東京都「未来の働き方」アワードで大賞に。働く場所も時間も自由。社員の幸せを追求する社長の想い
誰もが幸せであれる組織はつくれるのだろうか━━。そんな問いを原点に、2020年に創業したネクスキャット株式会社。全社員の完全リモートワーク、清算期間3カ月の「ウルトラフレックス」など、柔軟すぎる働き方を導入し、国や東京都の働き方アワードで大賞を受賞。6年目にして社員130人、売上高20億円のホールディングスに急成長しています。自由と成果を両立させる秘訣とは。ネクスキャット創業者でホールディングスの代表取締役でもある千歳紘史さんに聞きました。

1984年、山形市生まれ。早稲田大学商学部卒業。アイ・エム・ジェイ(現アクセンチュア)、ネクスト(現LIFULL)を経て独立。2016年、iYellの取締役となり、5人だった組織を4年間で200人にまで拡大させた。2020年、ネクスキャット創業。2023年、Embody Holdingsを設立。
Akiko Kobayashi / OTEMOTO
━━今日は取材でオフィスにお邪魔していますが、誰もいませんね。かなり自由な働き方ができる会社だと聞きました。
ネクスキャット(NecScat)は、システム開発やウェブ制作などDX領域の支援を通して、デザイン経営を推進しています。社員はデザイナー、ディレクター、エンジニアら約60人で、男女比は半々。現在は国内16都道府県とタイ、ベトナム、イタリアに散らばっており、ワーケーションも自由です。
多様で柔軟な働き方を実現するため、「場所の自由」「時間の自由」「キャリアプランの自由」「環境の自由」「距離感の自由」の「5つの自由」を掲げています。

全社員がすべてのチャットを見る
「場所の自由」とは、フルリモートではなくオールリモート、つまり全社員がリモートワークをしています。出社している人とリモートの人が交じると情報の非対称性が生まれるため、それを避けるために、コミュニケーションはすべてオンラインを徹底しています。
チャットツールではダイレクトメッセージではなく、オープンな場所でのコミュニケーションを推奨しています。しかも、全員がすべてのチャットルームに入っています。自分に関係のない業務連絡や雑談もどんどん流れてくるので、慣れるまではストレスがあるようですが、これはチャットでオフィスを再現するためなんです。
オフィスに勤務していたら会話が自然に発生して、業務とは関係のない雑談も耳に入ってきますよね。オンラインだからといって効率だけを追求するのではなく、あえてノイズを発生させることで、コミュニケーションの活性化や自己開示を意図的に仕掛けています。

Akiko Kobayashi / OTEMOTO
また「時間の自由」は、3カ月間で勤務時間を調整できる「ウルトラフレックス」を採用しています。一般的なフレックスタイム制は、1カ月の総労働時間の範囲内で始業や終業を調整できるというものですが、2019年の法改正でこれが3カ月に延長されたことはあまり知られていません。
清算期間が3カ月であれば、副業で農業をしている人は農繁期に、子育て中の人はこどもの長期休み中に、勤務時間を減らすことができます。早めに予定を共有してもらえれば調整できるので、会社としては問題ありません。

Seigo Ito
━━働き方がさまざまだと、評価しづらくはないですか?
人事評価は、評価制度の考え方や報酬体系を示す、いわば「明朗会計」のガイドをつくっています。上司が評価するというよりは、自分自身のアセスメント方式。このガイドを参照して、「自分は今このレイヤーにいるから、来期はこんな挑戦をすれば経験値が上がる」などと自ら分析して目標設定をしていけば、必然的に成長できる仕組みにしています。
組織へのコミットや熱量が十人十色であることを大切にする「距離感の自由」や、「キャリアプランの自由」を尊重しているので、時間制約や副業が評価を下げる直接的な要素になるわけではありません。
プライベートを大事にして最低限のコミットをする人も歓迎しますし、成長を重視してマックス働く人も同じく歓迎します。幸せだと感じる働き方は人それぞれですから。
自分の自由を大切に、他人の自由も尊重する。人と比べずに自分の働き方を決めてほしいと社員には伝えています。
━━つまり、自らの選択で堂々と休め、正当に評価される仕組みになっているんですね。
はい。その働き方を正社員として実現することにもこだわっています。
こうした「自由」は日本では、雇用の不安定さや業務の規模との引き換えであることが暗黙の了解でした。
フリーランスで能力を発揮できる人は、そもそもすでに個人として強いです。一方で、チームワークを通してこそ能力を生かせる人もいるのに、地方や海外に住んでいたり、時間制約があったりすると集団で働くことが難しく、本来の力を発揮しづらい状況にありました。
今まで価値を発揮しにくい環境にいた人が、個人の幸せを犠牲にせず、集団としてどれだけ価値を生み出せるか。そんな「幸せに働く実験場」をつくりたいというのが、創業の一番の目的でした。むしろ事業内容は、後からついてきたくらいなんです。

こんなに楽しいゴルフがあっただろうか
━━「幸せに働く」という価値観を、創業によって実現するという発想が興味深いです。千歳さんはもともと起業に関心があったのでしょうか。
実家が建築会社を経営していたためか、小学生のときから貯金箱の中身を数えて一喜一憂しているような子で、お金持ちになることが夢でした。何かをやって熱くなったことはあまりなく、何をするかよりも、経営者になりたいという想いが強くありました。
大学卒業後、ウェブサービス運営のディレクターなどを経て、独立。ネクスト(現LIFULL)を退職するときに全社メールで「Googleを超える」みたいなことを偉そうに書いたのを覚えています。自信過剰で嫌な奴だったんです。
ちょうどスタートアップの創業が相次いでいた頃で、自信満々で2016年に最初の会社を創業しましたが、すぐに打ちのめされました。
その会社はコールセンターを運営しており、少ない正社員と多くの派遣社員で成り立っていました。優秀なはずの僕1人が、4人の派遣社員に到底かなわない。1人はチームに勝てないのだと、集団の力を実感しました。
それに、派遣社員たちとゴルフに行ったときに、「コースを回れるのは半年ぶり」「次までに練習します」と、満面の笑顔でものすごく楽しそうな様子だったんです。彼らより稼いでいてしょっちゅうラウンドをしている僕は、ここまでゴルフを楽しめるのだろうか、と衝撃でした。
そのときから、「幸せに働くとはどういうことなのか」「そもそも人は何のために働いているのか」「社員ファーストだと言って取り組んできたことは、本当に社員を幸せにしていたのだろうか」などと考えるようになりました。

Seigo Ito
チームワークの強みを他社に提供する
━━お金でもなく、仕事のやりがいでもないところにも、幸せがあったと。
ハーバード大学のポジティブ心理学の研究者であるショーン・エイカーは「成功したら幸せなのではなく、幸せだから成功するのだ」と言っています。
「幸せに働く」という言葉自体は漠然としていて、わかるようでわかりづらい部分もありますが、大切なのは「順番」です。まず働く自分がよい状態でいることで、周りにもよい影響を及ぼすはず。なので、組織運営を通して「幸せに生きる」を実現したいと考えました。
僕は事業内容にこだわりがなかったので、最初はM&Aを支援したりもしていたんですが、ウェブ制作やデザインが得意なメンバーがいたことから、今の事業内容になりました。

Akiko Kobayashi / OTEMOTO
━━多様な働き方がよい影響をもたらしている実感はありますか。
オールリモートやウルトラフレックスならではの点として、基本的にはすべてチャットやドキュメントでやりとりしているため、過去の経緯がすべて残っています。そこにナレッジがたまっていくので、業務の効率化と品質向上に寄与しています。
さらに、普段からチームワークがとれているため、”三遊間の仕事”を積極的に拾いにいく文化があり、事故が起こりにくいんです。
そうやって築いたチームワークを他社にも提供できると考え、新しいサービスを始めました。「社員よりも社員らしい」がキャッチフレーズの「Desinare(デジナレ)」という「デザイン組織構築サービス」です。月額制で、受託先に仮想のフルスタックデザイナーをアサインするというものです。
受託先からは一人のデザイナーがすべての技術領域をカバーしているように見えますが、実際は得意分野や勤務時間に応じて、デザイナーやエンジニアが分担したり入れ替わったりしながらプロジェクトや課題解決に対応しています。
━━企業が正社員を抱え込みたがらない中で、いわゆる「スキルベース組織」(業務を細分化し、従業員の持つスキルをもとに構築・運営する組織)をネクスキャットがまるごと提供するということですね。
広範なスキルをもつクリエイターを採用するにはコストがかかりますし、外注ではスキルセットやリソースが見合わないこともあるので、そのお悩みの受け皿になるサービスです。一方で、ネクスキャットがクリエイターの雇用を守り、さまざまな仕事を受けることで成長の機会も提供できます。
労働力不足の今、僕は正社員の採用は経済合理性があると思っています。
通勤圏内で時間制約のない人を探すのは難しいですが、働く時間や場所を問わなければ優秀な人材は見つかりますし、定着率が高いので採用コストも頻繁にはかかりません。チームワークで集団の力を発揮することで、長期的に成長し続ける組織になっていきます。
◾️ネクスキャット株式会社の主な受賞歴
・2024年 第11回ホワイト企業アワード「柔軟な働き方部門」受賞(ホワイト財団)
・「グッドキャリア企業アワード 2024」大賞(厚生労働省)
・「はたらく人ファーストアワード2024」Gold(ミイダス / 朝日新聞社)
・「Tokyo Future Work Award 2025」大賞(東京都)
・日本における「働きがいのある会社」ランキングべスト100 2026 小規模部門 第45位(Great Place To Work Institute Japan)
働き方に関するアワードで評価いただくことも増えてきましたが、この規模で実践していてもまだまだ説得力が足りないと感じています。1000人くらいの規模で実践できれば、働き方が自由であっても成果を出せるということを証明でき、社会の変化にもつながるはずです。
仕事は幸せになるためのプロセス

Akiko Kobayashi / OTEMOTO
2023年7月にEmbody Holdings株式会社を立ち上げ、ネクスキャットは約60人、ホールディングス全体では約130人になりました。
M&Aで参画した各社の独立性と文化の尊重を最優先に、多様なカルチャーの中で、それぞれが幸せに働ける組織にしていくことがこれからの目標です。
僕の仕事は組織づくりで、クライアントは社員です。マイホームを買った、結婚した、副業が充実している、などの話を社員から聞くのが最もうれしいですね。

ただ、大前提としては僕自身、「仕事は人間の遊びみたいなもので、大したことじゃない」と思っています。
幸せに生きることが人生というゲームのゴールであり、仕事はそのプロセスにすぎません。そして、そのプロセスを楽しめる場をつくることが経営です。
ゲームを1ステージずつクリアするような感覚で、組織の課題をアップデートしていくことが、僕にとって仕事が幸せにつながる瞬間であり、やりがいでもあります。