東京大学が女性教員を25%に。ジェンダー平等に本腰を入れる理由を総長に聞いた

小林明子

世界経済フォーラムが2022年に発表したジェンダー・ギャップ指数で、日本は146カ国中116位でした。女性リーダーが増えないことが一因でG7最下位から抜け出せない中、東京大学の「女性の教授・准教授を300人採用する」という計画が話題になりました。

東京大学は2022年5月1日現在、学部生の女性比率が20.1%、教員の女性比率は約16%。日本の他大学と比べ、女性の割合が低い大学です。

さらにOECD(経済協力開発機構)の2020年の調査では、日本の高等教育機関の女性教員比率は30%で、OECD加盟国平均の45%よりかなり低い水準であることもわかっています。

女性教員の採用数を1.4倍に

東京大学は2015年時点で、2020年までに女子学生の比率を30%に、女性教員比率を20%にすることを目標にしていました。しかし2022年時点でも、いずれも達成できていません。

学部生に女性を増やすため2017年度から、遠方在住の女子学生に月3万円の家賃補助がある住まい支援を開始。2022年11月には、2027年度までに新たに着任する教授・准教授の4分の1にあたる約300人を女性にする計画を打ち出しました。

東京大学がこうした施策を発表するたびに賛否の議論が起こります。それは「東京大学が変わる」ということのインパクトの大きさの表れともいえます。

UTokyoニュースレター
東京大学男女共同参画室が発行したニュースレター
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

東京大学では、内部昇任を含めると年間約200人の教授・准教授が新たに着任していますが、うち女性は約35人にとどまっています。

新たな計画は、現状の1.4倍にあたる年間約50人の女性が着任することで女性の増加を加速させようというものです。こうした取り組みなどを6年間続けることで、女性教員の比率を16%から25%に引き上げるという目標を掲げています。

女性の教授・准教授を300人にするという具体的な人数を公表し、女性教員の増加に本腰を入れたのはなぜなのでしょうか。東京大学総長の藤井輝夫さんが語りました。

※藤井さんのコメントは、2023年3月1日にあった東京大学国際シンポジウム「UTokyo男女+協働改革 #WeChange」の内容と事後取材をもとに、質問と回答を編集したうえで構成しています。

藤井輝夫東大総長
藤井輝夫(ふじい・てるお) / 東京大学総長
2021年4月1日付で第31代目の総長に就任。前東京大学理事・副学長。専門は応用マイクロ流体システム
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

優秀な女性が評価されてこなかった

――なぜいま東京大学がジェンダー平等に取り組むのでしょうか。

東京大学は、女性教員の割合が極めて低いです。そもそも研究者に女性が少ないからだというのはよく言われてきたことですが、優秀なのに評価されてこなかったケースもあるのです。それを改善していきたいと考えています。

大学は、いろいろな人が集まってのびのびと活動する中で知を生み出していく機関です。学外の人たちとも対話を通して知を共有していき、世界に貢献していく役割を担います。

今朝(3月1日)の朝日新聞で、こんな言葉が紹介されていました。

共通世界は、それがわずか一つの位相のもとで見られるとき、消失する。(ハンナ・アーレント)

出典:朝日新聞 2023年3月1日朝刊「折々のことば」

画一的な視点だけで世界を見ると、それは共通世界ではなくなってしまう。まさに学問の世界でも、さまざまな視点からのものの見方をお互いに共有していくことが非常に重要です。

そこで多様性と包摂性を実現するため、2022年6月に「東京大学ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)宣言」を公表しました。女性リーダー育成に向けた施策「UTokyo男女協同改革 #WeChange」の行動計画として、学内の意識改革、女性研究者のキャリアアップ支援、女性教員の加速的増加に取り組んでいます。

東京大学シンポジウム
シンポジウムの様子。左からモデレーターの小島慶子さん、お茶の水女子大学長の佐々木泰子さん、藤井総長
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

大切なのは意識改革

ーー6年間で教授・准教授のうち4分の1にあたる300人を女性にするという数字が大きく報道されました。

女性教員の増加率を加速させたいということから導き出したのが、この300人という具体的な人数です。ですが、数字を増やすだけではなく、全構成員の意識改革が大事だと考えています。

いろいろなハレーションがあるとは思いますが、東京大学全体で取り組むのだ、これは非常に重要な課題なのだ、と伝える努力を続けていくことが必要です。

そのために学内では研修やシンポジウムなどさまざまな形でジェンダー平等について学ぶ機会を設けます。

また、大学院生や若手研究者が研究するうえでのスキルアップが図れるコース、トップリーダーを育成するコースなども設けます。ロールモデルを育成し、女性研究者が活躍する将来を描けるような環境づくりをしていきます。

ーージェンダー平等の議論では、女性比率が30%に達すると、意思決定などで変化を起こせる分岐点(クリティカルマス)に達するといわれています。30%ではなく25%としたのはなぜでしょうか。

女性比率30%を達成できるとクリティカルマスですが、300人の登用でやっと25%にできるという目標になっています。

これまでも目標を設定してきましたがなかなか到達できなかったため、まずは25%をクリアするための具体的な計画を立てました。その過程でいろいろな環境が整っていけば、25%を30%に修正するということも含めて考えていきたい。

東京大学安田講堂
東京大学では2023年度、全教職員を対象にジェンダーバイアスなどを題材にした研修を実施する予定
Adobe Stock / keishinakao

ーー教授など上位の教員に起用できる人材にそもそも女性が少ない現時点では、どのように採用していくのでしょうか。

国内にとどまらず、海外を含めてグローバルに募集していきます。必ずしも研究者だけではなく、産業界で活躍されている方にも広くお越しいただきたいと考えています。

ーー起用された女性たちが孤立したり、出産や育児との両立に困難を感じて離職したりしないようにサポートする体制はありますか。

ライフイベントがあっても研究環境を維持できるように、現在もサポートはしています。これは女性に限らず、男性も支援しています。財政的な支援としては、いわゆる研究費や、サポート人材を雇用できるような人件費の支援もしていきます。

キャリアの中でボトルネックになりそうなところをスムーズにできるよう、今後も手厚く支援できるよう努力していきたい。

ーー数のうえで女性を増やしても、意思決定のコアな層は相変わらず男性のみという「ドーナツ型」の企業が少なくありません。

トップダウンでやれることとして、意思決定層に女性に入っていただくことは重視しています。

私が総長に就任した2021年4月、理事の半数以上は女性でした。教授・准教授といった上位の教員の女性の採用を強化し、内側から変化を起こしていきます。

ダイバーシティの研究を深める

――社会のジェンダー平等を実現するために、教育機関ができることとは。

私たちがいま考えなければいけないのは、環境を変えていくということです。

女性の研究者を増やし、女子学生を迎えやすい環境にすることがまず第一に重要です。女性の数を増やしていき、いずれクリティカルマスを達成することで、大学の中の環境が変わります。

大学の中で意識改革をし、その学生たちが社会に出ていくと、社会の中の意識も変わっていきます。そうした循環をつくっていければ、どんどん女性が活躍しやすい社会になっていきます。ですから、ぜひ他の大学とも一緒に考えていきたい。

大学にできることとしてもう一つ、教育や研究に直接ダイバーシティの理念を取り入れていくということがあります。ダイバーシティをコアな研究対象とする教育機関としての役割です。

包括協定を結んでいるお茶の水女子大学には、「ジェンダード・イノベーション研究所」などジェンダーに関する研究所が3つもあります。東京大学でも2年後をめどに研究所を設立したいと考えています。

教育機関としてのこうした動きをますます活発化させて、日本あるいは世界が変わっていくことに貢献できたらと思っています。

【訂正】「女性教員の増加率を1.4倍にする」は「女性教員の採用数を1.4倍にする」の誤りでした。中見出しと本文を訂正しました(2023年3月8日)

3月8日国際女性デー
OTEMOTO
著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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