まって、そのティッシュ捨てちゃう? 話題の「ごみゼロ」ホテルに泊まってみた
日本で初めて自治体として「ゼロ・ウェイスト宣言」をした徳島県上勝町。ごみを出さない社会を目指して町外に向けた発信もしており、拠点となる施設では観光客が「ごみゼロの暮らし」を疑似体験することができます。この施設にあるゼロ・ウェイストアクションホテル「HOTEL WHY」に1泊し、ごみをどれだけ減らすことができるのか、挑戦してみました。
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ゼロ・ウェイストとは、無駄・ごみ・浪費をなくすため、ごみを生み出さない社会を目指す考え方。この理念を広めるため、2020年5月30日(ごみゼロの日)に設立された「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」の一角に、ゼロ・ウェイストアクションホテル「HOTEL WHY」はあります。
徳島阿波おどり空港から車で約1時間半の山あいにある上勝町は、人口約1400人。この町では、ごみ収集車が走っていません。
町民はゼロ・ウェイストセンター内にある「ゴミステーション」に家庭ごみを持ち込み、45分別します。このうち「どうしても燃やさなければならないもの」など6分類を除いてすべて再資源化されるため、上勝町の2020年度のリサイクル率は81.0%。全国平均の20.0%を大きく上回っています。
「HOTEL WHY」ではゼロ・ウェイスト生活の疑似体験ができると聞き、2023年5月下旬、宿泊してみました。
アメニティのないホテル
午後3時、上勝町ゼロ・ウェイストセンターの受付でホテルにチェックインします。タブレットでサインするのでペーパーレス。ここで滞在中の注意事項の説明を受けます。
まず、アメニティの用意はないとのこと。石鹸は、滞在中に必要な分だけをここで切り分けて部屋に持ち込みます。
1泊で使う石鹸の量なんて想像したこともありませんでした。厚さ2ミリくらい......? このときの判断を翌日になって「1ミリで十分だった」と反省することになるのでした。
また、ウェルカムドリンクとしてコーヒーと上勝晩茶を勧めてもらいました。コーヒー2杯分、晩茶1杯分をお願いすると、スタッフがその場で豆を挽いてコーヒー粉と茶葉をキャニスターに入れてくれました。
いざお部屋に向かいます!
ゼロ・ウェイストセンターやHOTEL WHYの建築資材は、町内に豊富にある杉やヒノキを使用し、端材が出ないよう丸太を半分に割るなど最小限の加工をしています。
床や壁は廃材をリユース。廃校や町民の自宅の倉庫で眠っていた古い窓を集めて再利用しているので、窓の形や大きさはバラバラです。
ホテルは全4室。各部屋はドーナツ状に配置されています。ルームキーは暗証番号を入力する電気錠タイプで、カードキーやケースはありません。
部屋の1階にソファとデスク、浴室があります。いたるところに廃材やリユースの資材が使われています。
浴室の壁や床は、町内のリユースショップ「くるくるショップ」で持ち帰りのなかった陶器を建材としてアップサイクルしたものを使用しています。
2階は読書スペースとトイレです。
室内にテレビはありません。Bluetoothスピーカーを内蔵したライトや本が置かれており、日常の喧騒から離れてゆっくり過ごす時間を提案されているように感じました。
ティッシュを使う罪悪感
部屋にごみ箱はなく、滞在中に出たごみは、ごみバスケットの中の容器を使ってまず6種類に分別することになっています。
宿泊者に向けては、上勝町のゼロ・ウェイストの取り組みについて30分ほどのレクチャーがあるため、分別の基本的な方法はここで知ることができます。
荷物を片付けたので、晩茶とコーヒーを淹れて一息つきます。
ここでさっそく、ごみ問題にぶつかりました。出涸らしの茶葉とコーヒーかすです。
通常、生ごみは「燃えるごみ」ですが、上勝町では生ごみをコンポスターで分解して堆肥にしているため、紙ごみなどとは分ける必要があります。
コーヒーかすをティースプーンですくって生ごみの分別容器に移すとき、汁を洗面台にこぼしてしまいました。さっとティッシュで拭き取ろうとして、ふと手が止まります。
普段「燃えるごみ」として何気なく捨てている使用済みティッシュは、上勝町では「どうしても燃やさなければならないもの」にあたります。つまり、リサイクル率81%を達成している上勝町で残り19%にあたる、リサイクルできないごみ。いわばゼロ・ウェイストを阻んでいるごみなのです。
リサイクルできないごみを減らすには、ごみを出さないようにするしかありません。自宅なら雑巾を使うという選択肢がありますが、ここではティッシュ1枚の隅っこだけを控えめに使って拭き、あとで使うために残しておきました。
カップ麺の汁まで飲む
予想外に分別にモタついてしまい、町内の飲食店の閉店時間を過ぎてしまいました。コンビニが1軒もない上勝町。非常食として持参したカップ麺を開封することに。
外側のビニールがプラスチックであることはわかりますが、裏が銀色にコーティングされた紙の蓋、汚れた紙カップ、付属の辛味オイルの小さな袋など、分別の難易度が高そうな予感がします。
生ごみを減らしたいがために、汁まで飲み干しました。
せっかくコーヒーを淹れたからと、ついデザートにまで手が伸びてしまいました。ごみになるものを出してしまった罪悪感を覚えつつ、この日は就寝です。
完食してもごみは出る
翌朝、ウグイスの鳴き声とともに目覚めます。
宿泊者には朝食がついており、上勝町内にあるブルワリー「RISE & WIN Brewing Co.」のお弁当が届けられます。
徳島のソウルフードであるフィッシュカツや新鮮な野菜を、トーストしたベーグルに挟んでいただきます。温かいミネストローネスープ、ビール醸造後に出たココナッツを再利用したナッツグラノーラ、ヨーグルトもあり、心も体もほっこりする朝食です。
完食したものの、オレンジの皮だけ残ってしまったので、生ごみの容器に入れておきます。
滞在中に出したごみを6分別したのがこちら。
- 飲料ボトル......なし
- 紙類・金属類.......石鹸をのせていた新聞紙、ベーグルの紙袋、使用済み電池
- きれいなプラ容器......クッキーの包装、カップ麺のビニール包装
- 汚れているプラ・紙類......カップ麺のカップと蓋、オイルの小袋
- どうしても燃やさなければならないもの......使用済みティッシュ4枚
- 生ごみ......コーヒーかす、出涸らしの茶葉、オレンジの皮
チェックアウトの際に、ごみバスケットを持ってゴミステーションに向かいます。ここから45分別のルールに沿ってさらに分別するためです。
紙だけで9分別
ゴミステーションの受け入れ時間内であれば毎日、町民は都合のよいときにごみを持ち込むことができます。
紙だけで9種類、プラスチックは5種類、瓶は4種類......。分別ルールは細かいですが、迷ったら職員に質問すると教えてもらえます。
生ごみはここには持ち込まれないため、意外なことに臭いはほとんどありません。
持ってきたごみを分別していきます。
新聞紙、紙袋はそれぞれリサイクルできる紙資源として分別します。
紙や金属は業者に有価で引き取ってもらえるため、年間90万〜150万円ほどが町の収入になっているそうです。
取材中に切れてしまったICレコーダーの電池にも指定席がありました。普段はつい「燃やさないごみ」として出してしまっている乾電池。ここでは回収後、鉄鋼製品にリサイクルされます。
「プラ」のマークのあるクッキーの包装は、「プラスチック製容器包装」の箱に。しかし、内側に油脂が残っていたことから、職員から「待った!」がかかりました。きれいに洗って乾かさなければプラスチックとしてはリサイクルできないとのこと。
2022年4月にプラスチック資源循環促進法が施行され、容器包装だけでなく、ハンガーやおもちゃなどプラスチック製品も資源として回収する自治体が増えています。分別方法や汚れの落とし方などは自治体のルールを改めて確認したほうがよさそうだと思いました。
さて、懸念のカップ麺です。
洗っても汚れを落とせないため、紙カップと蓋は「その他の紙」、オイルの小袋は「廃プラ」に。「その他の紙」や「廃プラ」は紙やプラとしてはリサイクルできませんが、ここでは固形燃料に加工されます。
そして生ごみ。ほとんどの町民は家庭にコンポスターがあり、自宅で堆肥にしています。宿泊者は、ゼロ・ウェイストセンターの裏にあるコンポスターに埋めます。
微生物の働きで生ごみを分解するコンポスター。貝殻や大きな骨以外のほとんどの生ごみが、数週間で分解されて堆肥になります。
分解されやすいよう、穴を掘って水をかけ、埋めていきます。
燃やすごみ格差
最後に、使用済みティッシュ4枚が残りました。
リサイクル率を下げてしまった申し訳なさとともに、小さく丸めて「どうしても燃やさなければならないもの」のカゴに入れます。
筆者が住んでいる自治体には、1日600トンの焼却能力がある清掃工場があります。家庭では肉や魚のトレイ、ペットボトル、瓶などは「資源ごみ」として分別しているものの、やはり「燃やすごみ」の量がダントツに多くなります。ほとんどが生ごみと紙ごみ、汚れたプラ容器包装です。
「HOTEL WHY」の45分別体験では、これまで「燃やすごみ」として何気なく捨てていたものも資源として再利用できることを学びました。ただ、洗浄や分別、回収の手間を考えると、上勝町と同じように日常的に分別することは非現実的であることも突きつけられました。
ごみを減らすには分別や回収だけでなく、無駄な買い物を減らすなど生活スタイルの転換も必要です。上勝町は、その課題にも向き合っていました。
※写真:すべて Akiko Kobayashi / OTEMOTO