貢いだおやつを食べる姿が尊い...!保護猫を助けたい人がスマホでできる「推し活」とは

小林明子

保護猫の家族探しを応援するサイト「neco-note(ネコノート)」が注目を集めています。お気に入りの猫のライブを視聴したり、課金しておやつをあげたりする「推し活」を通して猫助けにつなげようという「推し猫ファンクラブ」。一体、どんな仕組みなのでしょうか。

環境省によると2021年度、飼い主がいないため全国の保健所や動物愛護センターが引き取った猫は3万4805匹。このうち約3割の1万1718匹が、元の飼い主への返還や譲渡がかなわず、殺処分されました。

殺処分を避けるため、民間の保護団体が行政から猫を引き取ったり直接保護したりして、譲渡会などを通して里親を探しています。「neco-note(ネコノート)」はこうした保護団体と連携して保護猫の情報を発信し、収益を団体に寄付しています。

neco-note
neco-noteのトップページから「推し猫」を選ぶことができる
出典:neco-note

「ひとりで苦労してきた子です」

「neco-note」のサイトを開くと、愛くるしい目がこちらを見つめています。全国各地の保護団体で保護されている猫たちです。

気になった猫の詳細を見ると、推定年齢や体重といった基本情報のほか、保護された経緯を知ることができます。

「家主さんご夫婦が病気を患い面倒を見れなくなりました」

「旦那さんからDVを受けている奥さんから、飼い猫も虐待されていると連絡がきて保護することになりました」

「長い間、外で暮らし、ひとりで苦労してきた子です」

悲しい過去だけでなく、無事に保護されてからの様子や性格についても書かれています。動画も投稿されており、譲渡会に出向かなければなかなか出会えない保護猫のリアルな様子を知ることができます。

neco-note
出典:neco-note

猫を飼うことはできなくても、猫のためになにかしたい。neco-noteではそんな思いのある人が課金によって「推し」の猫を支援することができます。

月額980円の会費で「推し猫」の「バディ」になると、バディ限定のライブチャットが視聴可能に。さらにおやつ券に課金すると、推しがおやつをもらって喜ぶ姿をライブチャットを通して見ることができます。売上の一部(最大96%)が、その猫を保護している団体に寄付されます。

「飼育放棄されたり虐待を受けたりしていた子が、保護団体によって飼育され、人間の愛情を知り、新しい家族のもとに巣立っていく。保護猫それぞれのシンデレラストーリーを伝えたい」

シリアスな境遇を生き抜いた猫たちにスポットライトをあてる、株式会社neconote(ネコノテ)代表取締役の黛純太さんに、neco-noteについて詳しく聞きました。

黛純太さんが「バディ」になっている推し猫のショコラちゃん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ーー黛さんはやはり、大の猫好きなんでしょうか。

こちらが僕の推し猫のショコラちゃんです。僕が貢いだおやつを食べている動画、どうですか? 麗しいでしょう。

僕は生まれたときからすでに実家で猫を飼っていて、猫と一緒に育ってきました。家族と同じように愛しい存在です。だからこそ、猫の尊厳が毀損されていると違和感を感じます。特に殺処分は飼育放棄など人為的な背景があるため、強い問題意識を持っていました。

ーー保護団体として活動するのではなく、保護団体を支援する企業という立ち位置なんですね。

保護団体の活動にはずっと関心があり、大学生のときには全国の団体を検索して片っ端からアポを取って話を聞きに行ったりボランティアをしたりしていました。海外視察にも行き、昨年までは保護猫シェルターに住み込んでいました。

複数の団体とともに活動をしていると、保護団体が共通して抱えている課題が見えてきました。情報発信とお金の両方が足りていないことです。どの団体も同じことで困っているので、第三者的な立場からビジネスの観点を入れ、これまでにない価値を提供しなければならないと感じました。

コロナ禍で保護猫の譲渡会ができなくなったときに、YouTubeやZoomを使ってオンラインで譲渡会を実施したことが、neconote創業のきっかけになりました。「保護猫団体の"猫の手"」として、団体の持続可能性と自立性をビジネスの力で高め、保護猫の命をつなぐことに貢献したいという思いを込めています。

黛純太さん
黛純太(まゆずみ・じゅんた) / 株式会社neconote代表取締役
1994年生まれ。大学卒業後、インターネット広告会社、まちづくりのスタートアップに勤務。2021年10月、株式会社neconoteを創業。保護猫譲渡会の企画運営や企業のCSR/CSV支援などを手がける。2022年2月22日に猫の推し活サービス「neco-note」をリリース。neco-noteはInternet Media AWARDS 2023でU30's VIEWを受賞
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

好きな広告で大好きな猫を助ける

もともと小学6年生の頃からコピーライターになりたくて、大手の広告代理店に憧れて就職活動をしていました。いわゆる意識高い系の大学生で、海外の広告賞が掲載された雑誌を読み漁ったり、OB訪問を繰り返したりしていました。

エントリーシートはそれなりに磨かれてきて、なぜ広告業界で働きたいかはスラスラ言えるようになってきました。そんな時、あるOBを訪問すると「なぜ入社したいかはわかったけど、何のためにうちに来るの?」と問われたんです。

2016年、広告賞では軒並みソーシャルグッドのムーブメントがきていた時期でした。社会課題が広告によって発信され、多くの人の心をつかんでインパクトを与えるフォーマットのことは認識していました。ただ、僕の中では広告の仕事と保護猫のことがつながっていませんでした。社会人として一人前になってお金ができてから保護猫の活動をやろうと別の次元のこととして考えていたんです。

「好きな広告で大好きな猫を助けることができたらハッピーだな」

そのOB訪問の帰りの電車で、方程式が解けたような感覚になったのを覚えています。

保護猫の事業をやると決めてからはデジタルを学ぶ必要があると感じ、結局、大手広告代理店ではなくインターネット広告の会社に就職しました。「いずれ猫のことをやります」と宣言して採用してもらい、2年で退職。その後はまちづくりのスタートアップに転職して、コミュニティデザインに広く携わりました。

保護猫
東京都内の家庭に引き取られた保護猫のオレンジとチャイ(neco-noteに登録されている猫ではありません)
提供写真(サムネイルも)

ーー広告業界で働いた経験を通して、保護猫に関する情報発信はどのように見えたのでしょうか。

残念ながら、社会課題の多くは世の中の人たちが積極的に望んでいる情報とは言い難いのが現実です。インターネット上で広告的な手法で届けたとしても、タイムラインでスクロールされて流れていってしまいます。

ましてや、殺処分されるかもしれない猫の情報は目を背けてしまう人がほとんどでしょう。保護猫の悲しい面を伝えるだけでは、共感は広がりにくいです。情報量を減らしてでも、ポジティブな文脈での発信や、温度感の高いコミュニティづくりが必要だと感じました。

保護団体で活動している人たちは常に多くの命と真剣に向き合っていますから、情報発信には苦手意識があるようでした。文章を書いたり写真を撮ったりすることができないわけではなく、世の中にアウトプットするためのポジティブなトーンに変換することに慣れていないだけでした。

なのでとにかく箇条書きでもいいから保護猫の情報を送ってもらい、僕たちが編集してneco-noteで届けるようにしています。保護猫にファンがつけばそれだけ団体への寄付が増えますから、1匹1匹の猫のコンテンツを充実させられるよう協力をお願いし、伝え方を試行錯誤しています。

とはいえ僕も猫好きなので、送ってもらった動画がかわいいと、それだけでテンションが上がります。猫が好きだし、猫好きの人も好き。結局、猫好き同士だからこそ連帯しやすいんですよね。

保護猫
提供写真

保護猫の「卒業」を祝福する

ーー保護猫1匹ずつの「推し活」の仕組みにしたのはどうしてですか。

コンテンツをどう収益に結びつけるかは、いくつものビジネスモデルを模索しました。保護猫は家族が見つかることがゴールなので、馬主のように所有権を譲渡するわけにはいきません。

そこで、「プロセス・エコノミー」や「アイドル理論」に関する本を買って勉強しました。地下アイドルが苦労を重ねてデビューしてセンターを飾るようになるのと同じように、保護猫のストーリーに共感し、応援したいと思ってくれる人がいるのではないかと考えました。

また、アイドルが「卒業」するのはファンにとっては不可抗力ですが、祝福すべきことです。保護猫も同じで、家族が決まったら「バディ」を解消することになりますが、ファンとしてはとても喜ばしいことです。権利もリターンもなくても、ただ推しの幸せを願い、応援する行動そのものに幸福感を感じられる「推し活」の仕組みがしっくりきたんです。

neco-note
出典:neco-note

ーープロフィールにハンデが記載されている保護猫も少なくありません。猫白血病ウイルス感染症(FeLV)や認知症、けが......過去に薬品をかけられたようだという猫もいました。

生活環境や虐待の影響で病気やけががある猫は、通院や食事などのコストや介護の手間がかかるうえ、譲渡もうまくいきづらい現状があります。

保護団体にいる限りは適切に飼育されますが、保護できる数には限りがあるため、なるべく譲渡につなげていかないと他の猫を受け入れることができなくなってしまいます。

また、譲渡につなげるには人馴れしていない猫を丁寧にケアして人馴れさせる必要があるため、長くいる猫が寂しい思いをすることもあります。できればその子にしっかりと愛情を注いでくれる家族に早く会わせてあげたいです。なので譲渡にハンデがある子をなるべく掲載し、事実をきちんと伝えるようにしています。

ーーneco-noteのローンチから1年が経ちました。今後の見通しは。

保護団体がとても協力的で、2023年5月現在で276匹の保護猫を掲載しています。正直ここまで登録があると思っておらず手が回っていないのですが、1匹1匹のロイヤリティを高めていくために戦略的に「プロデュース」をしていきたいです。

ロイヤリティが高まってファンができるとノベルティなどでより収益が見込めるので、ものづくりの分野にも事業を広げているところです。愛しい猫のグッズなので、量産ではなく素材やサステナビリティにこだわっていきたいです。

保護猫団体がneco-noteの収益によって持続的・自立的に活動できることが目標です。

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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