穴があいたバッグの持ち込み待ってます。有名ブランドが修理を通して伝えたい物語

難波寛彦

傷んだり壊れたりした製品を修理し、すでにあるものを長く使い続ける。その価値を伝えていくため、ブランドも動き出しています。東京の渋谷・原宿エリアに出店するブランドは、合同でリペアイベント「DO REPAIRS (ドゥ・リペアーズ)」を開催。アパレルやバッグの縫製修理、メンテナンス方法の実演などが行われた同イベントは今回で2回目の開催となり、ブランドや企業の垣根を越えた画期的な取り組みとなっています。開催期間中に行われたトークショーの模様を取材しました。

東京・原宿のキャットストリート。有名ショップが軒を連ねるこの通りは、感度の高い人々が集うファッションの街として知られています。そんなキャットストリート周辺に出店するさまざまなブランドが合同で開催したリペアイベント「DO REPAIRS (ドゥ・リペアーズ)」が、2023年9月29日から3日間に渡って行われました。

2023年5月に続き、今回が2回目の開催となったDO REPAIRS。「ブランドや企業の垣根を越えて共に力を合わせ、すでにあるものを長く使い続けることの価値を社会に伝えていきたい」というステートメントのもと、考えに賛同するザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)、 パタゴニア(PATAGONIA)、アークテリクス(ARC’TERYX)、キーン(KEEN)などのブランドが手を取り合い、ひとつの製品を長く大切に使い続けることを楽しむためのコンテンツを提供するイベント。アパレルやバッグ、シューズの修理やクリーニングだけではなく、自分の手で修理するセルフリペア体験なども行われました。

Hirohiko Namba / OTEMOTO

長く使い続けることの価値

初日には、参加ブランドとボランティアスタッフ(学生・若手クリエイター)によるトークセッションを開催。参加ブランドのひとつであるザ・ノース・フェイスの担当者は、DO REPAIRSについて「モノのストーリーを見つめ直す機会でもある」と話します。

「DO REPAIRSは端的に言えばリペア、つまりモノを修理するためのイベントです。持ち込まれる製品には、友人にプレゼントされたTシャツだったり、家族から受け継いだバッグなどの思い出の品もあるはず。修理の機会を通じてそうしたモノのストーリーを再認識し、愛着を持って長く使い続けてもらいたい。それが結果的に、限りある資源を無駄にせず環境への負荷を減らすことにもつながると考えています」

モノのストーリーを介することは、当事者意識をもつことにもつながる。DO REPAIRSには、そうしたきっかけとしての側面もあるのだといいます。

「『自分一人が環境に配慮することで何が変わる?』という疑問を持たれたことがある方は少なくないはずです。同様に、参加ブランドさんからも『1社だけでできることには限界がある』という声がありました。1人、1社だけでは小さなことも、何十人、何百人となることで大きな影響力をもつ。だからこそ、ブランドの垣根を越えて行うDO REPAIRSには大きな意義があるのです」

写真提供:DO REPAIRS 運営事務局

各ブランドに共通する思い

第1回目の開催時には6ブランドだった参加ブランドも、2回目となる今回は11ブランドに。本来であれば競合の立場にあるブランドや、アパレルとは直接関係のない異業種のブランドも参加しています。そうしたブランドが肩を並べて取り組みを行うこと自体がメッセージとなり、リペアの認知拡大という点においても大きなインパクトを与えることができるのだといいます。

新たに参加したブランドの担当者からは、「1回目の開催時から注目していて、次回はぜひ参加したいと思っていた。長持ちするものづくりをブランドとしても強く意識しているので、DO REPAIRSへの参加は大きな意義がある(キーン)」「シューケアブランドとして『ケア』という言葉を全ての行動の核心として位置づけているので、同じ思いを持つイベントへの参加はとても名誉なことに感じている(ジェイソンマーク)」「環境先進国スウェーデンで生まれたブランドなので、サステナブルな取り組みを創業時から大切にしてきた。イベントを通してリペアに対する考え方などを学び、社内でも共有しながらブランドとしての発信にも生かしたい(フェールラーベン)」といったポジティブな声が聞かれました。

2回目となった今回は、ボランティアの参加など各ブランド以外の人とも関わりを広げています。多くの人が手を携え、DO REPAIRSをより大きなムーブメントにしていくことがこのイベントの趣旨でもあるのです。

トークイベントの後半では、参加したボランティアから「カスタマーの要望にどのように応えるかといった、各ブランドの姿勢を間近で見ることができる機会になった。修理の可否など素人ではわからない部分もあり、リペアについての学びを深めていきたいと感じた」といった声も聞かれました。

また、製品を直営店へ持ち込み・送付することで修理を受け付けているフライターグへは、基本的に全ての傷を”治療”するというリペアのプロ『バッグドクター』のスキル育成に関する質問も。

「利益を追求しない形を今後も維持することで、DO REPAIRSがイベントに関わる人たちのコミュニティとなっていったら嬉しい。今後は渋谷・原宿エリアだけではなく、出張DO REPAIRSのようなサービスも展開していけたら(アークテリクス)」といった今後の展望についても話が広がり、まさにブランドの垣根を越えたイベントであることが感じられました。

サステナブルな未来の実現には、素材や生産工程が環境に配慮しているかはもちろんのこと、一人ひとりがモノを大切に使い続ける努力も必要となります。前述のように「モノのストーリーを介することで当事者意識をもつ」ことの第一歩として、リペアの重要性は今後も高まっていきそうです。

著者
難波寛彦
大学卒業後、新卒で外資系アパレル企業に入社。2016年に入社した編集プロダクションで、ファッション誌のウェブ版の編集に携わる。2018年ハースト・デジタル・ジャパン入社。Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画などを担当。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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