大空幸星さんに聞く、社会から"孤独"をなくすための近道。「トー横も彼らにとっては大切な居場所」
24時間365日、匿名で利用できるオンラインチャット相談窓口の「あなたのいばしょ」。運営するNPO法人を設立した大空幸星さんが目指すのは、信頼できる人に確実にアクセスできる仕組みです。こども家庭庁の「こどもの居場所部会」委員も務める大空さんに聞く、"居場所"を求める人たちに向けた支援のあり方とは。
24時間365日、年齢や性別を問わず誰でも無料・匿名で利用できる相談窓口。さまざまな人たちの居場所となっているオンラインのチャット相談窓口を運営するのは、NPO法人「あなたのいばしょ」です。
2020年3月に同法人を設立したのは、当時は大学生だった理事長の大空幸星(おおぞら・こうき)さん。その背景にあったのは、大空さん自身が実際に経験したという"孤独"でした。
「複雑な家庭環境のなかで育ったということもあり、望まない孤独で悩むことも多くありました。そこで、信頼できる人に確実にアクセスできる仕組みをつくりたいと考えたことが、あなたのいばしょ設立のきっかけです」
設立当初の2020年3月といえば、新型コロナのまん延防止を目的とする緊急事態宣言が発出される直前のころ。そのため、当初は外出自粛などの行動制限が要因となった相談も多く寄せられたといいますが、この4年間で相談内容も徐々に変化してきていると話します。
「一斉休校などがあったコロナ禍の初期は、子育て中の方から『育児と家事でダブルストレス』といった相談が寄せられることもありました。ある程度は具体的な内容の相談が中心だった当初に比べ、その後の行動制限の緩和などで増えてきたのは『死にたい』といった漠然とした相談です。より重層的なものへと変化してきているのを感じています」
2023年5月に新型コロナが5類感染症に移行して以降は、希死念慮を思わせる深刻な相談がより増えていったと話す大空さん。人と人とのつながりが社会に戻り、その重要性が見直されている一方、つながりによって思い悩む人も出ているといいます。
「リーマンショック後や震災後など、社会の回復期には自殺者が増える傾向があります。人と人とのつながりが戻ると、それが自分にとって好ましくないつながりだった場合の拒絶感が大きく、悩みを深めてしまう人が増えるのだと考えられます」
つながりの多様化を否定しない
SNSの普及をはじめ、現代ではオンライン上でのつながりも増えています。
「SNSの存在もありますし、以前よりもコミュニケーション量は間違いなく増えていると思います。コミュニケーション量が増えていれば幅や多様性も広がり、つながりも当然強化されているはず。まずは、こうしたオンライン上のつながりに対する肯定的な見方が必要です」
「一方で、 オンライン上では自分にとって好ましいつながりを選択しきれていない現実もあると思います。人間にとって人や社会とのつながりは大切なものですが、やはり悩みは人間関係に起因する部分が非常に大きい。つまり、誰かとつながることで生じる問題もあるわけです。
ですから、いかに質の高いつながりにアクセスできるかが非常に重要なポイントで、オフラインvsオンラインといった二項対立ではなく、多角的な観点を持つことが大切だと思います」
大空さんは、「対面、非対面を問わず、あらゆるつながりにはリスクもある」と話します。SNSや教育現場で配布されたデバイスを使ったいじめ問題などもありますが、そういったものの存在を”悪”とするのではなく、可能な限りリスクを抑えることが必要だといいます。
「オンライン上でのつながりは、技術の発展とともに自然に広がっているものであり、それをふまえたうえで、ネットリテラシー教育やいじめ対策を考えるべきだと思います。つながりの多様化は社会が一歩前進していることだとも捉えられるわけですから、そのことは忘れないでいてほしいですね」
トー横も大切な居場所
近年、報じられている、東京・新宿歌舞伎町の「トー横」や大阪・道頓堀の「グリ下」。居場所を求める人たちが集団でたむろする場所として知られ、この場所に集う若者たちは「トー横キッズ」と呼ばれています。
こども家庭庁の「こどもの居場所部会」の委員を務める大空さん自身も、さまざまな形で彼ら・彼女らと関わってきたといいますが、「トー横」や「グリ下」といった場所自体が悪いわけではないと話します。
「家にいづらいから外に出る。居心地が良くない場所にい続けるよりは、自分にとって少しでも居心地のいい場所に行きたいと考え、トー横キッズたちは集まってきているわけです。
大人から見ると、犯罪の被害に遭う可能性もある『危険な場所』だと思いますが、それは大人の決めつけです。トー横キッズたち自身も危険だということは百も承知で、リスクがあるとわかったうえで集っている場合も多い。つまり、あの場所は彼らにとっての"居場所"なんです。
ですから、トー横を危険な場所と決めつけ、行政が強制封鎖や一斉補導をすることは彼らの居場所を奪うことにつながりかねず、それでは何の解決にもなりません。『危険だから排除する』という考え方で臨むのではなく、より安全な場所をつくり、そこへ誘導するという考え方が大切ではないでしょうか」
こうした社会情勢をふまえ、こども家庭庁は2024度に「こども若者シェルター」を創設すると発表。家庭に居場所がないこどもや若者を対象に、宿泊などできる居場所を提供する予定です。
行政による支援など、サポート体制自体は徐々に整ってきていると話す大空さん。今後進められる「こども若者シェルター」の整備などにも一定の理解を示す一方、こうした支援がアプローチできない層がいることも考慮すべきだと訴えます。
「トー横に集まるのは、ある程度のコミュニケーション能力と行動力がある子たち。 つまり、行政などが新しい居場所をつくった場合も、自らの足で行くことができる子たちなんです。
一方で、支援情報にアクセスできなかったり、行動する気力すらなかったりする子たちもたくさんいます。そうした層にどのように情報を届け、具体的に支援していくことができるかが課題です。例えば、私たちのように匿名のオンライン相談窓口を広げていくことを含め、悩みを抱える人たちへプッシュ型で情報を届ける体制が必要不可欠です」
孤独をなくすための近道
可視化されづらい人々がいる背景には、支援を求める当事者たちが声を上げづらい社会であることも関係しているといいます。大空さんは、社会におけるスティグマ(差別、偏見の意)をなくしていくことも支援につながると強調します。
「日本では、『頼ることは恥ずかしい』『助けを求めることは負けだ』といった感覚が、ある種の文化として根付いているように感じます。 そうすると、助けを必要としている人がなかなか声を上げられず、可視化されづらい状況につながってしまうのです。
私たちの相談窓口を利用する人というのは、そんな悪しき文化を振り切ってアクセスしてくれた人たちです。社会や支援制度の狭間でもがき、非常に苦しい立場に置かれた人たちの生の声を、しっかりと外に発信していく。そうすることで少しでもスティグマをなくしていくことが、我々がしなければならないことだと考えています」
声なき者の声を代弁し、より寛容な社会を目指していく。その実現には、社会に生きる私たち一人ひとりができる小さな努力も欠かせません。
「誰かに手を差し伸べるために、自分を犠牲にすることだけはしてはいけません。自分の心を大切にしつつ、少し余白が生まれたときに、周囲で困っている人に声をかける、ボランティアに参加するくらいが理想的なかたちです。
私たち一人ひとりが自分の『心』を大切にする。そうすることが、実は社会から孤独をなくす一番の近道なのです」