使いきれない化粧品、捨てる罪悪感をなくしたい。海外コスメの遊び心あふれる工夫とは

小林明子

「捨て色」になってしまったアイシャドウ、好みに合わなくなった香水、ダマになってしまうネイル...。使いきれない化粧品でも、捨てるのはなんとなく気が引けます。そもそも捨てずに済む方法はないのでしょうか。コスメ・美容の総合サイト「@cosme(アットコスメ)」を運営する株式会社アイスタイルで、エシカルなコスメ情報の最前線を発信しているお二人に聞きました。

アイシャドウは使いきれないまま残りがち...
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ーー使いきれなかったコスメは、どうすればいいのでしょうか。「@cosme BEAUTYHOOD」でエシカルな美容情報を発信する篠田慶子さんと、国内外のコスメ情報の最前線を取材する「BeautyTech.jp」の副編集長の十河亜矢子さんに教えてもらいます。

86%が「コスメ使いきれない」

篠田  ユーザーさんに聞くと、美容のストレスの一つに「化粧品を捨てること」があるんです。ある調査によると、コスメを使いきれずに捨てるという人は86.3%いました。

気に入っていたのに処分せざるをえない。買ったお金がもったいない。プレゼントしてもらったのに心苦しい。正しい捨て方がわからないーー。使いきれない化粧品が、さまざまなストレスになっています。

@cosme BEAUTYHOOD推進室長の篠田慶子さん(左)と、BeautyTech.jp副編集長の十河亜矢子さん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

十河 化粧品には消費期限がありますから、ファッションのようにリユース(再使用)が難しい場合もあります。ただ、フリマアプリのメルカリでは化粧品を取引することは認められています。開封後の化粧品であっても出品できますが、衛生面などから抵抗を感じる人もいるでしょう。

出品するときには開封時期や消費期限、残量などを明記し、肌に触れた部分を削ってから発送するなど、出品するほうにも注意が必要です。

篠田 使いかけのコスメを途上国に寄付するという方法もありますが、その先にまた廃棄の問題が生まれるので、廃棄物の処理を途上国に押し付けることになってしまうことが気にかかります。

「コスメロス」を減らすために

篠田 @cosme BEAUTYHOODでは、メイクアップアーティストでコスメロス協会代表のイガリシノブさんを招いて「コスメロス」を考えるイベントをこれまで2回開きました。

イガリシノブさん(左)によるコスメロスをなくすレクチャー
@cosme BEAUTYHOOD提供

食べられるはずなのに捨てられてしまう食品を「フードロス」というように、まだ使える化粧品が捨てられてしまう「コスメロス」の実態があります。

工夫してなるべく使いきること、それでも使いきれない場合には正しく捨てることの2本立ての構成で、「コスメロス」を減らし、化粧品を捨てる罪悪感も減らそうと企画しました。

ユーザーさんに使いきれなかったコスメを持ってきてもらい、新たな使い方によってまだ使えることをレクチャーしたり、コスメの交換会をしたり。それでも捨てなければならないときのために、正しい捨て方のレクチャーも実施しました。

例えばネイルは、中身を古布に染み込ませたあと、刷毛はハサミで切って容器と分別します。アイシャドウは飛び散らないよう袋の中で中身を掻き出したあと、鏡を取り外し、容器はなるべく分解して分別します。

正しい廃棄の方法は@cosme BEAUTYHOODでも紹介しています。

ーーそもそもメーカーが、無理なく使いきれる商品や、ゴミが出ない工夫をすることも「コスメロス」を減らすことになりそうです。ここからは十河さんに、海外を含めたコスメのサステナビリティ最前線について教えてもらいます。

十河 新商品をどんどん発売するとメーカーの利益につながるのは事実ですが、最近はSDGsへの関心の高まりもあり、使いきってもらうことを意識した商品開発を進めるメーカーも少なくありません。

例えば、アイシャドウで「捨て色」を出さないようにするために、単色の小さなサイズのアイシャドウをつくる。使いきりサイズにするとそのぶん安い価格で販売できるため、消費者が手に取りやすくなるメリットもあります。

固形やパウダーの化粧品

プラスチックの削減を徹底しているのはLUSH(ラッシュ)です。

代表的な商品であるバスボムは、店舗に裸でそのまま置かれる「ネイキッド販売」で、アプリ内のカメラで商品を撮影するとスマホで説明が読める仕組みのため、商品タグもなく説明書もありません。

ネイキッドシリーズのシャンプーやボディローションは固形になっており、そもそも容器を使わないので捨てるものがありません。

ニュージーランド発のethique(エティーク)も、シャンプーは固形のシャンプーバーになっていて無駄がありません。

最近はパウダー状の化粧品も多く出ています。液体ではなくパウダー状にすることで軽量化するため、輸送の際のCO2の排出量を減らすことができます。消費者が使用するときに水に溶かして液体状にします。

テクノロジーが進化したことで、固形やパウダー状であっても使いづらさを感じなくなっているところも大きなポイントです。

さらにパウダーを生分解性のものにしたり、紙に特殊加工する形にして燃やしてもCO2排出量を抑えるようにしたりと、サプライチェーン全体から廃棄に至るまで一貫してCO2を減らす試みも始まっています。

十河亜矢子(そごう・あやこ) / BeautyTech.jp副編集長
編集ライター。英国とシンガポールに約20年の在住経験があり、海外紀行本の執筆や海外在住日本人向け情報誌の編集、日本を紹介する英字情報誌の編集などを行う。BeautyTech.jpには、2017年のローンチ直後より参画。
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

こうしたゼロ・ウェイストの取り組みは、ヨーロッパの国々でとりわけ進んでいます。EUの厳しい基準があるからです。

例えば化粧品のサンプルは、受け取る側の同意がなければ配ってはいけないというEUのルールがあります。サンプルのようなごく小さなパッケージであっても、総数としては膨大なプラスチック量になるからです。

ヨーロッパではこうした動きをラグジュアリーブランドが牽引しており、変化のスピードが速く影響力も大きいです。

シャンパンの箱を香水にも

BeautyTech.jpは2022年5月、フランス・パリで開かれた、持続可能なプレミアムパッケージに特化した展示会を取材しました。ヨーロッパを中心にパッケージを開発するスタートアップなど65企業が参加していました。

ラグジュアリーブランドは、化粧品のパッケージにガラスなど重厚感のある素材を使ったり色や光沢で高級感を演出したりすることがブランド価値につながる面もあるため、環境保護の観点だけで簡素なパッケージにシフトすることにはデメリットもあります。

そこでラグジュアリーブランドがパッケージのスタートアップと協働して、サステナブルでありながら質感や見た目の高級感もある梱包テクノロジーを開発しているのです。

LVMHグループでは、傘下のシャンパーニュブランドが導入した、繰り返し使えるほど丈夫でリサイクルも100%可能な紙製のボトル型パッケージを、化粧品にも横展開しました。しかも他企業にも広がるようあえて特許をとらず、すでにロレアル傘下ランコムのフレグランスなどのパッケージにもコンセプトが採用されています。

LVMHグループ傘下のルイナールが採用した100%リサイクル可能な紙製パッケージ
出典:BeautyTech.jp 

キノコの菌糸体を使った成形容器を提案したフランスの企業もありました。菌糸体が成長して素材になるため4〜5日と短期間で制作できるうえ、廃棄後は12週間で生分解して土に還ります。

プラスチックや発泡スチロール容器の代替品として提案された、キノコ菌糸体でできた容器
 出典:BeautyTech.jp 

海外では、こうした展示会にサステナブル系のスタートアップが軒並み出展し、関心をもった大手企業から出資を受ける形で、素材の改革がスピード感をもって進んでいくのです。

土に還すと花が咲く

アメリカとカナダを中心に展開するコスメブランド Elate Cosmetics は、ファンデーションやチーク、アイカラーなどのリフィル製品のパッケージとして、古紙に花の種を混ぜたシートペーパーを提案しています。水に1時間ほど浸してから土に埋めると、芽が出て花が咲く仕組みです。

生分解性のパッケージのため、消費者が使ったあとに土に還すことを楽しめるようにという遊び心が込められています。

消費者は、環境にいいことをしたい、正しいことをしたいというモチベーションだけでなく、ここの商品を選ぶとかっこいい、楽しいという入り口からサステナブルな取り組みに慣れていき、やがてそれが当たり前になっていくのです。

日本でも、資生堂など大手メーカーがサステナブルな目標を立ち上げており、花王とコーセーが化粧品事業のサステナビリティ領域で包括的に協働して化粧品プラスチックボトルの水平リサイクルに取り組むなど、大企業が率先して動きはじめています。

グローバルで展開している大企業は、サステナブルに配慮していないブランドはやがて支持されなくなるという危機感をすでにもっているからです。

規模が小さかったり自社の事業領域では対応が難しかったりする場合でも、例えば森林保護の活動に寄付することで貢献するなど、さまざまな方法があります。

コスメを使いきれない人が86%もおり、残った化粧品やパッケージを捨てることに大きな負担を感じています。その課題解決に向き合うことが、メーカーには求められています。

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著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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