葛飾北斎に憧れる14歳は、生後8カ月から筆に墨をつけていた。「なぜ?」と聞かれたときに母が選んだ答え方は
江戸時代後期の浮世絵師、葛飾北斎に憧れ、絵画を模写してしまうほどの腕前を持つ目黒龍一郎さん、14歳。人気テレビ番組に出演し、「葛飾北斎博士ちゃん」として知られています。好きなことをどのようにして極めていったのでしょうか。龍一郎さんと母親の史さんに聞きました。
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro7.jpg)
写真提供 : 目黒史さん
目黒龍一郎さんは、葛飾北斎の生活習慣に倣い、午前5時ごろには起きだして絵を描いています。
最近の作品は3月に、中学2年生の期末テストを受けている自分を浮世絵風に描いたもの。「春眠暁を覚えず」「メタボリックシンドローム」、「走れメロス」などテスト勉強で覚えたワードなどが、龍一郎さんの周りに散りばめられています。
![目黒龍一郎さんの作品](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro18-1024x768.jpg)
写真提供 : 目黒史さん
何でも絵にして覚える
龍一郎さん「構成を思いつくたびに、勉強と勉強の合間の休憩時間に下絵を描いておき、テストが終わった後に仕上げました。理科も歴史も地理も、絵を描くと覚えるんです」
九州の地図と特産品やミトコンドリアなどの微生物がまとめられたページや、明治維新の立役者たちによる「chat明治」のページ。西郷隆盛、大久保利通、木戸孝之らのアイコンがメッセージを交わしているスタイルで登場。どのような意図や事件があったのか、歴史の流れが分かる仕組みです。
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro17-1024x768.jpeg)
写真提供 : 目黒史さん
母親の史さんはこう話します。
史さん「こういうのを見ると、今どきの子だなって思います。勉強は絵を描いて楽しみながら画面で覚えるタイプ。絵を描きながら頭の中で反芻し、まとまった頃には覚えている。わたしもこんな学び方をすればもっと勉強が好きだったかなと思います」
筆を持ったのは生後8カ月の頃
史さんは書道教室の先生。赤ちゃんの頃の龍一郎さんは人見知りの性格だったため保育園には預けず、抱っこしながら生徒さんたちに教えていたそうです。
史さん「おとなしくニコニコしていたので看板犬ならぬ、看板赤ちゃんみたいな感じでした。生徒さんたちも成長を見守ってくださって。筆は8カ月ぐらいの頃から持っていました」
「レッスンの後、生徒の皆さん同士が作品を見せ合う時間があるんです。皆さん『素敵ね』などとニコニコして他の方の作品を褒めていらっしゃる。その様子を見ていたから、『筆を持つことは楽しいこと』という刷り込みがあったんだと思います」
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro4-1024x683.png)
写真提供:目黒史さん
龍一郎さんにしてみれば、史さんの仕事が筆を持つ仕事だったから、普通にそこにあったものを使って描き始めた、というだけのよう。こどもがクレヨンで線を描くように、筆で線を描いていました。1,2歳のこどもが筆を持つと墨でそのあたりを黒々としてしまいそうですが……。
史さん「0歳でも言葉にしないだけで、ちゃんと見ているんでしょうね。墨は筆先にちょんちょんとつけるものだって。2歳ぐらいになると、持ち方は変ですが自分で筆に墨をつけて紙に描いていました。幼稚園ぐらいになると字も書いていましたが、自由に描く絵の方が生き生きしていました」
龍一郎さん「小学校で習う鉛筆の持ち方だと、初めのころは書きづらかったです。筆は中指を軸にかけますが、鉛筆だと中指は軸にかけない。どうしても筆の持ち方になってしまいました」
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro14-1024x683.jpg)
写真提供:目黒史さん
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro13-1024x683.jpg)
写真提供:目黒史さん
自宅で「個展」を開催
龍一郎さんはいつも筆を使い、その時々に好きだったものを描いてきました。幼稚園の頃は恐竜、鳥、動物、車や電車。小学生になるとお城や神社仏閣にも興味を持ちはじめたそうです。
龍一郎さん「小さい頃はどちらかというと、筆で線を書き、色鉛筆は色を塗ることに使っていました。これは幼稚園年長の頃に書いたクジャクの絵です」
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro6-1024x730.jpg)
写真提供:目黒史さん
史さん「恐竜がブームの時は、恐竜についての本を読んだりテレビ番組や図鑑の付録のDVDをみたりと、ずっと恐竜。恐竜の絵を描く、立体もつくる、そして知識が深まると、それを使ってプレゼンをはじめるというのが常でした。『19世紀に恐竜が見つかった国、イギリスです。誰が恐竜を発見したか。バックランドです』などと解説をはじめる。描いた絵を壁に貼って個展ごっこをしたり、紙芝居をつくったりもしていました」
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro5-683x1024.jpg)
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro19-1024x683.jpeg)
写真提供:目黒史さん
斬新な北斎に惹かれる
小学2年生の頃、タブレットのツールを使って自由に絵を描く授業がありました。友達が花や食べ物などを描くなか、龍一郎さんが描いたのは『冨嶽三十六景』のなかの1つ、『凱風快晴』でした。
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro16-736x1024.jpeg)
写真提供:目黒史さん
龍一郎さん「日本美術は物心ついたときから、ずっと好きでした。並行して、小さい頃は恐竜、鳥、電車や車が好きだった時代がある。小学3年生ぐらいからお城にはまり、歴史が好きになりました。そうすると、ずっと好きだった日本美術と歴史の知識がくっついた。今は建築にも興味があります」
史さん「鳥が好きだった頃は、花鳥風月を多く描いている琳派や狩野派、伊藤若冲の展示も見に行ったね。浮世絵専門の太田記念美術館にも頻繁に行きました」
「若冲や(歌川)広重などは、展示があれば今も見に行っています。どの絵師も好きだけど、気づけば家のなかにある小物や本などは北斎のものが多く集まっていました。話にも、ことあるごとに出てきていた気がします。なぜ、なかでも北斎がすごいと思うのか、気づいたことがあるんだよね?」
龍一郎さん「北斎は森羅万象、何でも描いている。自分の興味は成長とともに移り変わっていくのですが、北斎は僕の興味の対象をことごとく描いていることに気づいたんです!」
「さらに、同じモチーフでも他の人よりちょっと違ったおもしろい描き方をしているんです。それが北斎の発想の豊かさと言いますか。例えば、同じモチーフでも他の人は普通の目線で地上から見たような絵を描いているのに対し、北斎だけはまるでドローンを使っているかのごとく上空から見たような構図で絵を描いている。普通では考えられないような斬新さがあって心を動かされるんです」
「好きな作品は全部!ですが、冨嶽三十六景のなかでは『山下白雨』です。富士山と雷が雲の上からの目線で描かれています」
「それに、北斎は浮世絵だけじゃないんです。図面や設計図みたいなものも描いていて、建築の専門家じゃないけれど建築の本も出している。何でもやっているのがすごいところだと思っています」
史さん「北斎が描いた図面などを見たとき、『わあ!』って本当に喜んでいたね」
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro10-1024x683.jpg)
写真提供:目黒史さん
調べ物は「紙」で
小さい頃からさまざまな物事に興味を持っていた龍一郎さんを、史さんはサポート。「動物園に行きたい」と言われれば連れて行き、どんなものに興味を示してもすぐに調べられるように、図鑑は一式揃えました。
史さん「昔から、よく本屋さんには連れて行っています。そのときに自分のアンテナが感じるコーナーに行って、何を読もうかと選んでいます。小さい頃は何に興味を持つかわからない。図鑑は全シリーズ揃えたものの、虫、星、宇宙などはまったく読んでいません。一方、恐竜や動物は、全ページについているじゃないかと思うぐらい付箋だらけ」
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro9-1024x683.jpg)
写真提供:目黒史さん
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro11-683x1024.jpg)
龍一郎さんが幼稚園の頃のある日、自分の鼻筋と両目の間を指して、「おめめは2つあるのに、ここ見えないよね。どうして?」と聞いてきたことがありました。史さんは「じゃあ図書館で調べよう」と、身体についてこども向けに説明している本を手にとりました。
調べるうちに、右目と左目では見え方が違うこと、目で得た情報は脳に届いて脳で認識し、ひとつにまとまることがわかりました。龍一郎さんは「草食動物は肉食動物を見つけられるよう、たくさんの場所を見ることができるよう目と目が離れているんだ」ということがわかってきたそうです。
史さん「これまで興味を持って読んできた知識と疑問とが結びつく瞬間でした」
図鑑で調べたり、図書館で本を探したりする手間を惜しまなかったのは、「調べる」というプロセスを大事にしたからだといいます。
史さん「本人が自分の手で調べて体験できるように、なるべくスマホを使わない。辞書も紙の辞書を持たせて自分で調べるという習慣をつけました」
「インターネットと本で調べることの違いは、答えにたどり着くまでに時間がかかること。そのぶん、しっかりと記憶に定着しているように感じます。単語の意味もネットで調べるより昔の記憶もきちっと覚えている。辞書って大事だなと、この子を見て改めて思っています」
「今も本はその時々に好きなテーマから選びますが、参考書など勉強で使う本については、『こういうものが載っている本や参考書がほしい』と、ほしい本のイメージが明確になっているので、そういうものを探しに行くという感じです」
![目黒龍一郎さん](https://o-temoto.com/wp-content/uploads/2024/04/240415_meguro3-1024x728.jpg)
テレビ朝日「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」に「葛飾北斎博士ちゃん」として出演多数。2024年「博士ちゃん新春3時間SP」ではイギリス&オランダへ行き、欧州における北斎について調査。美術館などで講演やワークショップも多数行う。
Rika Naganohara
絵か勉強か?
龍一郎さんは4月から中学3年生に。高校受験を控えています。
史さん「幼稚園の頃から早起きでした。最初は私も一緒に起きていたんですが、卒園ぐらいになるともう起きられなくなって。1人で起きて絵を描いているので、ある程度、1人にしていても大丈夫かなと。それが何年も続いていて今になります。今でも放っておくとずっと描いています。学校と塾の勉強もあるので、それが気になるときだけはストップかけます」
龍一郎さん「制作しちゃうんですけど……、勉強は好きなのでします!」
史さん「小学生の時は塾へ行きませんでした。塾に行って好きな制作と読書ができなくなるのは、息子の芽を摘んでしまうことになるかもしれない。地元の中学校に行って、行きたい高校に行ってもらえたらいいかな、と思ったので。もう受験生になので、先日もこれで絵は描かないと言っていましたが……」
龍一郎さん「たぶん、描くでしょう(笑)」
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OTEMOTO
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