学校に行けない「もうひとつの待機児童」をなくすため、"普通の家"をつくる元児童相談所職員の思い

小林明子

千葉県習志野市に2024年11月、新しい形の児童養護施設が開所します。こどもも大人も、高齢者も障害者も暮らす、小さな街のような複合的福祉施設。虐待を受けたこどもたちも「当たり前」の生活ができるように、との思いが込められています。

千葉県習志野市に2024年11月に開所予定の「実籾パークサイドハウス」は、約6105平方メートルの敷地内に、児童養護施設、一時保護所、子どもショートステイ、高齢者のグループホーム、障害があるこどもの放課後等デイサービスなどが併設された、小さな街のような複合型福祉施設です。

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「実籾パークサイドハウス」のイメージ
画像提供:社会福祉法人「福祉楽団」

施設でありながら、こどもが暮らす建物はごく普通の住宅です。児童虐待などで一時保護されたこどもを預かる一時保護所が1棟、一時保護が解除された後に自宅に戻れない子の生活の場となる児童養護施設が6棟、それぞれ定員6名の一軒家として建設予定です。

千葉県と埼玉県で特別養護老人ホームの運営や障害者就労支援事業をしている社会福祉法人「福祉楽団」が建設・運営します。福祉楽団理事長の飯田大輔さんは「実籾パークサイドハウス」の形についてこう話します。

「児童養護施設などは小規模化が進んでおり、生活単位は小さくなっているものの、"施設感"を脱しきれていません。ここは、こどもが友達を連れてこられるような"普通の家"にしたいんです」

いつでも「ただいま」と帰宅でき、友達を呼ぶことができる。家から学校に通い、部活動に取り組み、大学進学や海外留学を目指すことができる。新しく清潔な衣服を身につけ、スマホで友達と連絡をとったり調べものをしたりできるーー。「実籾パークサイドハウス」が"普通の家"にこだわるのは、虐待を受けたこどもにとってはこうした生活が当たり前ではないという現状があるからでした。

一時保護所に長期間とどまる

「実籾パークサイドハウス」の施設長の藤堂智典さんは、元千葉県職員。児童相談所などで勤務した経験から、虐待を受けて一時保護されたこどもたちの生活環境に課題があると感じていました。

「虐待の渦中に一時保護されたこどもは、これからどんな暮らしをしていくのか、どんな人生を歩むのかと、とても不安に感じています。生活基盤を早く安定させてあげたい。しかし、一時保護所から次の生活の場に進めないこどもが一定数いるんです」

一時保護されたこどもたちは、その後の調査や心理診断などにより、自宅に戻るか、里親のもとや児童養護施設で暮らすかが決まります。児童福祉法では一時保護所の在所日数は原則として2カ月を超えてはならないとされていますが、調査や診断に時間がかかったり、里親や児童養護施設の空きがなかったりして、一時保護所にとどまらざるを得ないこどもが少なくありません。

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画像提供:社会福祉法人「福祉楽団」

藤堂さんはこれを「もうひとつの待機児童問題」と呼んでいます。

「里親や児童養護施設の定員が空くのを、半年から1年も一時保護所で待ち続けている子もいます。一般的に待機児童というと保育園や学童保育の空きを待っているこどものことを指しますが、知られていないところにも別の待機児童がいるんです」

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画像提供:社会福祉法人「福祉楽団」

約半数が通学できない

一時保護所はあくまで安全確保のためのシェルターとしての機能が優先されるため、学校に行けなかったり、私物を持ち込めなかったり、外出や連絡が制限されていたりと、施設によってさまざまな制約が設けられています。

厚生労働省の2020年度の調査研究事業による一時保護所(85施設)へのアンケートによると、「通学はしない」と回答した施設が52.9%。通学中に保護者がこどもを取り戻そうとする恐れがあることや、送迎する職員を確保できないこと、通学圏外の遠方から保護されてきた子との公平性を保つため、などの理由からです。

「安全を守るためとはいえ、こどもは窮屈な生活にストレスを感じ、問題行動につながることがあります。また、一時保護所が定員オーバーすると職員が不足します。保護される直前まで虐待を受けていた子は、心と体をすぐにケアしてあげなければならない状態なのに手が回らない。悪循環です」(藤堂さん)

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児童養護施設の建設費のうち、こどもを「おかえり」と迎える場所である玄関部分の建築費をクラウドファンディングで募っている
画像提供:READY FOR

こうした課題感から「実籾パークサイドハウス」では千葉県の委託先として一時保護所も開設。「こどもの権利を尊重し、"当たり前"の暮らしを実現できる一時保護所にしたい」と藤堂さんは話します。

また、併設する「子どもショートステイ」は、保護者が一時的に子育てが難しくなったときに、こどもを預けることができる施設。子育ての悩みが深刻になる前に頼れる場としての役割があります。

「社会的養護が施設から里親にシフトしている中で、なぜ今さら施設なのかと言われることもあります。もちろん里親を増やすことも大切で、そのためには里親をサポートする必要がありますし、そもそも虐待をなくすための子育て支援も必要です。ここに入所するこどもだけを対象にするのではなく、地域の子育てを支える拠点として開かれた施設にしていきたい」

飯田さんはそう話しています。

おんなじ目線で
OTEMOTO


著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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