地球上の景色を残したい。衛星写真から生まれた、名前のない色のクレヨン

小林明子

水色は本当に水の色なのだろうかーー。衛星写真から見えたさまざまな色の海を再現した「海のクレヨン」は、私たちが無意識に感じている色の「常識」を覆します。制作したのは衛星通信事業を手掛けるスカパーJSAT。地球の「色」をギュッと握り、子どもたちは世界にひとつだけの作品を彩ることができます。

いかにも汚染されているように見える黒っぽい海。アメリカのジョージア州とフロリダ州の間を流れるセントメアリーズ川の河口付近には、堆積した枯れ葉などから染み出したタンニンによって色づいた水が流れています。

セントメアリーズ川
St.Marys River,United States. ©︎ 2022, Planet Labs PBC. All Rights Reserved

「実は、水質が良く栄養豊富な川の水が流れているんです。世界には知らない色の海がたくさんあることを、子どもたちにも知ってもらいたいと思いました」

スカパーJSAT株式会社で「Satellite Crayon Project」のプロジェクトリーダーをつとめる清野正一郎さんは、プロジェクトにかけた思いをこう語ります。

清野正一郎さん
「Satellite Crayon Project」を企画し、プロジェクトリーダをつとめる清野正一郎さん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

赤や黄色の海もある

発端は2021年、清野さんが偶然「赤い海」を見つけたことでした。

「宇宙飛行士の方がよく『宇宙から地球を見ると価値観が変わる』と言いますよね。どんな体験なのかと気になり、地球にいながら地球を俯瞰できるようなプロジェクトができないかと模索していたんです」

同社は1989年に日本企業として初めて通信衛星を打ち上げ、宇宙事業とメディア事業をおこなっています。人工衛星を利用して上空から撮影する衛星写真は地球の様子をリアルタイムに観測し、災害の予測などに活用されています。

ある時、衛星写真を見せてもらっていた清野さんは「赤い海」を見つけて驚きました。

腐海
Syvash, Ukraine. ©︎ 2022, Planet Labs PBC. All Rights Reserved

場所を調べると、ウクライナにある「腐海」と呼ばれる干潟でした。浅くて水温や塩分濃度が高いため、藻が異常に繁殖し、βカロテンを生成して赤い色になっているのです。さらに、黒や黄色っぽい色の海もありました。

「海といえば青をイメージしていましたが、赤や黄色の海もあるんだと初めて知りました。当時4歳だった長男にも、地球が持つ色の豊かさを伝えたいと思いました」

子どもにとって身近なものを通して、地球のさまざまな色を伝えられないだろうか。思いついたのが、クレヨンをつくることでした。衛星写真にうつる地球の色をクレヨンで忠実に再現しようと考えたのです。

海のクレヨン
「海のクレヨン」のパッケージには、色の元になった海の衛星写真が入っている
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

クレヨンに記された数字の意味

アイデアは生まれたものの、会社も清野さん自身もものづくりとは無縁でした。クレヨンを制作している会社を検索してリストにし、上から順に連絡をとっていきました。

「写真に合わせてオリジナルの色をつくってもらえませんか」

工場にとっては新しい色をつくるのが難しいことに加え、既存の色の製造ラインを止めなければならないため、門前払いされることが続きました。

電話をかけ続けるのをあきらめかけていたときに、「おもしろいですね」と予想外の反応をしてくれたのが、名古屋市の東一文具工業所でした。「この色でつくってほしいんです」。衛星写真に色見本を貼って送付し、何度もやり取りと試作を重ね、オリジナルの色のクレヨンができました。

海のクレヨン
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

完成した「海のクレヨン」は12色、みつろうなど天然由来の素材でつくられています。一般的なクレヨンと異なるのは、その独特な色に加え、色の名前がないこと。代わりに、色を抽出した場所の座標である緯度と経度が記されています。

「地球のそのままの色をクレヨン職人さんに再現していただいたので、既存の色の名前にあてはめたくなかったんです。同じ海の中でもこの地点の色でつくってほしいとお願いしたので、あえて海の名前も入れませんでした。『この数字って何?』『地球の住所だよ』などと親子の会話のきっかけになるとうれしいです」

なくなるかもしれない色

2021年10月にクラウドファンディングで制作費を募ったところ、目標の150万円を3日で達成。最終的には倍以上の318万円が集まりました。

「海のクレヨン」は2022年1月に販売を開始。公式サイトには、クレヨンの色の元になった衛星写真と場所の解説が載っています。

「腐海の解説のためにウクライナ大使館に取材をしましたが、その後ロシアによる侵攻がありました。当時は戦争が起きるなんて想像もしていませんでした」と清野さん。

腐海はウクライナ南部とクリミア半島の間のアゾフ海にあり、今は渡航自粛が呼びかけられています。

「クレヨンの色は衛星写真が撮影された瞬間を切り取っていますが、環境が変わってしまうと、この色が失われていく可能性もあるのです」

海のクレヨン
©︎ 2022, Planet Labs PBC. All Rights Reserved

グリーンランドで長い年月をかけてできた氷床は、温暖化により融解が進んでいます。赤道付近にあるキリバスの島々は、海面上昇によって2050年には浸水する可能性が指摘されています。

「海のクレヨン」の色には名前はありませんが、それぞれの色に「理由」があるのだと清野さんは言います。

「地球環境を守ろうとよく言われますが、個人にとっては大きすぎるミッションです。まずその場所を好きになったり大切だと思ったりしていないと、守ろうという気持ちにもつながりません。このクレヨンが、子どもたちが地球に興味をもつきっかけになるとうれしいです」

海のクレヨン
「海のクレヨン」(手前)と「山のクレヨン」(奥)、いずれも12色 / 各2420円
世界三大デザイン賞である「レッドドット・デザイン賞 2022」「iF DESIGN AWARD 2023」などを受賞
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

いつもの色がないから

2023年3月には、第2弾の「山のクレヨン」も発売。いずれも一般的なクレヨンとは色のバリエーションが異なるため、子どもたちがお絵描きするときの様子にも変化が見られるといいます。

「ワークショップでは『このクレヨンを使うと子どもが絵を工夫するようになった』と話してくれた方もいます。無意識に太陽は赤、海は青、山は緑を使って描きがちですが、いつも使っている色がないから、どうやって描こうかと考えるようです。お絵描きの殻をどんどん破ってもらえたら」

海のクレヨン
出典:スカパーJSAT株式会社

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著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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