料理家の脇雅世さんが冷凍庫に常備する、意外な食材。「名前のある料理をつくらなくていい」
青菜がお得だからとたくさん買ったものの使い切れず、冷蔵庫の奥でシワシワに。好き嫌いの多い子どもが食べ残してしまうことも一度や二度ではありません。食材を使い切る料理のことを「始末の料理」と言うそうです。料理家の脇雅世さんに、無駄のない料理のコツを教えてもらいました。
ーー料理を作っていると、キャベツの芯、じゃがいもやにんじんの皮など、結構な量の野菜くずが出ます。脇さんがご家庭で料理をする際に、無駄なく食べるために気を付けていることはありますか。
長く実践しているのは、鶏の手羽先の先の部分でチキンストックをとることね。この部分は、肉がついていなくて食べられない。食べられない部分に火を通すことが嫌だなと思っていました。
だからこの部分を切って冷凍庫にとっておいて、ある程度の量がたまったら、にんじん、玉ねぎ、セロリ、ねぎの葉の固い部分とともに煮込みます。ゼラチン質がいっぱいで美味しいスープがとれますよ。玉ねぎも白いけれど筋張っているような部分や一度に使いきれない野菜は冷凍して取っておいて、入れればいいですよ。
キャベツの外葉も捨てない
最近は、野菜だけのスープも作ります。夫が前に大病をしまして。しばらくしてから、夫が「野菜を丸ごと食べるといいらしい」という記事を見つけてきたのです。
キャベツの葉っぱなどは、畑から収穫してスーパーで購入されるまでにも多くの外葉が捨てられているわけです。その上に、家庭でも外葉が固いと捨てるでしょ。それってどうなんだろうと思っているところに、夫がそんなことを言い出したので、今は全部スープにします。スープといってもミキサーでピューレ状にしたものをスプーンですくって食べる感じです。
農薬の問題がありますので、全てがおススメというわけではありませんが、安心していただけるものであれば、皮から半端な部分まで全部入れます。昔からにんじん、じゃがいも、ポロネギに水を適量いれて煮てポタージュにしていたので、それが元になっています。野菜からよい出汁が出ますので、ブイヨンはいりませんよ。
――分量の目安はありますか。
分量なんて気にしなくて大丈夫です。冷凍庫にとっていた野菜をミックスしたままお鍋に入れて水を入れます。最初に入れる水はお鍋の底から10センチくらいと少なめで、調味料は入れません。煮立って野菜が十分に柔らかくなったらミキサーにかけて、出来上がり。その時に粘度が高かったら水を足してもう一度、煮立てればOKです。冷まして密閉容器に入れ、冷蔵庫で保存します。毎朝、冷蔵庫から一回分を器によそい温めて、夫は自分で塩、オイルをかけて食べています。
これをね、テレビ番組で紹介したらⅩでこんな投稿があったの。「捨てるような野菜だと知らずに食べさせられているかわいそうなダンナだな」って。いやいや、そうじゃないの! これは彼からのリクエストなんですよってね。
食物繊維が多いからお通じもよくなり、生野菜が苦手だから「野菜がとれるようになって良かった」と、彼自身は言っております。
生野菜の冷凍は、例えばカブの葉っぱやセロリの葉っぱなどは解凍して溶けると青臭さが出るので、切って冷凍したほうがいいです。凍ったまま使います。また、テレビの料理番組の撮影で里芋が1,2個余ることって結構あるんです。そのままにしていたら干からびるので、皮をむいて使いやすい大きさに切ってそのまま冷凍します。これもそのまま豚汁なんかに入れて火を通せば美味しくて便利です。
「こうじゃなきゃ」を取っ払う
ーーそのほかの食材も冷凍できますか。豆腐などは冷凍には向いていないと聞いたことがあります。
豆腐は確かに冷凍してそれを解凍すると、元の滑らかな状態にはなりません。水分が凍るので、解凍すると穴があく。でもね、そこから味が染みるんです。うちでは、これで自家製凍み豆腐を作ります。乾燥の高野豆腐のように煮るのです。うちの子どもたちはもう成人ですが、小さい頃には大好きでした。今でもツインの豆腐を買ってきて半分をすぐ食べて半分は冷凍します。こんにゃくもスポンジみたいにはなりますが、冷凍できます。
豆腐やこんにゃくは切らずに冷凍ね。少し解凍したらサクサク切れますから。「これはこうじゃなきゃダメ」という概念を取っ払ったら、やってみるとできることってありますよ。
ーー「こうじゃなきゃ」って思っているものってたくさんある気がします。テレビ番組で脇さんがスケッパー(薄いカード型の道具)でボウルについた食材をきれいにすくって料理に入れたり、調理台の水をシンクに掻き出してきれいにしたりする方法を紹介していて驚きました。スケッパーはお菓子作りにしか使わないものだと思っていたので。
調味料をこぼすときもあるでしょ。 私は家庭で料理をするときは、スケッパーを両手に持って少しずつすくって容器に戻すの。下の調理台をきれいにしていたら、調味料もきれいなままだから大丈夫よ。
お菓子作りの道具でシリコンヘラもありますが、私はもっぱら料理の炒め物などに使います。木べらで炒めてシリコンヘラで払うのではなく、耐熱性のものだとこれ1本で済ますことができます。東京大学の研究者の方が、製菓用シリコンベラを料理に使ったのはおそらく私が最初ではないかと思われるとおしゃっていました(笑)
私はフランス料理を習いましたが、フランスではいかに道具を使って早くきれいにできるかを問われるんです。千切りもスライサーを使って薄切りにしてそこから千切りにする。最初から全部千切りにするより厚みも揃うし、時間もかかりません。
そのときに最適な買い物を
ーーマツダのル・マン24時間レースの食事づくりをされていましたよね。約1週間のレース中、ドライバ―やスタッフなど100人以上の食事を作っていらしたとか。いろんな工夫があったのでは?
そうですね。スケジュールの関係上、金曜日が比較的、ゆっくりできる日だったから昼はバーベキューで夜はとんかつ。揚げ物やステーキはキャンピングカーの中で作るので大変でしたね。最多で110人ほどいましたから。
キャンピングカーの中だけでは料理が大変でしょ。だから、寝泊まりするホテルに交渉して、下準備をそっちでさせてもらえるようにしたんです。素泊まりはできなくてハーフペンション(1泊2食付き)だったから、夕食を食べなくても料金は一緒。朝食はヨーグルトやパン、コーヒーぐらいだから厨房は使っていない。だったら、ちょっと厨房を使わせてってね。
例えばラザニアやカレーだったら、ホテルのレストランのシェフのお力も借りて作ってもらい、仕上げだけキャンピングカーですることもありました。
ーー1週間分の110人の食事の買い物はどのようにしていたのですか。
生鮮食品は、ほとんど泊まっていたホテルのほうで買ってもらっていました。トイレットペーパーやティッシュ、ほこりにまみれないようなお菓子、お花など必要そうなものは最初に買っておいて、それで1週間をしのぐのです。
郊外型のショッピングセンターの大きなかご(コストコのカートほどの大きさ)に3つ分ぐらい買っていました。お花はパドックの食事用のテーブルの上に飾りました。がさつになりがちな場所もお花で心が和みました。どうしても必要なものが出てきたら、手の空いている人に買ってきてもらう。毎日、買い物していたら時間が足りませんでしたから。
レース時はそうでしたが、今の生活では違います。最近、買い物のしすぎだと気付いたのです。
きっかけは京都におうちを購入したこと。今、東京と京都を行ったり来たりしていて。腐ってしまうものを残しておけないでしょ? エンドレスでずっとここにいると思うから美味しそうなもの、お買い得な商品を買ってしまって冷蔵庫も冷凍庫も溢れてしまう。最近は、少しずつしか買わなくなりました。買ったものを見直すことって大事ですね。日々、自分にも言い聞かせています。
名前の付く料理を作らなくていい
ーータイムセールやお得コーナーを見るとつい買ってしまいます。買いすぎてしまったり味が好みでなかったり、と無駄にしてしまうこともあります。
うちは夫と仕事を一緒にしていて、二人とも会社に朝から出勤するといった生活じゃなかったからかもしれませんが、一日一品、多めに作って、また次の日も一品作って、残っている前日のものは常備菜として冷蔵庫に入れておき、順々に食べていくのです。うちの生活のサイクルでできたことでもあるけれど、あまり作りすぎなくていいし、一日一つだけだったら、なんとかできそうでしょ?
それも肉じゃが、白和え、など名前がある料理でなくていいの。ほうれんそうをゆでておかかとしょうゆをかけるだけでもいい。パプリカも焼いて皮をむいて塩とオイルだけでいいんです。なすを電子レンジでチンしてギュッと絞って好きな調味料をかけて食べてもいい。トマトを薄く切って玉ねぎのみじん切り、塩、酢、オイルをタラッとかければすごく美味しいですよ。
特に長女は野菜が好きでシンプルな食べ方が好きでした。お肉もフレンチのソースがかかったものより塩こしょうで焼いただけのものを好んでいました。
ーー子どもたちが偏食で食材がうまく使い切れないことがあります。例えば、長女は卵の白身だけ、次女は黄身だけしか食べない。野菜も好き嫌いが結構あります。
うちの次女も偏食で野菜を食べなかったですね……。食べないからといって食卓に出さなくなったら知る機会がなくなってしまう。嫌でも出す笑。「ちょっと食べてみたら?」「この味を知らないともったいないかもね」とか言ってみる。食べなかったら無理強いをせず、「ママ大好きなの。残念ね」って自分で食べる。
私は栄養士ではないので確実なことは言えませんが、子どもだったら1週間スパンで栄養を考えてもいい気がしています。「野菜が少ないからもっと食べさせないといけない」とか考えすぎるより、「これはいっぱい食べられたね」という面を見たほうが親子ともにストレスがないし楽しい。楽しんでやるのが一番です。意外と呑気だと言われますが、そうでないとお母さんはやっていられない笑。
ーーそう考えると心が軽くなる気がします。
子どもが小さかった頃は、「一緒に料理を作ろうね」って言いながらも、こぼしたりモタモタしたりしていたらイライラして。「ちょっとママがしようかな~」ってなっていましたけど笑。
食べ物の無駄をなくすことも日々の食事の準備も、気負いせず気楽に楽しく、固定観念にとらわれずにやっていけたらいいのでは、と思います。