保育園児が友達に「話が長い」。けんかを大人が止めない理由
保育園の年長組の子どもたちが数人で話をする、ただその様子を1年かけて記録した映画「こどもかいぎ」が話題になっています。このドキュメンタリーは、娘の声を聴かなかったことを悔やむ、ある父親の思いから生まれました。
「みんなは、どんなことを不思議に思っているの?」
ファシリテーター役の保育士が問いかけると、積極的に発言する子もいれば、考え込む子もいます。話は思わぬ方向にそれていき、次第に飽きてくると、会議の輪から抜け出したり、おもちゃで遊び始めたりする子も...。
「会議」と聞くと話し合いをして物事を決めるようなイメージがありますが、この映画内で行われる「こどもかいぎ」は、話がどんな方向に転んでいくのかまったく見えません。
そもそも子どもたちにとっては、椅子にじっと座っていること自体が至難の技。話し合いが成立せず、しょんぼりした保育士の姿も映し出されていました。
子どもたちには発言の場数が足りない
この保育園では、もともと「こどもかいぎ」を実施していたわけではありませんでした。映画監督の豪田トモさんが園に相談し、映画の撮影を前提にスタートしたもの。子どもだけでなく、保育士にとっても初めての試みでした。
豪田さんは以前、カナダの保育園で朝の会のような位置づけでおこなわれている「サークルタイム」を見学したことがあるといいます。子どもたちが輪になって、お互いの顔を見ながら話をしたり、歌ったり踊ったりする時間です。そこでは先生が「どう思う?」と子どもたちに意見を求める様子が見られました。
「日本人が会議で発言したりプレゼンテーションしたりすることに苦手意識をもつのは、国民性ではなく、場数を踏んだことがないからでは?」
そう考えた豪田さんは、ゼロから対話の場をつくる試みとして、東京都内のある保育園と協力して「こどもかいぎ」をはじめ、その様子をカメラで追うことにしました。子どもたちが自主的に発言できるよう、6つのルールをつくりました。
1)5〜6人の子どもたちでおこなう
2)さまざまなテーマについて話し合う
3)自由になんでも発言してよい
4)お友達の話していることを聞く
5)先生は進行役としてサポート
6)答えはなくていい
会議に出たくない子は出なくてもよく、出たからといって意見を言わなければいけないというルールもありません。
ゆるっとした「こどもかいぎ」。だからこそ子どもたちは、誰に遠慮することもなく、思ったことをそのまま発言していくのです。
「仲直りする?」
映画のなかでは、発言している途中に友達に遮られて機嫌が悪くなった子が、「話が長い」と友達からビシッと指摘されるシーンもあれば、ずっと話せなかった子がぽつぽつと話し始める姿も。誰が正解だとか、誰が上手だといったジャッジはありません。
言い争いになった子たちは、少し離れた場所にあるテーブルに移動します。ここは、子どもが2人だけで向き合ってじっくりと話をする「ピーステーブル」と呼ばれる場所です。大人や保育士は介在しません。
ひたすら文句をぶつけあった後、立ち去る際に「仲直りする?いま」と声をかける子。子どもたちは自らの力で、決着の方法を見つけ出します。
子どもたちからは、結婚や出産、生と死、戦争に関することなど、さまざまな疑問や意見が率直に飛び出します。多様な価値観を尊重するという点では、ファシリテーター役の大人が聞き役に徹することが重要です。
娘を頭ごなしに叱った
豪田さんはこの映画の撮影を通して、対話の大切さと楽しさ、そして「コツ」を学んだことによって、小学6年生の娘との対話ができるようになったといいます。
「娘が4歳くらいのときに、夕食中に席を立ったことをきつく叱ったことがあるんです。でも実は、そのとき手をケガしていた僕のために、娘がズボンを畳んでくれていたのだと後でわかりました。娘には謝ったんですが、なぜ話も聞かずに頭ごなしに怒ってしまったんだろう、と悔やんでいました」
「自分の子どもの頃を思い出すと、子どもの行動には子どもなりの理由がありました。あのとき、大人がもっと話を聞いてくれていたら。子どもが意見を言いやすい社会にすることが、映画に込めた思いです」
子どもが意見を表明したり社会活動に参加したりする権利は、2023年4月に施行される「こども基本法」の基本理念としても明記されています。
子どもを頭ごなしに叱ったり、「子どもの言うことだから」と雑に扱ったりすることなく、目線を合わせて対話をするために。「こどもかいぎ」のような実践がごく当たり前の日常になるように、法律も動き出しています。