平成と令和で「両立不安」に変化が。子育て中の男性の6割超が転職を検討。上司の対応は

小林明子

仕事と子育ての両立に不安を感じる男性が増えていることが調査でわかりました。両立のために「転職や退職をした・検討した」という男性も6割を超え、その割合は女性より高い結果となりました。

ワークとライフの実現を目指して企業向け研修やコンサルティングを展開するスリール株式会社が8年ぶりに発表した令和版「両立不安白書2025」で、仕事と育児の両立について、働く男女の意識が明らかになりました。

男性も「両立不安」を抱えている

スリールは2010年に創業。2017年に「両立不安白書」の初回版を発行しました。

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2017年の「両立不安白書」
出典:スリール株式会社

このときは女性のみに調査を実施。回答した女性の92.7%が、仕事と育児の両立に直面する前から、両立に不安を感じていたことがわかっています。

当時の不安の一因だった保育施設の待機児童数は、2017年をピークに減少。2020年のコロナ禍以降はテレワークが浸透し、在宅勤務をする人が増えました。育児休業は法改正により父親の取得が推奨され、男性の育休取得率は2024年度に過去最高の40.5%になりました。

こうした社会の変化について、スリール代表取締役の堀江敦子さんはこう話します。

「創業以降の15年間でみても、法や制度が整い、若い世代は男女ともに子育てと両立しながら働くことが当たり前になってきました。一方で、両立の当事者に男性も加わったことで、新たな課題が生まれています」

そこで今回は、こどもがいない20〜30代の男女678人と、こどもがいる20〜40代の男女600人の計1278人に調査を実施し、「両立不安」の現状を探りました。

不安は結婚前から

仕事と子育ての両立に不安を感じたことがあるかという質問では、男性52.6%、女性67.1%が「不安を感じた経験がある」と回答。男性でも過半数が「両立不安」を感じていることが明らかになりました。

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出典:令和版『両立不安白書2025』(スリール株式会社)

また、男性は29.7%、女性は23.0%が「結婚前」「(パートナーの)妊娠前」から、両立を踏まえた働き方やキャリアを考えていると答えました。

「会社や上司からすると『両立が不安だという人は仕事のやる気がない』というふうに思い込みがちですが、逆です。むしろキャリア意欲は高い傾向がありました」(堀江さん)

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出典:令和版『両立不安白書2025』(スリール株式会社)

「両立不安がある」と答えた人は、今後のキャリアで「管理職」「スペシャリスト」「起業・独立」を目指す割合が、「両立不安がない」または「両立不安を考えたことがない」と答えた人よりも高いという結果になりました。

自由記述では、仕事と育児のどちらも真面目にやろうと葛藤している様子がうかがえます。

「日本はスーパーマン、スーパーウーマンをロールモデルにしようとしている無理ゲー社会」(45歳 / 男性 / こどもあり / 建設業)

「職場からはパフォーマンスを求められ、家庭では育児や家事をするのが当たり前。ひとときも休まるときがない」(41歳 / 女性 / こどもあり / 製造業)

早く帰っていいのは女性だけ?

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出典:令和版『両立不安白書2025』(スリール株式会社)

両立不安を抱えた人が、より柔軟な働き方を求めて選択するのが、転職や退職です。

こどもがおり、両立不安を抱えている人で「転職や退職を経験した」「転職や退職を考えたことがある」と答えたのは、男性66.3%、女性65.0%。

「男性からは『プライベートのことを職場で相談すると昇進に影響すると思っていた』という声をよく聞きます。周りに相談せず、静かに転職や退職を考えている男性が少なくないということでしょう」

「女性の両立支援は整ってきましたが、男性には長時間労働を求める風潮はまだ根強くあります。柔軟な働き方ができない企業からは、キャリア意欲が高い男性社員が流出する可能性があるということです」

父親も「マミートラック」に

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出典:令和版『両立不安白書2025』(スリール株式会社)

こどもがいる20〜30代で「管理職を経験したい」と答えた人は約4割と意欲的な一方で、子育て中は男女ともに、職場での自己効力感が低くなるという結果も。

「これは、責任のある仕事を任せてもらえていないということです。能力も意欲もあるのに、もったいない状況です」

子育て中に責任ある仕事ができずに自己効力感が下がる「マミートラック」と呼ばれる状態に、男女問わずなりうることを示唆しています。

男性に「両立支援」、女性に「活躍支援」を

堀江さんは「今回の調査結果には、職場にまだ『男性は仕事、女性は家庭』という固定観念があることが表れています」と話します。

スリールでは、企業の管理職層を対象に、固定観念をあぶり出すワークを実施しています。

その一つが「子育て中の男性社員Aさん(片働き)と女性社員Bさん(共働き)が業務知識やスキルが同等の場合、泊まりがけの出張をどちらに依頼しますか」というもの。多くの管理職が、男性社員Aさんを選ぶといいます。

「正解は、まずは2人に意向を聞いてみる、です。Aさんは育児を主に担っているかもしれないし、Bさんは夫と予定を調整できるかもしれない。管理職は、自分の思い込みや表面的な情報だけで判断しないことが大切です」

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Adobe Stock / UTS

また堀江さんは、企業の取り組みが、「両立支援」と「活躍支援」のどちらかに偏りがちであることを指摘します。

「配慮はするが活躍の機会を与えない(両立支援のみ)か、活躍は促すが配慮はしない(活躍支援のみ)の0か100になりがちですが、両方のバランスが必要です」

「特にいまは、男性の両立支援、女性の活躍支援を進めていくことが、子育て世代だけでなく若い世代の両立不安を解消するポイントになるでしょう」

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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