「保護者会の自己紹介が苦手です」 先生と親、ベストな距離感は?

小林明子

先生と保護者。こどもを介して知ってはいるものの、じっくり話したり、互いを理解したりする機会はなかなかありません。そこで、お互いの疑問やモヤモヤをぶつけ合う連載【先生と保護者のチャット】を企画。元小学校教員の星野俊樹さんと、小中学生のこどもがいる漫画家の田房永子さんが、それぞれ本音を語り合います。第1弾は、先生と保護者の距離感について話してもらいました。

テスト
Adobe Stock /  Emotional design

田房永子 うちは中学生と小学生のこどもがおり、公立に通っていて、もうすぐ新しいクラスの保護者会があります。こんなことを思う保護者は少数派かもしれませんが、私は担任の先生ともっとラフに話せたらいいなと思っています。

星野俊樹 教員も同じです。保護者会では、教員と保護者、保護者同士が知り合えるような工夫をします。

田房 現実的には不可能なことでしょうが、本音では、こどもたちを尊重しながら大人たちで見守るためには「教員」「保護者」という肩書きを超えて、人間同士として話せたほうがいいなと思っています。

保護者にもいろんな人がいるので、先生を仕事人として厳しめな評価をする親もいますし、学校に対して敵対心を持っている人もいますよね。

私も、そもそも自分の人生で「先生」という存在に助けられた記憶がなかったので、学校自体に猜疑心を持っているところがありました。それに加えて、こどもが保育園の頃からあった「働くお母さん」に対するイメージに自分が縛られていたことが、学校との距離感に影響したとも感じています。

星野俊樹
星野俊樹(ほしの・としき) / 1977年生まれ。京都大学大学院教育学研究科修了。出版社勤務を経て小学校教員に転職。公立小学校と私立小学校の勤務経験があり、教員歴は20年。2025年3月末で退職し、独立。社会的排除に向き合う人権教育に関心があり、教員時代は主に包括的性教育の実践に取り組んだ。6月に単著『とびこえる教室—フェミニズムと出会った僕が子どもたちと考えたふつう』(時事通信出版局)を出版予定。
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

保育園から始まる猜疑心

星野 保育園から、ですか?

田房 そうです。私が長女を出産したとき、保育園にこどもを預けられないから母親が仕事を辞めるという家庭が周りでも本当に多かったんです。

2013年に、東京都杉並区で"保育園一揆"が起き、2016年には「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログがバズりました。翌2017年には待機児童数が2万6000人を超えてピークとなり、2018年ごろから都内ではようやく保育園が増えてきました。

星野 2010年代は共働き世帯数が急増した時期でしたもんね。

田房 コロナ前は、保護者が布団カバーをかけたり卒園のセレモニーやプレゼントを準備したり、「親のひと手間」を前提としている保育園が多くありました。今はガラリと変わってそういった手間がかなり廃止されているようですが。

やはりそこには「こどもが小さいうちは、親は育児を人任せにしてはいけない」という親たち自身の罪悪感のようなものも反映されていたと思います。それに幼稚園ママvs.保育園ママという構図も当時はよく語られていました。

星野 なるほど。小学校は行事が平日の昼間であることが多く、長期休み中はこどもの居場所の確保が難しいため、仕事と育児の両立の難易度が高まる「小1の壁」という言葉もありますよね。こどもが保育園の出身か幼稚園の出身かというのは、小学生の保護者の間でもしばらく話題になりますね。

田房 私もそれに影響されていたところがあり、「保護者会は専業主婦が行くもの」「仕事をしていたら学校に関わる余裕なんてない」という先入観を持っていました。長女が4年生になるまでは保護者会があることを忘れたりしていました。他の人たちもいつも半分くらい欠席しているし。

ところがちゃんと行ってみたら、保護者会はとても貴重な会だと知りました。先生が目を輝かせながらこどもの様子を語ってくれ、クラスの保護者の方たちとも顔を合わせられる。

保護者と先生と学校と地域のつながりがめちゃくちゃ重要だと気づいて、それからは保護者会には欠かさず参加し、PTAにも参加しています。

星野 それはすごい。その先生のパーソナリティーにもよるのかもしれませんが、田房さんの学校に対する価値観が変わった感じですか?

田房 そうですね。私は中学受験を経験したんですが、母親から「受験することを周りに言うな」と口止めされていました。それは、もしも不合格だったときに恥ずかしいから、という保身でした。私の母はどこか「自分のことを人に話しすぎると恥をかく」と警戒心が強い人だったので、友人や学校に対しても腹を割りすぎないように教えられました。

自分が母親になってからも、そうしたほうが賢いものだと思い込んでいたんですが、長女の小学校はみんなオープンで、友達のことを応援し合うような風土でした。私が「自分のこどもだけじゃなくて全員が幸せになってほしい、嫌な目にあってほしくないから守りたい」と思えるようになったのは、小学校の雰囲気のおかげです。

こどもだけでなく私のような保護者の価値観まで変えるなんて、教育現場としては成功ですよね。とても豊かなことだと思います。

田房永子
田房永子(たぶさ・えいこ) / 漫画家、エッセイスト。1978年生まれ。代表作は過干渉な母親との確執、葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』、家族にヒステリックにキレてしまう加害をやめる方法を記した『キレる私をやめたい』。竹書房コミックエッセイwebにて『喫茶 行動と人格』、&Sofaにて『昭和ママと令和キッズ』を連載中。
illustration by Eiko Tabusa

こどもを応援するチーム

星野 教員も保護者も「こどもに幸せに育ってほしい」と願っていて、こどもの健やかな育ちを応援するための一つのチームですよね。それぞれ考え方は違っても、目的は同じです。

クラスはこどもの「集団」ですが、保護者の「集団」もとても重要です。なぜかというと、親同士が知らないままだと、こどもの断片的な話だけで「あの子は◯◯だ」といった決めつけを家庭でしかねない。親の言葉がこども同士の関係に影響を及ぼして亀裂が入ります。

田房 保護者会は、誰がどの子の保護者かを知る機会になりますよね。絶対に知っておいたほうがいい。ただ、自己紹介をやりたくないという要望が多いとも聞きますが、本当ですか?

星野 本当です。自己紹介が苦手だという声があったので、グループディスカッションに変えたら、数人の親から「知らない人たちの中で話すのがしんどかった」とフィードバックがあり、今度は私が一方向的に話すコミュニケーションに戻すなど、試行錯誤の連続です。

自己紹介をする代わりに、好きなものを書き合う「偏愛マップ」をつくったこともあります。保護者会ではこどもの話になりがちですが、「親」としてではなく「個人」でいられる場にしたいと考えたからです。「◯◯の親です」ではなく、下の名前で名乗ってみてはどうかと提案したこともありました。

一線を引くべきか

星野 先ほど「教員」「保護者」という肩書きではなく人間同士として、という話があったように、親同士も「保護者」ではなく人間としての面をもっと見せてもいいと思うのです。

それは結果的に、こどもの関係性にも影響します。もしこどもがケンカをしたときに、相手の親がどんな人かがわからないと、不安が敵意に加速してこじれることがあります。けれども、人となりがわかると、一呼吸おけます。

一方で、教員と親は一線を引いたほうがいいという考え方もありますよね。

田房 「モンスターペアレント」対策などの背景もあるから、あまりに距離が近いと先生の負担が増えてしまいますもんね。

逆に、先生や保護者たちが互いにしっかり距離と節度を持って接してくれているおかげで、私は「もっと人間同士としてつながったほうがいいのに」と思うくらい余裕を持てているんだなということに今、気付きました。

▶︎ 次回の【先生と保護者のチャット】では、「学校の中のジェンダー」について考えます。

neuvola-banner
※ ネウボラ = フィンランド語で「アドバイスの場」という意味。妊娠期から子育て期まで切れ目のないサポートを提供する自治体が日本でも増えています。
特集「6歳からのネウボラ」 / OTEMOTO
著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
SHARE