「ゴミ拾いをスポーツにする!」と言い続けてきたら、ついにワールドカップが開催される話

永野原 梨香

ゴミ拾い。街をきれいにするためにやったほうがいいとわかっているけれど、ひとりだと始めるきっかけがない。そんなゴミ拾いを、スポーツにしたら楽しいはずだ。ひとりの男性の思いと諦めない行動力が、今や海外を巻き込んだムーブメントを起こし始めている。

「スポGOMI」は、2008年にはじめて開催されたスポーツの大会だ。3~5人でチームを組み、走らず制限時間内に拾ったゴミの量と質(燃えるゴミ、ビンカン、たばこなど)でポイントを競い合う。

年齢制限はなく、老若男女誰でも参加OK。ベビーカーで参加する人もいる。これまで約1200大会が開催され、のべ14万人が参加している(2022年12月時点)。

スポGOMIを考案した、一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブ代表理事の馬見塚健一さんは言う。

「大会が終わった後でも『トングとゴミ袋を貸して』とゴミ拾いをはじめる子どもも多いんですよ。そういう子は大人になってたばこを吸うようになっても、道端に捨てないと思うんですよ」

スポGOMI甲子園2022全国大会
スポGOMIの大会でゴミを拾う高校生たち
写真提供:日本財団 海と日本プロジェクト

ゴミを一つ拾ってみた

きっかけは、馬見塚さんがランニング中に目にした道端のゴミだった。「このゴミを拾ったら明日、気持ちよく走れるかもしれない」と思いつつも素通りする毎日。しかしある日、一個拾ってみようと、ペットボトルを拾ってみた。

「意外と恥ずかしくなかったんです。次は大腿筋を意識して拾ってみよう、次は肩甲骨を意識して拾ってみよう、などとしていたら、ある日、ゴミが汚い存在から"ターゲット"に変わり、楽しくなってきた。衝撃的な出来事でした。ルールを設け、ゴミ拾いをスポーツとして捉えると、ゴミとの向き合い方が変わるのではと考えたのです」

馬見塚健一さん
スポGOMIを考案した、一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブ代表理事の馬見塚健一さん
写真提供:(一社)ソーシャルスポーツイニシアチブ

まず作ったルールは、走らないこと。安全面を考えてのことだ。そして、競い合えるようにチーム制であること。

馬見塚さんは仕事でゴミ袋のデザインなどをしていたつながりで武蔵野大学環境学部の学生らと付き合いがあった。学生らにアイデアを話したところ、「面白そう」「手伝います」と前向きな反応が返ってきた。それなら、と大学対抗でのスポGOMI第一回大会を計画しはじめた。

「2008年6月の洞爺湖サミットの大きなテーマが『環境』でしたから、その前に開催したら、世間から注目されるかもしれない。スポGOMIが世に出ていくきっかけになるのでは、と5月開催に向けて動き出しました。大学対抗としたのは、一般に募集をかけても人が集まらないと思ったからです」

ぶ厚い行政の壁、突破へ

東京の渋谷公会堂で開催しようと行政に相談しても「ゴミ拾いをスポーツにするなんて訳が分からない」「危なさそう」という理由で貸してもらえない日々が続く。そんな中、ゴミ拾いなどを行う認定NPO法人greenbirdの設立者で当時渋谷区議だった長谷部健さん(現・渋谷区長)が協力してくれて開催にこぎつけることができた。

「なぜ大会に参加してくれたのか」

優勝した学生らに参加した理由を尋ねると、こう返ってきた。

「仲間と一緒にスポーツができるから」

やはり、ただ拾うのではなく、仲間と競うことで楽しさが生まれている。続けていけば、面白いことが起きるのではないか――。

だが、その後もなかなか行政などからの賛同は得られず、青山の商店街に相談してイベントとして開催させてもらうことが続いたという。開催後に参加した子どもが楽しそうにゴミ拾いをしながら帰っていくなど参加者の行動変容があることを話しても、行政にはわかってもらえない。

「行動変容って、馬見塚さんの感想でしょ」

口で説明してもだめだ。そう思った馬見塚さんは、独立行政法人(現・国立研究開発法人)国立環境研究所を訪ねた。

「参加者の意識調査をお願いしたのです。1人の研究員の方が、面白そうだからと2年間、アンケート調査をしてくれることになりました。結果、スポーツにしたことでゴミ拾いへの興味が増していることや、大会後の参加者の環境への意識が高まっていることが明らかになりました」

スポGOMIをはじめて2年目、大会の記事が新聞に小さく掲載された。それを読んだ530(ごみゼロ)運動発祥の地、愛知県豊橋市から声がかかり、やっとお金をもらえる大会を開催できた。その後は、次々に愛知県の他の自治体からも問い合わせが入ってきた。

「グッドニュースが横展開していった感じですね」

せめてこの大会だけでも

今や自治体は自治体の活動のひとつとして、企業はインナーコミュニケーション向上や地域貢献を目的に、大会の開催を依頼してくる。

「自治体や企業は1回開催するとまた来年もというように、継続率が高いです。新規の自治体や企業からの問い合わせも増えていきました」 

2019年からは、日本財団が取り組む海洋ごみ対策プロジェクト「海と日本プロジェクト・CHANGE FOR THE BLUE」の助成事業として、高校生だけが参加できる「スポGOMI甲子園」もはじまった。地域ごとに予選を実施。予選で優勝したチームが全国大会に出場し、その年の日本一を決める。これはコロナ禍でも続いた。

「高校の先生方からお電話やメッセージをもらったのです。体育祭もできない。修学旅行もできない。せめてスポGOMI甲子園だけでもやらせてもらえませんか?と。コロナとの付き合い方も見えてきた頃でしたし、それでは、とリモート開催も含めやり続けてきました」

スポGOMI甲子園2022全国大会
2022年のスポGOMI甲子園全国大会の様子
写真提供:日本財団 海と日本プロジェクト

アニメで描いた世界の実現

そして2023年、ついに世界大会(ワールドカップ)まで開かれることになった。

2022年、ユニクロを展開するファーストリテイリングが実施した海洋ごみを減らす活動に貢献するキャンペーン「JOIN:THE POWER OF CLOTHING」での売り上げの一部を、スポGOMIの活動で使ってほしいという話になったのだ。

「以前、スポGOMIをテーマにアニメを作り動画配信したのです。このアニメで描いたのが、スポGOMIの世界大会。いつか本当にやりたい、と雑談レベルで話してきたのですが、本当に実現することになったのです」(日本財団海洋事業部の宇田川貴康さん)

話はあれよあれよと進み2023年3月、インドネシアでの初戦を皮切りに、21か国(日本含む)で予選を開催。各国の優勝チームは、11月に日本で行われる決勝大会に招待される。

スポGOMIワールドカップ
日本を含む21か国が参加するスポGOMIワールドカップ
出典:スポGOMIワールドカップ公式サイト

7か国の予選に足を運んだ宇田川さんは、遠くはブラジルで、日本人のゴミ拾いが受け入れられていたことが、特に印象に残っているという。

「ブラジルで聞いたラジオでスポGOMI大会のことが流れていたんです。昨年末にカタールでサッカーのワールドカップがあり、日本人サポーターのゴミ拾いが注目されていました。そのラジオでは、『ワールドカップでも日本人はゴミ拾いをしていて素晴らしい』『今日もスポーツゴミ拾いというエキサイティングな大会がある。さすが日本人だ』と報道してくれていました」

スポGOMIワールドカップタイ予選
スポGOMIワールドカップのタイ予選
写真提供:スポGOMI ワールドカップ 運営事務局

どの国も大会は盛り上がりを見せた。なかでも大会規模の大きかった国がタイ。各国のチームは大体30チームほどの参加だったが、タイの予選では地元企業のサポートもあり49チームが参加し優勝を競い、タレントやインフルエンサーなどのゲストチームも合わせると60チームも参加した。

「各国、参加された方は老若男女さまざまです。車いすで参加された方もいました。ゴミ拾いで世界一を決める大会があることが話題になって、参加してみようと思える人がさらに増えることが、ワールドカップの成功なのかなと思っています」   

初戦が行われたインドネシアの優勝チームは、40代、50代のゴミ関連の仕事をしている女性3人組。一度も自国から出たことがない。優勝後のインタビューでは、「自分の住んでいる村をきれいにしていきたいし、決勝戦では優勝したい」と語っていたそう。すでにパスポートなども取得し、来日の準備は整っている。

スポGOMIワールドカップタイ予選
スポGOMIワールドカップには、車椅子でも参加できる
写真提供:スポGOMI ワールドカップ 運営事務局

馬見塚さんは感慨深げだ。

「ゴミがターゲットになる感覚や楽しくゴミを拾うようになることを理解してもらえないのがただ悔しくてやってきましたが、まさかワールドカップができるとは昨年まで思っていませんでした。21か国の参加してくれた方々が来年以降、僕らとどのように連携をとって現地に根づく仕組みを作っていけるか。大切な年になるなと感じています」

馬見塚さんはワールドカップの開催が決まる前の2020年、2030年に50か国でスポGOMIをしたいと思っていたそう。夢の実現に向け、挑戦は続いている。

いまさらだからこそサステナブル
特集:いまさら「だからこそ」サステナブルって?
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著者
永野原 梨香
ライター。週刊誌で主に経済記事を担当。出産し上海勤務に帯同した後、フリーライターに。関心ごとは暮らしに沿った経済の動き、SDGs、各国の文化や食。
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