地球にやさしいはずの洗剤、"炎上"から20年。「見た者の責任」を問い続けるサラヤの本気度

小林明子

植物性の洗浄成分を使った「ヤシノミ洗剤」や、カロリーゼロの甘味料「ラカントS」で知られる医薬品メーカーのサラヤは約20年前から、持続可能な原料調達の取り組みを続けています。きっかけは、ヤシノミ洗剤の原料が環境破壊につながっているかもしれないと知ったことでした。サラヤのソーシャルビジネスを牽引してきた取締役の代島裕世さんに経緯を聞きました。

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緑の回廊
土地を買い戻し、分断された熱帯雨林を結んで野生動物の移動路を取り戻す「緑の回廊プロジェクト」
写真提供:サラヤ株式会社

ーーSDGs(持続可能な開発目標)が国連で採択されたのが2015年ですが、サラヤではそれ以前から環境保全や人権尊重に取り組んでいるそうですね。

サラヤは1952年の創業当初から、"人と地球"にやさしい製品づくりに取り組んできました。

2005年に国際NGOのRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)に加盟。2010年には日本企業で初めて、持続可能な生産基準を満たしていることを示すサプライチェーン認証(SCCS認証)を取得しました。

看板商品である「ヤシノミ洗剤」など原料にパーム油を使用している製品の売上の1%(メーカー出荷額)が、東南アジア・ボルネオ島の環境保全活動に使用されます。

今はSDGsという有効な共通言語ができたことで、サラヤの取り組みについてもより話しやすくなったわけですが、サラヤの「地球にやさしい」というキャッチコピーは同じままでも、時代は大きく変わったと感じています。

20世紀は、エコといえば廃棄物をどうするかという下流に焦点があたっていましたが、21世紀はサプライチェーンの上流に問題が移ってきました。その流れで2004年に、サラヤを直撃する出来事があったんです。

サラヤ代島裕世さん
代島裕世(だいしま・ひろつぐ) / サラヤ株式会社 取締役
1965年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。進学塾講師、雑誌編集、ドキュメンタリー映画の制作などを経験した後、1995年入社。サラヤとの出会いは、東京でタクシー運転手をしていた頃、偶然乗車した創業者・更家章太に声をかけられたのがきっかけ。商品企画、広告宣伝、広報PR、マーケティングを担当。現在は取締役、コミュニケーション本部 本部長。CSR活動として2004年から「ヤシノミ洗剤」の持続可能な原料調達の視点に立ったボルネオ環境保全活動を展開している。認定NPO法人「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」理事
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

こどもに採取させた油なのか

ーー「地球にやさしい」はずのヤシノミ洗剤に使用していたパーム油が、熱帯雨林や野生動物を犠牲にしている可能性があるというテレビ番組が放映され、今でいう「炎上」が起きた件ですね。

ヤシノミ洗剤は、河川の汚染を減らすためにヤシ油を使用した台所用洗剤として1971年に誕生したロングセラー商品です。食器用洗剤では日本で初めて1982年に詰め替えパックを発売しました。

ヤシノミ洗剤
ロングセラーの「ヤシノミ洗剤」
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

正直なところ、私たちは地球にやさしい商品として誇りを持っており、原料調達の過程にある社会情勢を意識できていませんでした。ココヤシよりも油脂の生産性が高いアブラヤシに切り替わっていることを、テレビ局の取材がきっかけで知ることとなりました。

そのドキュメンタリー番組では、アブラヤシから搾るパーム油は、ボルネオ島の熱帯雨林を切り倒してつくった巨大なプランテーションで、移民の強制労働や児童労働によって採取されていることを注視していました。そして大規模開発のせいでボルネオゾウやオランウータンが住む場所を失っていることが環境NGOから指摘されていました。

そんな感情を揺さぶられる内容について、テレビ局から2004年、2代目社長の更家悠介が取材を申し込まれました。パーム油を原料とする商品をつくっている企業として、責任についてコメントを求められたのです。

ーー2004年といえば、CSR(企業の社会的責任)や説明責任が不可欠だという議論が始まったばかり。「ノーコメント」とする企業も多そうです。

実際、パーム油の輸入量が多い国や地域は中国、EU、インドがトップ3で、日本の輸入量は中国の1割ほど。しかも使用目的の8割は揚げ油やお菓子などの食品で、原材料名に「植物油」「植物油脂」と表示されているものの多くはパーム油が使われているのが実情です。

大手消費財メーカーもパーム油を使った洗剤を取り扱う中で、うちのような規模の企業が槍玉に上げられたら、どれほどの批判にさらされるかは想像がつきました。

商品が最高のメディア

ーーテレビの影響力の大きさを知りつつも、取材に対応する決断をしたんでしょうか。

私は入社以来、広告宣伝や広報PRを担当していました。2時間ドラマに協賛してテレビCMを流していましたし、情報番組に働きかけ、自社商品がPRで取り上げられるとスーパーの棚から一気に消えてしまうようなことにやりがいを感じていた時期もありました。

しかし、2001年からはテレビCMをやめていました。大手メーカーほど広告宣伝費が潤沢ではない私たちにやれることは、CMにお金をかけるのではなく、商品を磨くことによって商品自体を最高のメディアにすることだという方針にシフトしたのです。

そんな背景もあって、胸を張って最高の商品だと言い続けられるようにしたいという思いが強くありました。「これからはSNSの時代だから、情報を隠すのではなく開示していこう」と社長とも話し、出演を決めました。

私にできたことといえば、社長がなるべく偉そうに見えないよう作業着を着てもらい、大阪工場の小さな部屋でブラウン管テレビを見ながら話すというシチュエーションを用意することくらいでした。

「こんなことになっているとは知らなかった」

社長は正直にコメントしましたが、案の定、多くの批判がありました。

「とにかく行って確かめよう」とすぐに現地に調査員を派遣し、社長自らも現地を訪れました。そこから会社をあげてボルネオ島の環境保全に取り組むことを決め、RSPO認証取得などどんどん進み、2008年にNPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンを設立するまでになりました。

多様性がない森を見て

ーー原料調達の見直しにとどまらず、熱帯雨林の回復や野生動物の保護にも取り組むのは、ビジネスの概念を超えているようにも思えます。

実は、ヤシノミ洗剤は看板商品でありながら、サラヤの事業全体では売上の5%に満たないものです。その売上の1%をボルネオの環境保全活動に使うことは、お客様に社会課題を知ってもらうプロダクトメディアとしての役割こそ担うものの、それだけで十分に環境保全活動ができるとはいえません。

そこで、ビジネスで手が届かないところをNPOで同時に展開するという方法をとっています。私自身、ボルネオ保全トラスト・ジャパンの理事になり、20回以上ボルネオを訪れています。

アブラヤシ
アブラヤシのプランテーション
写真提供:サラヤ株式会社

地平線まで続くアブラヤシのプランテーションを初めて見たときに、「同じ植物がこれだけ単一で植えられ、多様性がないのは気持ち悪い」と率直に感じました。現地を見たからには「見た者の責任」が発生します。

私たちは、目の前で起きている問題を少しでも解決できるのであれば、サラヤという企業のプラットフォームを使うしかないと考えています。

サラヤは素早く意思決定をして行動できる規模の会社だということもありますが、創業者が「地球にやさしい」というコピーを残したことで、すでに種はまかれていました。創業者が宿題を出し、2代目がその答え合わせをしたようにも思えます。

代島裕世さん
サラヤ
ボルネオやウガンダで環境や母子保健を守る活動を実施
写真提供:サラヤ株式会社

20世紀の「地球にやさしい」は、水を汚染しない洗剤をつくることでしたが、21世紀の「地球にやさしい」はどういうことなのか。原料調達について学ぶ機会を得たことが、サラヤを変えました。

ボルネオゾウは2024年6月、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されました。すでに野生種は約2000頭しか残っていないといいます。私たちは何らかの理由で親を失った子象を保護する施設の設立に参加し、その運営を支える活動を地道に続けています。

【後編】解決したい課題があるから商品を売る。昭和の学校にあった「緑色の液体石鹸」の知られざる背景

いまさらだからこそサステナブル
OTEMOTO
著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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