5年前、男性の育休は平均2.4日だった。10倍の23.4日になった今、「取るだけ育休」をなくしたい

小林明子

男性の育休取得日数は平均23.4日という調査結果が、積水ハウスの「男性育休白書2023」で明らかになりました。5年前の平均2.4日から10倍の長さとなり、「1カ月以上」という男性も約半数となりました。取得日数が短いことから「取るだけ育休」と批判されることもあった男性の育休に大きな変化が起きているようです。

大手住宅メーカーの積水ハウス社長の仲井嘉浩さんは2018年、スウェーデンに出張した際、平日昼にベビーカーを押している男性が多いことに衝撃を受けました。

日本では、男性の育休取得率が初めて5%を超えたと報じられていた頃。そこで、自社で独自に男性育休を推進することを決断しました。

3カ月後の同年9月から、3歳未満の子どもがいる男性社員に1カ月以上の育休取得を推奨し、最初の1カ月は性別を問わず有給とする制度の運用を始めました。2023年8月末時点で、同社の男性育休取得率は100%を継続しています。

同社は男性育休について情報共有するため、2019年から毎年9月19日を「育休を考える日」と定め、インターネット調査の結果を「男性育休白書」にまとめて公表しています。また2023年は賛同する119企業・団体とともに男性育休を考えるプロジェクトを展開しています。

男性育休に大きな変化

積水ハウス独自の取り組みに限らず、ここ数年で男性の育児を取り巻く状況や世論は大きく変化しました。

2022年10月1日に改正育児・介護休業法が施行。育休が分割できるようになり、いわゆる男性版産休の「産後パパ育休」もスタートしました。2023年4月からは、従業員が1000人を超える大企業に男性の育休取得率の公表が義務づけられました。

厚生労働省の雇用均等基本調査によると、2022年度の男性育休取得率は17.13%で過去最高に。また、公表義務がある従業員1000人超の大企業を対象にした2023年6月の調査では、回答した849社の男性育休取得率は46.2%でした。

ポーズとしての「取るだけ育休」

男性の育休取得率が急上昇する一方で、「取るだけ育休」という言葉も生まれています。

「取るだけ育休」とは、企業が取得率を上げるために男性従業員に取得を奨励する影響などによる、1日のみや数日のみのポーズとしての育休のこと。あるいは、育休中にも関わらず仕事をしたり単なる休暇として過ごしたりして、家事や育児に積極的に関わらないことを指す言葉です。

子育て情報サイト「ママリ」を運営するコネヒト株式会社が2022年8月に実施した調査では、育休を取得した男性の1日の家事・育児時間が「3時間以下」と答えた人が44.5%おり、「取るだけ育休」の実態があるとしています。

男性育休イメージ
男性が育休を取得するだけでなく、過ごし方が議論されるようになった(写真はイメージです)
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

5年前は2.4日だった

共働き世帯が約7割となっているいま、夫婦ともに仕事と育児を両立するためには双方が当事者として家事や育児をする習慣をつける必要があり、「取るだけ育休」では不十分であることが指摘されています。

つまり、男性の育休取得は「率」だけでなく「期間」や「質」が問われるようになってきているのです。

厚生労働省の2021年度の雇用均等基本調査によると、育休を取得した女性の95.3%が「6カ月以上」の育休期間であるのに対し、男性は「2週間未満」が51.5%。そのうち「5日未満」が25.0%で、男女の育休期間の差が際立っていました。

今回、積水ハウスの調査では、男性の育休取得日数は平均23.4日で、5年前の同調査の2.4日からおよそ10倍に増えたことが明らかになりました。1年前の平均8.7日からも約3倍に増えていました。

男性育休白書2023
出典:積水ハウス「男性育休白書2023」

取得期間の内訳としては、1週間以内が32.5%(2019年調査では63.7%)、1週間から1カ月未満が22.7%(23.2%)、1カ月から6カ月未満が22.1%(9.7%)、6カ月以上22.6%(3.4%)でした。

男性育休白書2023
出典:積水ハウス「男性育休白書2023」

この結果は、改正育児・介護休業法の施行にともなう企業の変化が反映されていると考えられるということです。

また、前出の従業員1000人超の大企業を対象にした2023年6月の厚生労働省の調査では、回答した610社で育休を取得した男性の取得日数の平均は46.5日でした。対象を大企業に限った調査とはいえ、男性の育休期間が長くなっている傾向がうかがえる結果となりました。

子どもの成長を応援する企業

2023年9月19日に積水ハウスが開いた「男性育休フォーラム2023」では、この5年間の男性育休の変化について専門家らが議論しました。

NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事・ファウンダーの安藤哲也さんは、2022年に企業から男性育休に関する問い合わせや研修の依頼が多くあったといい、「法律が変わるというインパクトは企業をかなり揺さぶるんだと感じました」と話します。

具体的な企業の取り組みとしては、育休の1カ月間を有給にする、管理職に向けて研修をする、企業内で両親学級を開くーーなどが多い、と安藤さん。三井住友海上火災保険が2023年4月に導入した「育休職場応援手当」のように、育休を取得する本人ではなく、サポートする職場の同僚に支援金を検討する企業も増えているといいます。

こうした企業の動きもあってか、積水ハウスの調査では「職場の男性の育休取得に対するルールや仕組みがある」と答えた人が42.1%(2022年は38.2%)、「男性の育休取得に賛成」と答えたマネジメント層が80.3%(2022年は78.3%)など、実際に職場で変化が起きている様子がわかる結果となりました。

男性育休フォーラム2023
オンラインで開催された「男性育休フォーラム2023」の様子
写真提供:積水ハウス

積水ハウス社長の仲井さんは、企業が男性育休に取り組む姿勢についてこのように話しています。

「昭和の時代には24時間モーレツな働き方でもよいという風潮がありましたが、高度経済成長期を終えて成熟社会になったいま、望ましい働き方は当時とは完全に異なるフェーズに入っています。そして、高度経済成長期であれ成熟社会であれ、どんな時代でも根本的に考えなければならないのは、社会の宝である子どもの成長です」

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著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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