「かわいい」にとらわれない美容をはじめよう。アットコスメ前編集長がクリスマスに伝えたかったこと
コスメ・美容の総合サイト「@cosme(アットコスメ)」は2022年4月、エシカルに特化したプロジェクトをはじめました。インスタグラム @cosme BEAUTYHOOD ではコスメを紹介するだけでなく、美の固定観念への挑戦も仕掛けています。@cosme BEAUTYHOOD推進室・室長の篠田慶子さんに、プロジェクトのねらいを聞きました。
ーー「@cosme(アットコスメ)」は日本最大のコスメサイトで、公式インスタグラムも50万フォロワーを超えています。なぜ、新しくインスタアカウントを開設したのでしょう。
2022年4月下旬にエシカルな美容プロジェクト「@cosme BEAUTYHOOD」を発足させ、インスタグラムで発信しています。インスタだけでなく立体的に展開していきたいので、あえて「アカウント」ではなく「プロジェクト」と呼んでいます。
私は2022年6月まで@cosme編集長をつとめていました。エシカルに特化した情報発信が必要だと考え、社内で提案し「@cosme BEAUTYHOOD」をローンチすることになりました。いまは @cosme BEAUTYHOOD推進室・室長としてプロジェクトをリードしています。
@cosmeは日本最大のコスメ・美容の総合サイトで、累計クチコミ数は1880万件を超えます。エシカルに関わらずあらゆる美容情報が網羅されているプラットフォームです。
@cosmeを訪れる人すべてがエシカルに関心があるわけではないですし、エシカルの情報を発信してもたくさんの美容情報に埋もれてしまいます。本体とは別のアカウントを新たにつくることで、より伝わりやすくなるのではと考えました。
美容を通して社会をよくしたい
エシカルに特化したきっかけは、私が@cosmeの仕事とは別に、公益性のある企業の指針となる認証「B Corp」の公認ハンドブックの翻訳メンバーとして活動していたことも影響しています。
2022年7月にハンドブックの日本語版を出版するにあたり、多様な属性や職業、バックグラウンドをもつメンバーと議論しながら、翻訳の共同作業をしてきました。その過程で、ビジネスを通して社会をよりよくしていこうとしている海外の企業の事例をたくさん知ることができました。
利益を追求するために新製品をつくってはどんどん売るというのは、化粧品業界でもよく見られる光景です。ビジネスとして当然のことではありますが、そうした資本主義のビジネスモデルだけでは限界を迎えている面もあるのではないでしょうか。
美容を通して社会をよりよくすることができるはずだという思いが、このプロジェクトの出発点となりました。
ーーとはいえ、コスメの新製品や季節ごとの新色の発売を楽しみにしている消費者も多いですよね。@cosme の運営会社として、社内での逆風はなかったのでしょうか。
@cosmeの運営会社であるアイスタイルのビジネスを長期的に考えたときに、いまやっておいたほうがいい、と強い思いを社内で伝えました。「あえてアカウントを新設する必要あるの?」といった意見もありましたが、本体と差別化する意図を丁寧に説明しました。
私自身、決して化粧品やメイクを否定しているわけではないんです。私もコスメを買うのは好きですし、新商品にワクワクしたり、メイクをして気分がハッピーになったりするのは素敵ですよね。
でも、メイクはしなければならないものだとか、人からきちんと見られなければならないといった規範のようなものはなるべく少なくしていきたくて。
これまで編集の仕事に携わる中で、生きづらさを感じている人を支えることや、プレッシャーを感じなくてすむ社会にすることが、編集者としての自分にできることだという信念で仕事をしてきました。その思いと美容をかけあわせたのが @cosme BEAUTYHOOD なんです。
ーー廃棄物を減らす「ゼロウェイスト」だけでなく、性別の固定観念にとらわれない「ジェンダーフリー」や製造や開発の工程で動物実験をしない「クルエルティフリー」など、人権や環境に配慮したブランドや商品が紹介されています。
エシカルというと、日本ではごみ問題やリサイクルなど環境問題をイメージされる方が多いように感じています。でも、エシカルもSDGsも気候変動だけではなく、人権やジェンダー、労働、教育など、あらゆるイシューを含んでおり、それらが複雑に絡み合ったり相反したりしています。特に美容は、ルッキズムやエイジズム(外見や年齢の固定観念)などとも深く関わっています。
なので、企業やメディアなど影響力のあるところが動かなければ、なかなか社会は変わっていきません。消費者だけに責任を求めるのではなく、消費行動そのものが変わっていくように、企業やメディアも発信していく必要があると考えています。
例えば、一つの新しい商品を発表するにしても、なぜそれをつくったのか、その商品が世の中にどんな影響を与えるのかを説明することで、消費者が選択するときによりわかりやすくなります。
ビジネス視点での意識の高まり
アメリカの調査によると、年齢・性別に関わらず68%の人が、製品を購入する際にサステナビリティが大事なポイントであると答えています。B Corp認証を取得している企業やエシカルな取り組みをしている企業が消費者に支持されるようになっており、やがてはデフォルトになっていくでしょう。
こうした流れをくみ、@cosme BEAUTYHOODでは商品を紹介する際に、6つの掲載基準を設けています。
6つの掲載基準のうち2つ以上を満たしているブランド様をご紹介しています。どの掲載基準をチェックするかは、すべて各ブランド様へ確認をとらせていただいています。
明確な基準があることによって、「この項目ならできそうだ」とか「次はこれもやったほうがいい」といった気づきになり、エシカルな観点を取り入れるブランド様がより増えるといいな、と考えています。
これは、ブランド様との関係性がすでにある@cosmeだからできることでもあります。
さまざまなブランド様とやりとりをする中で、倫理観や正義感などの理念の浸透に加え、真剣にビジネスとしてエシカルな観点を取りこぼすわけにはいかないという意識の高まりを実感しています。いずれは美容におけるエシカルガイドラインを作成し、それを起点にした美容サミットのような場をつくっていきたいです。
ーーフォロワーの反応はいかがでしょうか。
1年でいちばんコスメの消費が盛り上がるのがクリスマスシーズンなのですが、2022年のクリスマス直前にこんな投稿をしました。
<新しいコスメも気になるけど... 私は、今あるコスメを大事に使うんだ>
いちばんのかき入れどきにあえて「いまあるものを大事に使う」というメッセージを発信したことで、とても大きな反響がありました。買うことを否定しているわけではなく、「私」の「いま」の選択肢としてひとつの形を伝えています。
かわいいリップも好きだし新しいアイシャドウも気になるけれど、愛着のあるコスメを大切に使いきりたい。そんな気持ちに共感した方が多かったのではないでしょうか。
「かわいい」「美人」を追求しない
ーーこうしたイラストの投稿や商品の紹介はありますが、モデルは登場していないようです。化粧品の広告やコスメ関連のアカウントでは、メイクしたらどう見えるかが重要な気もしますが...
@cosme BEAUTYHOODでは、いわゆる「かわいい」とか「美人」というこれまでの美容の価値観に重きをおいていません。
自分が使って心地いいと感じるものを選び、美容を通じて心を満たしてもらいたいので、かわいいとか美しいといった外見的なメッセージにはフォーカスしていないんです。
また、美の概念が固定化されることを避けたいという思いもあります。
ひとりのモデルさんだとイメージが固定化されるため、多様なモデルさんに登場してもらえばいいのかもしれません。でも、それもまた難しさをはらんでいて。
多様性を尊重するため、いわゆる”個性的”とされるモデルさんが起用されることがありますが、実社会を反映しているとは言いづらいように感じてしまいます。
多様性の尊重とは、外見という表面的なことだけではなく、自分とは異なる他者がいるということを意識することではないでしょうか。自分には想像もつかないような価値観やバックグラウンドをもつ人がいることを常に意識しながら生活し、商品やサービスをつくり、ビジネスに向き合っていきたいです。
例えば、「自分らしく」という表現さえ、「自分らしさって何だろう」と模索して悩んでいる人にとってはプレッシャーになることがあるといったように、想像力をめぐらせていきたいです。
@cosme BEAUTYHOODを見た方が何を感じ取るかを最大限に想像し、ひとつひとつの投稿の内容には非常に気を配っています。
美容はセルフケア
ーーコスメを紹介しつつも、美を追求しない。新しいコンセプトのプロジェクトですね。
メディアの取材を受けると、「美しいとはどういうことだと考えますか」と質問されることがよくあります。
そもそも外見を他人がジャッジする必要はないですし、人からどう言われようと、自分で自分のことを素敵だなと思えたら、それでOKだと思っています。
「美容」という言葉は、メイクをすること、美しくなることをイメージしがちです。でも、朝起きたら顔を洗い、歯を磨き、手を洗い、お風呂に入る、といったこともすべて美容だととらえています。
美容とはセルフケアであり、メイクは自分が心地よくなるためにするもの。なので、メイクをする、しないも自分の選択として判断していいんですよね。
「しなければならない」は美容においては一つもありません。自分のための美容、心地よくなれる美容についてもっと発信していきたいと思います。