東京都の月5000円こども給付金「018サポート」やっと申請できたのに"不備"となる理由を担当者に聞いた

小林明子

東京都が2024年に始めるこども給付金「018サポート」で、申請したものの「書類不備」となり、修正や再申請をしなければならなくなったという声が相次いでいます。申請の仕方が複雑で問い合わせが続出し、申請方法が何度も改善されてきたこの制度。何が起きているのか、東京都の担当者に取材しました。

「018サポート」は、東京都内在住の18歳以下のこどもを対象に2024年1月から月額5000円が支給される、都の独自の制度です。年間最大6万円が支給されますが、2023年12月15日までに申請しなければ2024年1月から受け取ることはできません。

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「018サポート」チラシより
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

スマホを使ったオンライン申請では、マイナンバーカードを読み込むアプリをインストールする、健康保険証の一部を自分でマスキング(見えないように処理)する、など複雑なプロセスが多く、戸惑う人が続出しました。

東京都によると、2023年9月に申請の受付が始まった当初は、コールセンターに1日約3000件の問い合わせがありました。「最初からやり直すはめになった」「申請に1時間以上かかった」といった声を受け、都は申請プロセスを順次改善しています。

"家族関係が確認できない"

ところが、支給開始を前に新たな問題が浮上しました。申請したものの、「書類不備」となって修正が必要だというメールが届いている人が相次いでいるのです。

「不備となっているケースの多くは、家族関係が確認できないという理由です」

支給を担当する東京都子供・子育て支援部育成支援調整担当課長の高井公知さんはOTEMOTOの取材にこう話します。

「家族関係の確認には、申請者(保護者)と対象者(こども)の名前の両方が掲載されている書類が必要ですが、健康保険証や医療証を使う場合、そこに申請者の名前が掲載されていない場合には修正をお願いしています」

つまり、こどもの健康保険証の被保険者が父親であるのに、母親が申請した場合には、健康保険証には母親の名前が載っていないため確認書類としては不備だったということになります。

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家族確認書類が不備だった人には、マイページでこのように表示される(画像の一部を加工しています)
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

家族関係の確認書類に不備があった人には、マイページに次のような説明があります。

「医療証や保険証について、申請者の氏名が記載されておらず、配偶者等の氏名が記載されている場合には、家族関係確認書類としてご利用いただくことができません」

X(旧Twitter)には、書類不備のメールが届いたという人たちから、困惑の声が相次いでいます。

「子の保険証の被保険者が夫なのに私が申請したからダメだった」

「保険証では私が親ってことは証明できない」

「父親からの申請じゃないと家族関係を証明するの無理じゃない?」

不備となった場合は、住民票を取得して修正するか、いったん申請を取り消したうえで、書類に名前のある親を申請者として再申請する必要があります。

「面倒でも住民票を取りに行くか、あの複雑な申請手続きをもう一度やるはめになるのか」と落胆の声もあがっています。

必要書類のわかりづらさ

なぜ申請した後になって書類不備がわかるケースが相次いでいるのでしょうか。

東京都が配布した018サポートの案内チラシには、「子供が18歳未満の場合は保護者の方等が申請してください」とあり、こどもを扶養している親でなくても申請はできるようになっています。

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「018サポート」チラシより
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

家族関係の確認には健康保険証、住民票の写し、医療証のいずれか1点が必要です。健康保険証については「申請者が対象者を扶養していることがわかるもの」、住民票の写しについては「申請者と対象者について記載のあるもの」、医療証については「対象者の住所が記載されているもの」との説明がありましたが、チラシでは小さな文字で書かれていたため、気づかずに申請してしまった人がいたようです。

オンライン申請でも、申請の途中に気づいた人が多かったことから、都は「必要書類」について申請前に確認できるよう、10月にサイトを改善。11月15日には申請方法を解説する動画も公開しました。

家族関係を確認するための必要書類について、申請手続き中に慌てて準備したという人も
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

扶養は父親、手続きは母親

夫婦のうち年収が高いほうがこどもを扶養するのが原則のため、こどもは父親のほうの健康保険に入っている世帯が多いというのが現状です。一方、書類記入などの手続きを日常的に担っているのは母親であることのほうが多いというのもまた実態としてあります。

児童手当の場合、受給者は「児童のいる家庭の生計中心者」となっており、父母どちらか収入が高いほうが申請することが明確になっています。そのほかの公的な申請でも、親のどちらか一方を記入する場合は「世帯主」「主たる生計者」「扶養者」などと指示があるのが一般的です。

018サポートはなぜ、申請者の要件について事前に明確な説明をしていなかったのでしょうか。高井さんはこう説明します。

「018サポートは、18歳以下の『こども』に対する給付金です。対象者が18歳であれば本人が申請できます。18歳未満の場合は法定代理人が申請者となるため、親権者であれば申請できるものとなります」

「ただ、やはり公金である以上、親子関係をしっかりと公的な書類で確認してからでなければ支給できないのです。申請者が母親で、母親の名前が書類になかった場合、修正をお願いしています」

母親でも申請できるはずなのに、現状では母親が家族だと証明できる公的かつ手軽に準備できる書類が少ないという残念な事情も、今回の混乱の背景にはあったのでした。

都は、さまざまな意見を受けて改善できる点は改善し「今後もできるだけ負担なく申請できるようにしていきたい」としています。

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「018サポート」チラシより
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

018サポートの申請(18歳未満)に必要な書類はこちら(11月17日時点のサイト情報より)

本人確認書類(申請者)①または②

①マイナンバーカード

②その他の本人確認書類2点(運転免許証 / パスポート / 健康保険証 / 住民票など)

家族関係確認書類(申請者と対象者)①②③いずれか1点

①健康保険被保険者証(申請者が対象者を扶養していることがわかるもの、対象者の住所が記載されているもの)

②対象者の住民票の写し(申請者と対象者について記載のあるもの)

③対象者の医療証(申請者と対象者について記載のあるもの、対象者の住所が記載されているもの)

振込口座を確認できる書類

おんなじ目線で
OTEMOTO
著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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