"小1の壁"が不安な親に、大日向雅美さんが伝えたいこと。「1年生になったら...と考える前に」
こどもが小学校に入学するにあたり、多くの親が直面する「小1の壁」。保育園に預けていたときよりも仕事や時間の調整が必要になることを指すこの言葉が浸透したことで、親がより早くから不安や焦りを感じるようになる傾向もあります。こどもの発達心理に詳しい研究者の大日向雅美さんが「入学までにまだ時間があるこの時期にこそ伝えたい」というメッセージを紹介します。
小学校生活のスタートをわが子がうまく切れるだろうか。先生の言うことをちゃんと聞けるだろうか。友達と仲良くできるだろうか。
そうした心配が高じてふと気づくと「小学生になるまでに、あれもこれもできなければならない」という焦りになってはいないでしょうか。
1年生になるまでにひらがなを読めなければならない。時計がわかるように数字も勉強しておかないと。英語も早めに始めておいたほうがいいし、スポーツの習い事もいくつか考えておこうかーー。
そうやって予防線を張りはじめると、わが子が小学生になる喜びや楽しみよりも焦りのほうが大きくなってしまいます。それはとてももったいないと思います。
ただでさえ情報化社会の昨今です。準備を先回りしすぎるあまり、いまこの瞬間を楽しむ余裕をもちづらくなっています。「小学生になったら」と1年生になるタイミングを人生の決定的なスタートラインと考えてしまいがちですが、それまでも、これからも、わが子とのかけがえのない瞬間はたくさんあるんです。
1年生で急にできるわけではない
そもそも小学生になるからといって、こどもは急に成長するわけではありません。
1年生になったらひらがなを読めるのではなく、それまでに絵本を読んでいたら、自然と文字に興味をもって、やがて読めるようになります。
でも、絵本が好きではない子もいます。動画を見て歌って踊ることが好きな子、電車が好きで時刻表を読み解きたい子、外で体を動かすのが好きな子......。それぞれが好きなことを思う存分やる中で、自然と知識が身につき、世界が広がっていくのです。だからこそ、いまを楽しんでいただきたいと思います。
小学校生活は、いま過ごしている時間の延長です。こどもが求めていることを一緒に楽しんでいたら、おのずとその子らしく、その子のペースで育っていきます。
生活習慣やしつけは入学するためにだけ教えるのではなく、この先もずっと伝え続けていく必要があります。「小学校に入るためにだけ、こどもがやるべきことは特にない」と思っていいでしょう。
ある保育園では、小学校の入学前に急に担任が態度を変え、「先生〜」と抱きついてくるこどもに「『先生、お話があります』と言いなさい」などと指導を始めたことで、こどもたちが不安定になったことがありました。
こどもが恥をかかないようにしたいという親や保育者の思いの裏には、もしかしたら自分の保育や育て方が評価されるのではという不安があるのではないでしょうか。こどものためという善意のはずが、無意識にこどもを追い詰めてしまうことのないように、この時期の大人は改めて振り返っておきたいですね。
「小1の壁」で備える2つのこと
「小1の壁」に関しては、「こどもが早くしっかりしなければ」「お留守番もできるようにならないと」といった焦りは禁物です。こどもにがんばらせるよりも、親が準備を整えておくことが必要です。
ひとつは、学童保育や預かりサービス、勤務時間の調整などで「こどもが安心して帰れる場所」を確保しておくことです。
保育園のときと違って、こどもが学校にいる時間と親の勤務時間のギャップが大きくなりがちです。このギャップを埋めるには、日頃からママ友やパパ友、親戚、近所の人などと助け合える人間関係を築いておくことが必要です。
「小1の壁」に関するメディア情報や「やるべきことのチェックリスト」を読んだり試してみたりすることも良いでしょう。そのうえで、それに振り回されすぎないよう、自分のライフスタイルやこどもの個性と合っているかどうかを見極めてみてください。
もうひとつは、こどもの心の拠りどころとなる「安全基地」を整えておくことです。
2,3歳の頃、公園でだんだんと親から離れて砂場や遊具で遊べるようになってきたように、こどもは親に守られた「安全基地」から少しずつ出ていきます。小学生になるときには「何があってもここに戻ってくれば絶対に大丈夫。必ず守ってあげるからね」と、改めて言葉にして「安全基地」の存在を伝えてあげてください。
こうした準備を整えないままに、こどもに「がんばれ」と背中を押すのは、いきなり荒海に突き落とすようなものです。
両親ともに家にいないときに電話をかける番号をリストにしたり、困ったときに助けを求めて駆け込める人や場所を地図にしたりして、「何があっても大丈夫。みんなが味方になってくれるから」と、物理的、精神的な居場所があるということをわかりやすくこどもに示しておく。そのうえで少しだけ背中を押してあげると、こどもは安心して世界を広げていくことができるでしょう。
身体ごと後ろを向いていた
私自身は小学生のとき、学校があまり好きではありませんでした。
扁桃腺でよく熱を出したりして休みがちでした。その一方で、いたずらっ子で先生を困らせることもたくさんしたようです。「ようです」というのは、そのことで先生や親から怒られた記憶がないのです。
私はこどもなりに精いっぱい、良い子でいたいと思っていました。いたずらをしたといっても、相手を困らせようとしてしたことではなく、ごく自然に自分の気持ちや興味のままに動いていただけなのだと思います。そのことを先生や親も分かってくれて、学校や大人の世界のルールを一方的に私にあてはめるのではなく、私がなぜそうするのかを考えてくれていました。
私を「悪い子」とか「困った子」とは見ないで、むしろ「天真爛漫な子」と見てもらえたことは、とてもありがたかったと思います。牧歌的な時代だったのかもしれませんが、私自身、こんなこども時代の思い出がありますので、こどもの視点に大人が寄り添うことがとても大事だと実感しています。
一生懸命だからこそ
最後に、小学校入学を前に不安を感じるのは、親がそれだけ一生懸命にこどもとともに生きようと思っているからこそです。不安や焦りを感じること自体はとても自然なことですし、子育ては大変なことがあるからこそ、喜びも大きいのだと思います。
できないことはいっぱいあっていい。できないことを気に病むのではなく、できることをこどもと一緒に探してください。親も子も不安には堂々と、ゆったりと立ち向かっていけたらと願っております。
新学期は、学校生活で心配なことが増えたり、さまざまな家庭の子育てに触れる機会が訪れたりする時期。小学生の子育てには、乳幼児期とはまた違った悩みが生まれます。
OTEMOTOでは、親子サポートプロジェクト「6歳からのneuvola(ネウボラ※)」をスタート。こどもが小学1年生になる保護者が悩みがちなテーマについて、"先輩"や"同期"にあたる保護者たちのリアルな声をアンケートで募り、紹介しています。
また「6neu応援団」として、課題解決をともに考え、親子をサポートする企業や団体を募集しています。詳しくはこちら(contact@o-temoto.com)からお問い合わせください。