悩みを聞いてくれたのは、スマホの向こう側の人だった。SNSなどを活用した「デジタルアウトリーチ」支援の可能性

難波寛彦

若者たちの孤立の解決に向けた活動を行う認定NPO法人D×Pが、孤立孤独・生活苦を抱える若者たちを対象に行ったアンケート調査の結果を発表。調査結果からわかったのは、支援が必要にもかかわらず「誰にも相談したくない」と考えている若者が一定数いたこと。そして、若者たちに身近なSNSなどデジタルツールを活用した支援策「デジタルアウトリーチ」の可能性でした。

不登校や中退、経済的困難など、さまざまな境遇にある10代の孤立を解決するための活動を行っている認定NPO法人D×P。LINE相談事業の「ユキサキチャット」で全国から相談を受け付けているほか、現金給付や食糧支援など生活に直結する支援も行っています。

今回のアンケート調査の対象となったのは、生活の困窮や望まぬ妊娠といった悩みを抱えた人たち。これは、休眠預金などを社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用する休眠預金等活用事業の「孤立孤独/生活苦を抱える若者への緊急支援事業」で採択された7つの支援団体からの支援の対象者です。

各団体への助成を行った認定NPO法人D×Pは、共同で資金分配を行ったREADYFOR株式会社とともにアンケート調査を実施。デジタルアウトリーチ(ネット検索連動広告やSNS活用など)などをきっかけに、2023年8月〜2024年2月にかけて相談支援・同行支援・物資支援などの支援を受けた1万2765人のうち、約18%にあたる2347人から回答を得ました。

誰にも相談したくない若者たち

READYFOR株式会社の市川衛さん、認定NPO法人D×P理事長の今井紀明さん
左から / READYFOR株式会社の市川衛さん、認定NPO法人D×P理事長の今井紀明さん
写真提供:認定NPO法人D×P

回答者のうち、特に15〜19歳の若者(481人)が持つ相談ニーズの特徴として挙げられたのは「無料で相談できる(50.9%)」「相手が同じ悩みを持っている、持っていたことがある(45.5%)」「匿名で(自分が誰かを知られずに)相談できる(43.9%)」といったもの。無料かつ匿名で利用でき、相談者と担当者が立場や目線で交流できるサービスの重要性が示唆されたといいます。

認定NPO法人D×P「孤立孤独/生活苦を抱える若者たち2347人アンケート調査結果発表と今後の対策について」会見資料
出典:認定NPO法人D×P「孤立孤独/生活苦を抱える若者たち2347人アンケート調査結果発表と今後の対策について」会見資料

一方で、15〜19歳の回答者の8.3%が「誰にも相談したくない」と回答。内閣府の「こども・若者の意識と生活に関する調査(2022)」でも10.7%が同様の回答をしており、いずれの調査でも約1割が「誰にも相談したくない」と感じていることがわかります。

認定NPO法人D×P「孤立孤独/生活苦を抱える若者たち2347人アンケート調査結果発表と今後の対策について」会見資料
出典:認定NPO法人D×P「孤立孤独/生活苦を抱える若者たち2347人アンケート調査結果発表と今後の対策について」会見資料

「誰にも相談したくない」理由を全体の15〜39歳で見ると、多いのは「相談しても解決できないと思うから(80.0%)」「相手にうまく伝えられないから(63.0%)」など。

前述の内閣府の調査結果と比べると全体的に不安感や諦めがより強い傾向となっていましたが、READYFOR株式会社の市川衛さんは「不安を抱えながらリアルの相談窓口には行きづらいと感じる人たちが回答していることから、今回のデジタルアウトリーチ支援には敷居を低く感じてくれたのではないか」と話します。

デジタル活用で幅広くアプローチ

7団体のうちのひとつで、居場所のない妊婦たちへの支援を行う認定NPO法人ピッコラーレは、「孤立孤独/生活苦を抱える若者への緊急支援事業」を活用し、2023年10月から2024年2月にかけてWEB広告を配信。その結果、配信期間の同NPOのホームページのアクセス数は、配信前の月に比べ平均で4.7倍に、相談件数も多い月では約3倍になったといいます。

認定NPO法人D×P「孤立孤独/生活苦を抱える若者たち2347人アンケート調査結果発表と今後の対策について」会見資料
出典:認定NPO法人D×P「孤立孤独/生活苦を抱える若者たち2347人アンケート調査結果発表と今後の対策について」会見資料

ピッコラーレの尾原亮子さんは、「配信期間後には相談件数が減少したことからも、WEB広告によるデジタルアウトリーチをしていなければアプローチできなかった人たちと、今回の事業を通してつながることができたのではないか」と話します。

認定NPO法人ピッコラーレの尾原亮子さん、佐藤紀子さん
左から / 認定NPO法人ピッコラーレの尾原亮子さん、佐藤紀子さん
写真提供:認定NPO法人D×P

実際に、「避妊に失敗したかもしれない」という不安を抱える若者からの相談につながったケースも。ピッコラーレで相談支援員を務める社会福祉士の佐藤紀子さんも「デジタルネイティブ世代はわからないことがあるとネットを”先生”としますが、教えてくれることはバラバラです。そうした状況で検索をするなかで私たちの相談窓口に辿り着き、結果的に安心感をもたらすことができたことは、デジタルアウトリーチの大きな効果だと考えられます」と、より効果的な支援につながる可能性に言及しました。

あらゆる悩みにオンライン活用を

写真はイメージです
Adobe Stock / UTS

ネット検索連動広告やSNS活用など、若者たちに身近なデジタルツールを活用したデジタルアウトリーチ支援の可能性。認定NPO法人D×P理事長の今井紀明さんも、今回のアンケート調査の結果から、今後のさまざまな支援のあり方が見えてきたと話します。

「いじめ相談などのオンラインでの支援は、文部科学省や厚生労働省を中心に積極的に行われています。しかし、困窮状態や妊娠の悩みなどを抱えて孤立している人、特に若者たちに対しては国や自治体がリーチしきれていないのが現状だと考えています」

「現場で様子を見て、制度を知らないという人はもちろん、知っていたとしても窓口に行けない、電話では相談しづらいといった、さまざまな壁が若者たちにはあると感じました。オンラインで各種相談や申請ができるような仕組みをつくることが、次のステップとして必要なのではないかと思います」

著者
難波寛彦
大学卒業後、新卒で外資系アパレル企業に入社。2016年に入社した編集プロダクションで、ファッション誌のウェブ版の編集に携わる。2018年にハースト・デジタル・ジャパン入社し、Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画などを担当。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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