実はZ世代よりもシニアのほうが関心が高いサステナビリティ。で、何をしたらいいの?

小林明子

Z世代は環境問題に関心が高いとされ、企業のマーケティングのターゲットになりがちです。しかし調査によると、実は意識が高いのはシニア世代のほう。ただ「何をしたらいいのかわからない」と具体的な行動はまだまだのようです。消費者が行動に移しやすいサステナブルな選択肢とは。消費生活に詳しいアナリストに聞きました。

1990年代半ばから2010年代前半に生まれたZ世代は、環境問題への関心が高く、サステナビリティを意識して商品を買っている。だからちょっと高くても、エコやエシカルを打ち出した商品を......。

こんなマーケティングの「定説」を覆す調査結果があります。

ニッセイ基礎研究所の生活研究部で上席研究員をつとめる久我尚子さんが、レポート「サステナビリティに関わる意識と消費行動」で明らかにしました。

「サステナビリティに関わる問題は他人事ではない」という設問に「そう思う」と答えたのは、Z世代にあたる20代(20〜29歳)では30.7%だったのに対し、シニア世代にあたる70代(70〜74歳)では64.6%。「サステナビリティに今すぐ取り組まないと手遅れになる」は20代33.9%に対し、70代64.6%。

どちらの項目でも年齢が上がるほど「そう思う」と答えた人の割合が増える傾向があり、年齢が高いほどサステナ意識も高いという結果になりました。

サステナ消費調査
ニッセイ基礎研究所「サステナビリティに関わる意識と消費行動」より抜粋 / OTEMOTO編集
(※70代は70〜74歳が調査対象、以下同)

知識や経験があるからこそ

このレポートは、ニッセイ基礎研が2023年8月、20〜74歳の2550人を対象に実施した意識調査を分析したもの。久我さんは調査のきっかけをこう語ります。

「サステナビリティといえばスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんのイメージが強く、企業の消費ターゲットとしてもZ世代に焦点があてられています。ただ、これまで消費志向を分析してきて、環境や安全に配慮したり品質を気にしたりする属性は『母親』が多いことがわかっていたので、本当にZ世代が牽引しているのかというのは疑問に感じていました」

「人権や環境への関心は、一定の知識や経験、こどもの将来に思いをはせる中で生まれるはずで、若い世代がとりわけ意識が高いわけではないのでは、という仮説がありました」

久我尚子さん
久我尚子(くが・なおこ) / ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員
株式会社NTTドコモを経て、2010年よりニッセイ基礎研究所。2021年7月より現職。専門は消費者行動。内閣府や総務省の統計関連の委員をつとめる。統計を使って暮らしの変化を読み解いている
写真提供:ニッセイ基礎研究所

実際、意識面については、性別では女性、年代では高年齢ほど、サステナビリティに関する意識が高い項目が多く、仮説を裏付ける結果となりました。

「シニア世代は人生経験が長く社会課題について幅広い知識を蓄えています。また、過去に環境汚染などの公害を経験しており、涼しくて過ごしやすい夏や豊かな自然を知っているからこそ、過去と現在を比べて危機意識が高まりやすいのではないでしょうか」

久我さんは、「シニア世代が若かった頃と比べると、いまの若者のほうがサステナビリティに関する意識は高いのは確実」としながらも、現時点の年代比較ではシニアより若者のほうが意識が高いとはいえないと指摘。「一部の情報発信力や行動力が高い若者が、世代全体のイメージをかたちづくっている側面もあるのでは」とみています。

意識は高くても

サステナブル消費調査
ニッセイ基礎研究所「サステナビリティに関わる意識と消費行動」より抜粋 / OTEMOTO

一方、サステナビリティに関して具体的な行動をとっているかという設問については、意識面の設問に比べ、全世代で低めの結果となりました。

「サステナビリティを意識して行動している」と答えたのは、どの世代も2割前後。この設問のほかにも複数の設問を総合すると、特に40代と50代は、実際に行動に移している人が他の世代よりも少ない傾向がありました。

サステナブル消費調査
ニッセイ基礎研究所「サステナビリティに関わる意識と消費行動」より抜粋 / OTEMOTO

また、70代は「サステナビリティに興味はあるが何をしたらよいかわからない」と答えた人が48.2%と約半数を占めていました。久我さんはこう分析します。

「エコバッグの持参やごみの分別など日常生活で個人的にできる行動をしているシニアは多いのですが、ボランティアや情報発信などの行動は、現役世代に比べて情報を得る機会が少ないためとみられます」

現役世代は企業で研修を受ける機会があったり、若い世代は学校でもSDGsについて教わる機会があったりするため、具体的な行動に移しやすいのだといいます。

「シニア世代は意識が高いのに行動に結びついていないのはもったいないのですが、逆に伸びしろがあるとも言えます」

サステナブル消費調査
ニッセイ基礎研究所「サステナビリティに関わる意識と消費行動」より抜粋 / OTEMOTO

また久我さんは、消費者が具体的な行動に移しづらい背景には情報不足のほか、物価高騰も影響しているとみています。

「サステナビリティに関わる問題は他人事ではない」と危機意識をもっている人は全体で4割を超えていた一方で、サステナビリティを意識して商品やサービスを購入しているという人は約2割にとどまりました。

サステナ消費調査
ニッセイ基礎研究所「サステナビリティに関わる意識と消費行動」より抜粋 / OTEMOTO

「サステナブルな素材を使った商品やフェアトレード商品は、割高なものが少なくありません。サステナブルかつ値頃感のある商品やサービスの選択肢はまだまだ少なく、物価高で家計負担が増す中では、品質や機能、費用対効果など本来の製品価値が優先されがちなのが現状です」

手間は愛着につながる

環境のためとはいえお金はかけづらい。そんな消費者でも行動しやすいのは「ちょっとした手間をかけること」だと久我さんは話します。

例えば、使い捨てコンタクトレンズの利用者から、空のケースを回収してリサイクルしているメーカーがあります。消費者にとっては、アルミシールをはがしたケースを捨てずにとっておき、店舗を訪れたときに回収ボックスに入れるだけで、CO2削減に貢献できます。

この場合、コンタクトレンズ自体の価格は安くも高くもならないので家計への影響はゼロ。消費者はほとんど負担を感じずに「環境にいいことをしている」と満足感を得ることができます。

サステナビリティ
コンタクトレンズの空きケースの回収は、自社以外のものも対象としているメーカーも。
※リサイクルの際にはアルミシールをはがす必要があります
Adobe Stock / olga

「環境問題への意識が年々高まり、ものを捨てることに罪悪感を感じる人も増える中、こうした企業発の取り組みに参加することは、罪悪感を減らし、満足感や自己肯定感を高めます。また、ちょっと手間をかけることにより、製品や企業に対する愛着が高まる効果も期待できます」

「サステナビリティに関する意識と行動にギャップがある現時点では、価格に影響を及ぼさない範囲で、消費者にちょっとした協力をお願いするかたちがちょうどいいのだろうと思います」

パッケージレスや補修サービス、リサイクルなど、購入前から使用後にいたるまでのさまざまな段階で、消費者にサステナビリティに関わる「手間」を求めるタイミングはあります。それは企業から消費者へのメッセージ、つまりブランディングになります。

「ちょっとした手間をかけてもらうことは、消費者のマインドに対しても、企業にとっても、プラスになると思います。企業が取り組みの機会を増やすことで、研修や教育の機会がない消費者にも伝われば、サステナビリティに関する取り組みは底上げされていくでしょう」。そう久我さんは語ります。

いまさらだからこそサステナブル
OTEMOTO
著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
SHARE