全身ピンクの3歳と「おしゃれママに見られたい私」の葛藤

小林明子

ピンク、フリフリ、アニメ......子どもと親の好みが異なるとき、どうしていますか? イラストエッセイストの犬山紙子さんは「親が無意識に、子どもの好みを見下していないでしょうか」と問いかけます。

犬山紙子(いぬやま・かみこ) / イラストエッセイスト。2017年に長女を出産。児童虐待を防ぐプロジェクト「こどものいのちはこどものもの」の活動もしている
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

全身が主役級

娘は2歳くらいからプリンセスにハマって、どこに出かけるにも全身ピンクのコーディネート。自宅でもプリンセスドレスを着ていました。

ピンク大好き、フリル大好き、リボン大好き。

だから、ズボンの上にチュールのスカートを履き、ピンク色のTシャツを着て、ポシェットもネックレスも全部がけ。ミニーちゃんのカチューシャをつけ、ブレスレットも指輪も......そう、すべて主役級のものを組み合わせるんです。

「おしゃれママ」だと思われたい欲望

プリンセスになりきっている娘のコーディネート
Kamiko Inuyama

母親の私は心のどこかで「おしゃれなママだと思われたい」という欲望があって、自分がおしゃれだと感じるようなシックでシンプルなものを身につけてほしいと思ってしまうわけです。娘が1歳くらいまでは親の趣味のままにコーディネートしてきていたので、全身ピンクの娘を見て「えっ?その格好で出かけるの?」と言ってしまいそうになるのをグッと堪えたり。

近所を散歩するくらいならともかく、習い事に行くときや友達が遊びにくるときには、私好みのシックな服を持ってきて「ここにもレースついてるよ!」なんて誘導して着てもらおうしたこともあったんですが、結局、娘は着替えるんですよね。

それでも、好きな服を着て楽しそうにしている様子を見て、そのうれしそうな姿が何よりかわいくて。「これを着たい」という気持ちを否定してはいけないな、とハッとしました。着たくないものを着せようとしない。そういえば、私が思春期だったころも嫌だったじゃない、って。

全方位に「好き」をやりきった

私は今でこそ、「二次元が好きなオタクです」とインタビューなどで明かしていますが、実の親の前ではオタクだって言えないんです。オタクに激しい偏見があった時代だったので、好きなものを周りから否定されるかもしれないという怖さが常につきまとってきたんですよね。

家庭の方針に限らず、校則も厳しくて、時代もそういう価値観だったというのもあると思うんですが、子どもが好きなことを自由に表現できる場所が当時はとても少なかった。

高校2年の冬に、「もう自分を抑えるのはやめた!」と吹っ切れた瞬間があって、そこからギャルファッションを試したら、めっちゃ気持ちよかったんです。ギャルファッションだけじゃなく、モード系の服にハマったり、コンサバ系に走ったり、古着ばっかり着ているときもあったり、はたからみたら全部どれも行き過ぎの格好だったと思います。

おまけに最後はミックスされて、ギャルメイクの女の子がモードな服を着ているといったごちゃごちゃな状況になってたんですけど、そこで私は「好きをやりきる」という経験をしたんですね。

「好き」をとことんやりきったことで、ファッションの視野が広がり、自分に似合うものや本当にほしいものを突きつめる訓練ができました。まだまだやりすぎたり失敗したりもするのですが。

そうした経験から、子どもには「好きなことを否定されるかもしれない」という心配をさせたくなくて。悩んだときにも親子で話ができるようにしたいと思っています。

書道セットのデザイン問題

好きな服を着るとポーズも決まります
Kamiko Inuyama

子どもの好きなものを尊重するという点でもう一つ、気をつけていることがあります。

ピンクやフリフリのものは一般的に、幼児的な趣味であり、親としてはあまり歓迎できないものであり、家の中にそういうものが増えるのはちょっとヤダ......と感じる人もいるのではないかと思います。成長しても長く使えそうなものを与えたいという気持ちもわかります。

私自身、フリフリが好きな娘のことを「幼児趣味だからあと何年かしたらどうせ飽きるでしょ」という目線で見てしまっていたのではないか、と反省したことがあるんです。結局それって、私が娘が好きなピンクやフリフリを見下していることに他ならなくて、いくら娘に「好きな服を着てもいいよ」と言ったとしても、尊重していることにはなっていなかったんじゃないかって。

親にも好みがあるので、それは好きじゃないという気持ちはあってもいい。けれど、本来、好きなものに上も下もないはずです。見下すのは違います。

フリフリでもアニメでも、今これが好きだという子に「そのうちどうせ趣味が変わるんだから」と言いたい気持ちが湧くということは、その瞬間のその子の気持ちを尊重できていないのではないでしょうか。だって大人だって、好みや流行が変わるだろうとわかっていても、その瞬間にほしいものを買うことってありますよね。子どもが、その瞬間の気持ちを大人に尊重してもらうことはとても大事だと思うんです。

例えば、小学校の書道セット問題って、毎年のようにネットで盛り上がりますよね。学校からもらう書道セットのカタログにある「ドラゴン」「リボン」などの派手な柄を子どもが選んでしまった!と困惑する親たちの声です。

シンプルなものにしてほしい、という親の気持ちもわかるのですが、子どもがどんな柄を選んだとしても、それも一つのチャレンジではないでしょうか。もしも数年後に選んだ柄を後悔することになったとしても、好みってこういうふうに変わるんだと子ども自身の経験になりますから。

「あなたはどれが好き?」

Akiko Kobayashi / OTEMOTO

もちろん、わがまま放題に何でも買い与えればよいということではありません。買える範囲内で好きなものを選ぶ金銭感覚をつけること、差別的な表現が含まれているコンテンツは人を傷つける可能性があると理解すること、TPOに合わせた服装が必要な場合もあること、などを教えていくことも同時に重要です。

それでも、好きを見つけて、好きに囲まれる人生を送れるのはとても豊かなことです。「私はこれが好きです」と言えるのは、好きを尊重してもらえた経験が積み重なってこそです。

親も「私はこれが好き」と好みを表明するのはいいと思います。でもその前に、「あなたはどれが好き?」とまず子どもに問いかけて、子どもが自分で好きを探す力を奪わないようにしたいですね。

子どもには「あなたはどれが好き?」と問いかけ続け、そして全力で尊重していきたいと思っています。

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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