製造工場では「1分単位」のタイムカードを導入。那須から各地へと広まる、課題解決型スイーツが目指す未来
那須銘菓として人気を博している「バターのいとこ」。バター作りの過程で大量にできる無脂肪乳の活用によって2018年に誕生したこのお菓子は、店頭に並ぶやいなや即完売することもある人気商品です。バターのいとこを手がける株式会社GOOD NEWS代表の宮本吾一さんは、次のステップとして那須以外での販売を思い立ちます。
「地方や生産者のさまざまな課題を耳にするうちに、ただ新しいものをつくるだけではなく、しっかりと販売していくことの必要性も感じ始めました。そこで、圧倒的に多くの人が集まる東京に力を貸してもらおうと思ったんです。
例えば、東海道新幹線が停車する品川駅、国内最大の空港である羽田空港は、さまざまな地域へとつながるゲートウェイと呼ばれる場所。東京にいながらにして全国とつながることができる場所なら、帰省や旅行などの際に購入してもらうことで、自然な形でバターのいとこを広めていけると考えました。
また、そうした場所での販売は、縁がない人が地方の課題解決の一翼を担うことにつながり、それが生産者のためにもなる。人間社会はつながりがあってできているということを、可視化させたいという狙いもありました」
人とのつながりを可視化
人と人とのつながりを重視する姿勢は、バターのいとこを製造する工場での雇用のあり方にも。病気や障がいなどで一般就労が難しい人を対象に、就労機会の提供や訓練を実施する就労継続支援A型を導入しているのです。
「バターのいとこ誕生のきっかけのように、多様なコミュニケーションを創出する会社にしたいと考えていたのですが、そこにはいろんな人がいた方がいいと思ったんです。
そして、那須町の人口は約2.5万人ほどで、別荘地でもあるため実態としての働き手はとても少ない。おまけに、進学などで20歳前後の若者たちの多くも県外に出ていってしまう。多様性、そして働き手の確保に合致した仕組みが就労継続支援でした」
就労継続支援にはA型とB型がありますが、比較的自由度の高いB型に対し、A型は勤務時間や日数に条件があるため、ある程度の安定した就労が必要となります。事業への導入には難しい側面もありましたが、宮本さんたちは当事者たちにヒアリングを重ね、より働きやすい労働環境も目指しています。
「障害がある人は、身体、知的、精神の3つに別れています。そのうち、精神障害がある人は、厳密な拘束時間が苦手という人が多いことがわかったんです。
そこで導入したのは、1分単位のタイムカード。そうすることで、例えば9時1分に打っても遅刻にはならないし、逆に8時59分に打っても早すぎることはなく、1分単位で給料が支払われます。
これにより精神的負担が軽くなり、継続的に来てもらえるようになる。そうすると生産性も上がるので、働く人も会社もハッピーになれるというわけです」
さらに、1分単位のタイムカードの導入によって確保できたのは、子育て中の主婦という地域で埋もれてしまっていた働き手の存在でした。決まった時間に働いてほしい会社と、働きたい時間が日ごとに変わる主婦という、アンマッチしていた需要と供給をマッチさせることにつながったのです。
また、製造量についても、日ごとではなく月ごとに安定させる方針に。これにより、労働力が少ない日は少なめに、多い日には多めにつくることができ、1か月単位で帳尻を合わせるというスタイルが生まれました。
「効率だけを考えたら、ある程度の時間を拘束して、一定量のノルマを課したらもちろん生産性は上がります。でも、 僕らは効率だけを求めてやってはいないので。生産者、障がいがある人や主婦のみなさん、そして、会社としてもハッピーになれることを目指しています」
住んでいるからこそ、できること
さまざまな取り組みを通し、地域特有の課題を、地域の人たちとともに解決することを目指している宮本さん。大切にしているのは、"手で触れられる"ほど身近な、同じ地域に住む人々の幸せの形です。
「いわゆる"地方創生"のような、大それたことを考えてやっているわけではないんです。同じ地域に住む人たちが、より幸せに暮らしていくためにはどうすればいいか。そのことを一番に考えて取り組んでいます。
ある意味、地方創生というのは、都会から地方を俯瞰した言葉。でも、僕たちは俯瞰して見ているわけではありません。だって、実際に地方に住んでいますからね。
地方の人たちが、地方の人たちのために手を取り合う。地域に根差し、地域から変えていくというスケール感が、アメーバのように拡張していくことが、結果的に地方の盛り上がりにもつながるのではないでしょうか」