東大レベルの学力があるのに「地元で十分」。地方出身女子の自己評価が低い理由

小林明子

地方の女子学生の進学の選択肢が少ない原因のひとつにロールモデルの不在があるとして、東京大学の学生団体「#YourChoiceProject」が、地方の女子高校生の大学受験に向けて約2年かけて先輩や同級生が伴走する「メンタリングコミュニティ事業」を始めています。

#YourChoiceProject」は、地方の女子学生が直面する教育分野でのジェンダーギャップを解消するために、地方から東京大学に進学した女子学生たちが2021年に活動を始めました。

#YourChoiceProject
YourChoiceProjectの活動の様子
写真提供:#YourChoiceProject

男子は難関大、女子は地元

東大の学部生の女性割合は20.1%(2022年度)、地方女子の割合は9%(2021年)。遠方在住の女子学生に月3万円の家賃補助がある住まい支援を2017年度に始めましたが、女子の割合は大幅には増えてはいません。

#YourChoiceProject代表の川崎莉音さんは、兵庫県出身。地元では、男子は進学校から難関大学を目指すけれど、女子は指定校推薦で行ける県内の私立大学で十分だという空気を感じていたといいます。「それは、女子学生たちの学ぶ意欲や進路選択にも影響していたと思います」

#YourChoiceProject
#YourChoiceProject代表の川崎莉音さん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

東大に入学してから首都圏出身の同級生と話すうちに、「進路指導や親からの期待値に男女差があると感じたのは、地方だったからではないか」と思うようになりました。

「地方の女子学生は、地域と性別という二重の壁によって無意識に選択肢を狭められています」

地方は情報が不足しているから。遠方でのひとり暮らしに親が反対するから。いろいろな仮説があるものの、東大の女子が2割からなかなか増えない状況を見ると、さまざまな要因が複雑に絡んでいるように思えました。そこで高校生を対象に調査をすることにしました。

進学意欲に男女差

調査は2023年2〜4月、#YourChoiceProjectなどが偏差値や東大合格者数などを条件に全国97校を抽出し、高校2年生の男女3716人から回答を得ました。その結果、学力の偏差値帯が同じであっても、「地方女子」「地方男子」「首都圏女子」「首都圏男子」では進学の意欲に差がみられることがわかりました。

例えば、「偏差値の高い大学に行くことは自分の目指す将来にとって有利だと思うか」という質問では、「地方女子」は有利だと感じる程度が低いという結果になりました。「首都圏女子」と「首都圏男子」の回答にはほぼ差がなかったのに対し、「地方女子」と「地方男子」の間には顕著な差がみられました。

#YourChoiceProject
出典:#YourChoiceProject調査

また「自分が志望する大学に行くためなら浪人したいと思うか」という質問でも、「地方女子」は浪人を肯定する程度(浪人肯定度)が低く、「地方男子」との間に大きな差が生まれました。

#YourChoiceProject
出典:#YourChoiceProject調査

さらに、「資格のある職業につくことは、高い偏差値の大学に行くことよりも重要」だと回答した「地方女子」の割合は28.5%と、「首都圏男女」や「地方男子」に比べて高い結果となりました。

これらの結果から、「地方女子」は難関大学に挑戦するよりも、資格を取得して安定した職業につくことを望む傾向があることがわかります。

#YourChoiceProject
出典:#YourChoiceProject調査

川崎さんは結果を受けてこう話します。

「個人の選択に介入して偏差値の高い大学に行くべきだと言いたいわけではありません。ただ全体の傾向として、客観的な学力よりも自己評価が低い人や、難関大学を目指せる学力があるのに目指そうと思わない人が地方女子に多いのは、進路選択上のジェンダーギャップだといえると思います」

浪人は「婚期が遅れる」

#YourChoiceProjectがインタビューによる質的調査をしたところ、地方女子の保護者からは「浪人すると婚期が遅れる」「女の子には親元を離れてほしくない」という意見もあった、と川崎さん。「女子は地元に」という固定観念がいまだに残っており、保護者の期待がこどもの進路選択に強く影響することがわかりました。

もう一つわかったのは、身近にロールモデルがいないと自己評価が低くなるということでした。例として東大に進学した先輩の数と自己評価の関係を調べたところ、ロールモデルの数が多いほど自己評価が高くなる傾向がありました。

#YourChoiceProject
出典:#YourChoiceProject調査

「地方の高校には首都圏の難関大学に進学する先輩が周りに少ないことと、いたとしても物理的に離れてしまうため、継続的に接点を持ちづらいという事情があります」(川崎さん)

そこで、地方の女子高校生に長期的にロールモデルを提示することで大学進学の選択肢を広げようと、2023年4月にメンタリングコミュニティ「#MyChoiceProject」を始めました。

1期の2023年度は、高校2年生42人を対象にスタート。生徒1人に対して現役女子東大生のメンターが1人つき、面談やチャットで学習をサポートしたり質問に答えたりするものです。受験が終わるまで同じメンターが1対1で伴走します。全国の同級生との交流や社会人講師によるキャリア講座も、支援内容に含まれています。

「高校生にとって月1時間はとても貴重な時間なので、一緒に勉強の計画を立てるなど受験に役立つサポートを心がけています。例えば、都市部の大手塾であれば受験期間中のホテルの手配などもノウハウとして蓄積されていますが、近くに塾がない生徒たちにはそのようなリアルな情報のニーズもあります」

2024年4月からは新高校2年生の約100人を対象に、メンタリングコミュニティの2期をスタートさせる予定です。継続的に実施できるよう、クラウドファンディングで約426万円を集めました。保護者向けのアンコンシャスバイアス解消プログラムや、ジェンダーギャップ白書の制作と公開なども同時進行で進めています。

「自分を過小評価することが当たり前になっていて、はなから地元以外の進学の選択肢すら持っていない高校生たちにも今後はアプローチしていきたいです」

女性が地元を出る理由

川崎さんは「社会に男女格差はあるけれど、大学までは男女平等だよね」といった言説には疑問に感じるといいます。「実際は、受験の段階でも男女差別はあります」

#YourChoiceProject
写真提供:#YourChoiceProject

世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダーギャップ指数で、教育分野については日本は順位が高く、ほぼ男女平等を達成し続けています。識字率や初等・中等教育の就学率で男女差がほとんどないためですが、高等教育の就学率にはいまだに男女差があります。

また、女性の所得が低いこと、管理職の女性割合が低いこと、女性の政治家が少ないことなどから、経済分野や政治分野でのスコアは低く、4分野を総合すると2023年は世界146カ国中125位で過去最低となりました。

川崎さんは、受験や進学のジェンダーギャップが、就職や昇進、結婚や育児など人生のさまざまな場面でのジェンダーギャップにつながることを危惧しています。

「地方では、大学進学のタイミングで女性が流出することを懸念する声もあります。ただ、進学で食い止めたところで地元に雇用がないので、結局は就職のタイミングで地元を出ていくしかありません。進学では多様な選択ができるようにして、地方でも雇用や働き方の対策をしていくことで、地元の活性化につながると思います」

「地方の女子学生は、自分の可能性を自分から狭めないでほしい。本当に学びたい大学と学部を選んでほしいです」

心のローカル
OTEMOTO
著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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