%、「政党や所属団体からの要請」39.5%が上位でした。「政治家からの後継の要請」23.8%、「政治家経験者の親族の後継」10.7%など、後継として声をかけられたからという理由もありました。
性別による差もあり、男性に多かった理由は「地元からの要請」(男性56.6%、女性37.4%)、女性に多かった理由は「地方政治に、女性の声を反映させるため」(男性9.6%、女性78.1%)、「政党や所属団体からの要請」(男性28.4%、女性55.2%)でした。
FIFTYS PROJECTが支援した立候補者は、「国政や地方政治に、女性の声を反映させるため」と21人全員が回答。「議員や首長となり課題を解決したいという使命感」16人(76.1%)、ロールモデルにあこがれて」8人(38.1%)などが続きました。「政党や所属団体からの要請」は5人(23.8%)、「地元からの要請」は3人(14.3%)でした。
「地元から要請されたり、政党や所属団体から声がかかったり、政治家や親族の後継だったりと、誰かに頼まれて政治家になっているのが、地方議会の議員に多いスタイルです。一方、FIFTYS PROJECTでは、ロールモデルに憧れたりSNSやメディアの情報を見たりと、主体的な動機を持つ人が多く立候補しました。これまでの『政治家になるルート』から外れている人たちに声をかけていくことが重要だと思います」(能條さん)
7割が「セクハラ」を経験
ただ、いざ立候補するとなるとさまざまな障壁があります。家事や育児との両立、プライバシーの問題、資金不足、専門性不足などが多くのハードルがあげられますが、なかでも「性別による差別やセクシュアルハラスメント」をあげた人は、FIFTYS PROJECTの調査では66.7%(14人)にのぼりました。
立候補を決める段階から選挙期間中に実際に経験したこととしては、「性別に基づく侮蔑的な態度や発言」15人(71.4%)、「SNS、メールによる中傷、嫌がらせ」15人(71.4%)、「性的、もしくは暴力的な言葉(ヤジを含む)による嫌がらせ」11人(52.4%)などが多くあげられました。ワークショップでは、以下のような具体的な経験も共有されました。
嫌がらせ行為
- 駅で立っているときに中指を立てられた。
- 街頭で知らない男性に勝手にツーショットを撮られた。
- 名刺を渡したら「デートしたい時に電話していい?」と言われた。
発言
- 「子どもがかわいそう、寂しい思いをさせないで」
- 「旦那さんはいるの?」
- 「◯◯問題について知ってる?」
- 「かわいい女の子なのに政治のこと考えられるんだね」
- 「もう少し年をとってから考えたら?」
調査を担当したチキラボ所長の荻上チキさんは、「性別に基づくハラスメント行為が横行している状況は、若い世代の女性が立候補を断念する理由になりかねません」と話します。さらに「FIFTYS PROJECTが支援した候補者は日頃からジェンダー課題にアンテナを張っているため、ハラスメント行為を自覚しやすく言語化できる。実際にはスルーされて可視化されていないハラスメント行為も多くあるのでは」という点も指摘します。
能條さんは、女性が地方議会に増えていくことで、こうした古い体質の選挙活動や議会に変化を起こせるはずだと期待しています。
「受かる人がいれば落ちる人がいて、権力の構造が少しずつ変わっていくのが地方議会の選挙です。政治家になるためにこれまでとは違う道をつくり、これまでいなかったタイプの政治家を送り出していくことで、外から変化を起こしていきたい。勉強会やSNSで横のつながりを深め、ポジティブな情報も共有しながら支援していきます」