妻が「ネオ教育ママ」を名乗ったら。小学生NFTアーティスト、父親の場合。
アーティストの草野絵美さんは小学生NFTアーティストの母親としても知られ、著書『ネオ子育て』で斬新な教育スタイルを紹介しています。妻が「ネオ教育ママ」を名乗り、最先端のテクノロジーを駆使する家族の日常とは。今回は、夫である山岡潤一さんに聞きました。
NFTコレクション「新星ギャルバース」の運営などで、NFTマーケットでの取引総額の世界一を記録したアーティストの草野絵美さん。小学生NFTアーティストZombie Zoo Keeperさんの母親でありマネージャーでもあります。
2021年の夏休みのこと。Zombie Zoo Keeperさんが大好きなゲーム「マインクラフト」から着想を得て、ゾンビと動物をかけあわせたドット絵をNFTプラットフォームに出品したところ、瞬く間に高値で取引され完売となりました。
これを機に、絵美さんの教育スタイルが注目を集めました。絵本を年間400冊も読み聞かせたり、コロナ禍の休校中にはゲームやダンスを盛り込んだ独自の「時間割」をつくったり。子どもが興味をもちそうなアプローチを用いて親子で楽しみながらともに学ぶスタイルを、絵美さんは「ネオ子育て」と名付けて書籍にまとめました。
長男であるZombie Zoo Keeperさんのアート活動では、絵美さんが全体のマネジメントを担当しています。Twitterのアカウントを英語で運用したり、取引状況を把握したり。8歳でデビューしたアーティストを全面的にサポートしています。
一方、夫の山岡潤一さんはメディアアートの研究者として、慶應義塾大学などで学生とともに3Dプリンターなどを使った新しいものづくりに取り組んでいます。潤一さんは長男のアート活動では、どちらかというと後方支援。ですが、夫婦で役割分担をしているのだと教えてくれました。
夫婦どちらかが逃げ道になる
「大事にしているのは、絵を描くことでも勉強でも、夫婦どちらかが子どもの逃げ道になるようにすることです」
例えば、こんなエピソード。
長男が絵を描いているときに絵美さんが「これは売れそうだ!」とうっかり言ってしまい、夫と長男に注意され、謝罪したというのです。
夫には「売れないものには価値がないように聞こえる」「似たような絵しか書かなくなってしまう危険性がある」と指摘されました。
『親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て』
潤一さんは振り返ります。
「絵美は立場上、売れるアートかどうかという視点で見ているので、ファンが好むように『こんな色使いだと見栄えがいいよ』とか『かわいくするといいよ』とアドバイスをしているんですね」
「でも、彼には彼のやりたい表現というのもあって。例えば、目を描くときに前とは違うやり方をしてみたいとか。そういうアーティストとしての挑戦や創造力を大事にしてあげたいんです」
気鋭のアーティストとはいえ、小学4年生。気分が乗りにくいときには「売る」役割を担わない潤一さんが長男の横に座り、一緒に絵を描くこともあるそうです。
「図鑑を見たり、『きょう何を食べたっけ』などと話したりしながら描き始めることもあります。週末には彼のパソコンで、一緒に彼の絵を3Dにしていますね。メタバースのプラットフォームで、遊びながら世界をつくっていく感じです」
9歳でメディアにひっぱりだこのアーティストになると、親としては将来に期待が膨らむのではないでしょうか。しかし潤一さんは、きっぱりと否定します。
「『子どもにこうなってほしい』という希望は夫婦ともになく、彼の主体性を大事にしています。やりたくないことはやらなくていいし、やりたいことがあるのなら積極的に伸ばしていってあげたいです」
やらされる感をもたせない
「子どもがハマるものを探し続ける」「親も一緒にハマる」「ハマったらディグる(深掘りする)」というのが、夫婦共通の子育てのスタンスなのだそうです。
2017年に潤一さんが米マサチューセッツ工科大学(MIT)に訪問研究員として出張していた間、家族はボストンに滞在していました。MITメディア・ラボで最先端のロボットの展示を見たり、ボストンの美術館や博物館に足を運んだりする機会がありました。
とはいえ、幼い子どもがいきなり美術にハマるかというと、なかなか難しいものです。そこで工夫したのが、ゲームの要素をもたせることでした。
絵美さんは当時5歳だった長男が飽きないよう、ハート型、花、虫など美術館にありそうなモチーフを描いた「アートビンゴ」を手づくりしました。アートビンゴを手に美術館を回りながらモチーフを探すゲームをやったことで、長男はいまはビンゴがなくても美術鑑賞に集中できるようになったそうです。
同じように潤一さんも学習用のプリントを手づくりしています。
「息子はいろいろなことに次々と興味をもつタイプなので、学校のプリントやドリルなどの反復学習を苦痛に感じていたようです。そこで息子が好きなゲームを取り入れたプリントをワードでつくってみました」
同じ学習内容でも、アプローチの仕方によっては子どもが「やらされている感」をもたずに楽しんで学ぶことができます。夫婦それぞれがわが子に合った方法を編み出していて、しかも親も一緒に楽しんでいるのでした。
コロナ禍で学校が休校になったときは、潤一さんは大学で実験ができなくなったことを逆手にとりました。3Dプリンターでいろいろな素材を組み合わせてものづくりをする実験を自宅ですることに。
「長男も一緒に実験をするようになり、キッチンでフードプリントしたクッキーをつくって焼いてみたこともあります。長男は楽しみながらいつの間にか大学の研究に参加していました」
子ども向けの知育玩具を学生がつくるときには、モニターとして長男に意見を聞いたこともありました。コロナ禍を乗り切る中で仕事と生活を柔軟に融合させたことが、結果的に長男の知的好奇心を刺激することにつながりました。
「同じ時間を消費するなら、子どものためだけにやるというよりは、自分も楽しまないともったいないという思いがあります。子どもが成長するとこうした時間も減っていってしまうかもしれないので、子どもと一緒に楽しむ時間を大事にしたいですね」
子どもと同じ目線に立って、遊び心を忘れない。何より、大人になっても学び続けることはワクワクすることなんだと、潤一さんと絵美さん夫婦は体現しています。