保健室で眠れた子、チョコ1枚に救われた子。身近な気になる子どもに、大人ができることがある

小林明子

他人に踏み込まれたくないーー。虐待や暴力などの問題を抱える家族は、必ずしも介入を望んでおらず、孤立しがちです。気になる子どもがいたとき、周りはどう接していけばいいのでしょうか。児童虐待を防止する活動「こどものいのちはこどものもの」を続けているタレントの犬山紙子さん、ファンタジスタさくらださん、坂本美雨さんが、児童養護施設出身者として発信を続ける山本昌子さんと考えました。


犬山紙子:山本さんは振袖プロジェクトなどの活動を通して、LINEグループで全国の女の子たちとつながっているということでした。

山本昌子:はい。コロナ禍につくったLINEグループで、いまつながっているのは約450人くらいです。個人でつながっているのは600人くらいになります。虐待された経験があり、児童養護施設や里親のもとで暮らしていた18歳から34歳くらいの人がほとんどです。

虐待されて死にそうになったけど、一時保護されて状況が改善したから家庭に戻ったという人。以前は1週間ずっとご飯をもらえなかったのが今は3日に1回になって、何とかしのげるようになったという人。死にたくて仕方がない状態から回復傾向にある人などがいます。いますぐ介入が必要なわけではなく、自力で耐え抜きたいと考えている人が多いです。

山本昌子さん、犬山紙子さん、ファンタジスタさくらださん
山本昌子さんに話を聞く犬山紙子さんとファンタジスタさくらださん(左から)
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ファンタジスタさくらだ:LINEでは参加者同士でやりとりしないルールなんでしょうか。

山本:私がノート機能を使って支援情報を発信するのがメインで、基本的にトークはできません。何か言いたいことがあるときは個人LINEかコメント欄に書くというルールにしています。

自由にしゃべりたい子たちもいるので別にトークができるグループもあるんですが、そこでも「死にたいといった重い言葉は読みたくない」という子が出てきて。なので自由に会話ができるグループにも、相談ができるグループと、「死にたい」などを言えるグループがあります。いずれも、同じような境遇の仲間とつながっているということ自体が心強さになっているようです。

坂本美雨:実際に支援や保護が必要な子がいたら、どういった段取りになるんでしょう。

坂本美雨さん
オンラインで参加した坂本美雨さん(左)
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

山本:18歳以上がほとんどなので、ある程度は身の回りのことができる年齢ですし、緊急で介入が必要なケースはほとんどないのですが、必要に応じて専門機関につなぎます。本人がどうしたいかを最優先に考えています。

コロナ禍では、毎月80人に食料品を送ったり、入院することになったのに付き添いがいないという子に衣服を送ったりしています。妊娠して困っているという子がいたら、ピッコラーレさんなど具体的な相談に乗ってくれるNPOにつなぐこともあります。

私は、たくさんの人と広くつながるけれど深くは入り込まないということを決めています。また、お金のやりとりもしません。つまり、具体的に救うことができる人間ではないということはみんなに知ってもらっています。

MACO CHAN HOUSE
東京の住宅街にある「MAKO CHAN HOUSE」
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

自分の人生を自分で考える

ここの「MAKO CHAN HOUSE」はNPOから借りた一軒家で、行き場がなくなった女の子が泊まりにくることもあります。自分の意志で訪ねてきて、落ち着いたら出ていくという形で使ってもらっています。

犬山:支援する側とされる側の間に、対等な関係性があるんですね。

山本:そうですね。彼女たちと話をするときには、「なるべく自分で考えてほしい」と必ず伝えるようにしています。

「私の意見を参考にしていいけど、一人ひとり意見は違うから、素直にそのまま受け取るんじゃなくて一度は疑問を持つのも大切だよ」と。

これは、ここ数年で活動を広げてきた中で改めて大事なことだと思っています。

MACO CHAN HOUSE
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

山本:振袖プロジェクトが広がって関東や関西以外にも拠点ができ、ボランティアの方に支えていただいているんですが、カメラやヘアメイクの技術はないけれど何か役に立ちたいという方がたくさんいることがわかりました。

こんなに多くの方が「何かやりたい」と言ってくださっているなら、と「おせっかいsan」というグループの運営をはじめ、いま約80人に活動していただいています。

児童養護施設や里親家庭の出身者、虐待された経験のある若者たちを支えるために、自分たちのできることを考えて行動するグループです。

さくらだ:どんな活動をしているんでしょうか。

山本:それまで、私はつながっている子に誕生日カードを送ったり、毎月の食料支援に応援カードを添えたりしていたんですが、私ひとりだと書き終わらなくなってきていたので、カードづくりを「おせっかいsan」にお願いすることにしました。

また、おせっかいsanを週末里親のようにマッチングすることも目指しています。遠方に住んでいる子だとLINEのメッセージや通話でのやりとりしかできないので、近くに住んでいるおせっかいsanとマッチングして、カフェでお茶をしながら話をしてもらったりもしています。

さくらだ:初対面で、リスクはないんでしょうか。

山本:よく聞かれることなんですが、さきほどの「自分で考える」ということが前提にあるので成り立っています。18歳以上なので、自分で責任をもって判断し、トラブルがあれば自らSOSを出すようにとあらかじめ約束しています。私は双方それぞれとつながっているので、双方から報告がくるようにしています。

MACO CHAN HOUSE
寄せ書きノートには記念写真もたくさん貼られている
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

支援のはざまにいる子

さくらだ:実はいま近所で気になっている家庭があって、ママ友達で様子を見ている子がいるんです。児童相談所にも伝わっていて一時保護されたこともあったのですが、家庭との面談ですぐに帰ることに...。とにかくその子が学校に来れば様子がわかるので、刺激をせずにそっと見守っている感じなんです。どのくらい他の家庭に介入していいのかの難しさを感じています。

山本:虐待の渦中にいる人への支援はとても難しいと、私も感じています。虐待の経験がある人にアンケートをしたときに、周りがよかれと思って児童相談所に通報したことなどに対して「余計なことはしてほしくない」という感想が多かったんです。

さくらだ:まさにそんな状況です。その家庭の事情や関係性は、他人にはわからないところがあるので、おせっかいをするにも勇気が必要だなと感じています。

山本:そうですよね。だからといって何もできないわけではなくて、本当に生きるか死ぬかの瀬戸際にいるときって、たとえそれが「正しい救済」の方法でなくても救われることもあるんです。

例えば、学校の先生が放課後にこっそり呼び出してチョコレートをくれた、それだけのことで「自分は生きてていいんだと思えたから、今も生きている」と言っていた子がいました。

身も心もへとへとに疲れていたときに「保健室のベッドで寝てきなさい」と先生に言ってもらえて、久しぶりに安心して眠れたという子もいました。周りの大人が、その人なりにできることを考えて行動に移してくれるだけで、励みになることもあるんです。

もちろん、それが根本的な解決にはならないので、児童相談所の人員不足など構造的な問題を解決することも両輪で進めていかなければなりません。それでも「何か役に立ちたい」「できる範囲で手伝いたい」という人たちの思いでできることもあるし、それは社会で子育てをする意識を醸成することにもつながると思っています。

山本昌子さん、犬山紙子さん、ファンタジスタさくらださん
山本昌子(やまもと・まさこ)/ 生後4カ月から19歳まで、乳児院、児童養護施設、自立援助ホームで育つ。児童養護施設出身者の振袖撮影をサポートする「ACHAプロジェクト」代表。ボランティアグループ「おせっかいsan」を運営。児童養護施設出身の3人によるYouTubeの情報発信番組「THREE FLAGS -希望の狼煙-」のメンバーとしても活動。
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

犬山:虐待かもしれない行為を知ったときに、「189(いちはやく・児童相談所虐待相談ダイヤル)」に電話をするのはとても重要なことです。電話によって必ず一時保護されるわけではなく、保護するかどうかを児童相談所の職員さんが話し合う流れなので、通報自体はストップしないでほしいなと思います。

でも、子どもが保護を望んでいない場合や、保護まではいかないけれど見守っていく必要があるような"支援のはざま"にいる子のことを忘れてはいけないですよね。社会的にそういった子どもを支える仕組みづくりは絶対に必要だし、山本さんの活動のように周りの大人たちがおせっかい精神で目を配っていかないと、と痛感します。

坂本:本当に助けが必要な人って、自分では役所に行けないし電話もできないことが多いですよね。近くにいる人が気づいてあげるしかないんだってずっと思っていて。だから周りの大人たちは、おせっかいのスキルを上げていかなくちゃいけないですよね。練習を積んで、慣れるしかないのかもしれません。勇気を出してやってみたら次のハードルは低くなるでしょうし。社会的にできるようになるところがゴールですよね。

山本:はい。子育てをしながら関わってくださるおせっかいsanもいて、お互いに相手のことを想像しながらコミュニケーションが生まれています。

一方で、私の反省としては、周りのことを気にするのと同時に、自分の大切な人を大切にできているかという視点も必要だとつくづく感じています。

私は活動に専念しすぎるあまり、児童養護施設で一緒に育ったおねえちゃんたちと会う約束をやぶってばかりだったことがあったんです。私はいいことをしているから許されると思いこんでいて、おねえちゃんたちに怒られてハッとしました。いちばん身近な人を幸せにできていなかったんですね。

さくらだ:なるほど、みんなそれぞれに事情があって、誰もが勇気を出しておせっかいができるわけではないけれど、まずは自分の大切な人を大切にすること。守らなきゃいけないものを守っていくことも、私たちにできることの一つ。そのうえで視野を広げて周りを見ていきたいですね。

犬山紙子さん、山本昌子さん、ファンタジスタさくらださん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

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著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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