犬山紙子さん、娘は"一生の推し" 「小学1年生の笑顔を見尽くしておきたい」
小学校入学は、こども本人だけでなく保護者もワクワクと同時に不安を感じるもの。大人はどのように寄り添えばいいのでしょうか。2023年4月に長女の入学を迎えたイラストエッセイストの犬山紙子さんに、小学校生活を親子でどのように迎えたのか、うかがいました。
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ぶつかり合って成長する
娘が小学校に入学する前は、不安ばかりでした。早起きするために寝る時間を早める、学童保育の預け先を確保する、持ち物を一緒に確認するなど、一つひとつ準備して不安をクリアしていきました。実際にふたを開けてみたら、娘が学校生活を楽しんでいる姿を見られることが何よりもうれしくて。心配しすぎだったかもと思うこともありました。
娘は入学前、新しい友達ができることをとても楽しみにしていました。「仲良くなりたいと思ったら、その子のいいところを見つけて伝えてあげるといいよ。『その靴下、かわいいね』でもなんでもいいから」と話をしたら、入学初日に声をかけて仲良くなっていました。
保育園のころよりも大勢の友達と関わる中で、順番を守ったりゲームに負けても泣かなかったりと、ぶつかり合いながら成長しています。入学してからの1年間で、周りの人との関わり方は大きく変わりました。
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こどもがけんかを始めると、つい大人が仲裁に入ってしまいがちですが、小学生になってからは何も言わずに見守ることにしました。するとそのうち、こどもだけで解決策を見つけるんですね。家に集まったときはママ友とお酒を飲みながら、けんかの様子を温かく見守っています(笑)
けんかをして機嫌を損ねたときに、自分で気持ちの整理をつけるためにがんばれるようになったのも大きな成長です。「がんばって気持ちを落ち着かせようとしているんだよね」とだけ声をかけて様子を見て、自分で気持ちをリカバリーできたときにはすごく褒めるようにしています。
娘には自立心や自主性がぐんぐん芽生えていますが、1年生の間に親のほうがクリアできなかったのが、登校の安全です。保育園のときまでは手をギュッとつないで公道を歩いていたので、目を離すと命に関わりそうで、夫(漫画家の劔樹人さん)が登校に付き添っています。父と娘で会話をする時間になっているようですが、いつまで続けるべきか悩んでいます。
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1981年、大阪府生まれ。仙台のファッションカルチャー誌の編集者を家庭の事情で退職し、20代は難病の母の介護をする日々。2011年ブログ本を出版してデビュー。現在はテレビ、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活動中。2014年に結婚、2017年に長女を出産してから、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「こどものいのちはこどものもの」を立ち上げ、活動中。近著に『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』。
masumi takahashi / 土屋鞄製造所
今の笑顔を見尽くしたい
学校から帰って「ママー」と笑顔でかけ寄ったりしてくれるのは今のうちだけなのかなと思うと、小学1年生の娘の笑顔を見尽くしておきたい。もちろん年齢に応じた良い関係性は育めるはずで、その1年1年を愛したい。もう一生の"推し"ですよね(笑)。かわいくてたまらなくて、家族でたくさん思い出をつくっています。そして、何をして遊びたいかはまず娘に聞くようにしています。
例えば映画を観たいというときは、娘が選んだ映画を観ます。公園に行きたい、家にいたいということもあります。親の希望ももちろん入れますが、基本的には娘のしたいことをジャッジするのではなく、尊重したいです。
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家では絵を描くか工作をすることが多いので、娘の椅子の近くにワゴンを置いて画材や材料をまとめています。アクリル絵の具やキャンバスもテーブルの近くに置いて、いつでもすぐに使えるようにしています。絵や工作に関するYouTubeは時間制限なし。そうすると「あれをつくりたい」「これを描きたい」がどんどん生まれるようです。同じ部屋にいて、工作をする娘の向かいで私が絵を描き、夫がコントラバスを弾いている休日もあります。
好きなことに熱中する時間はかけがえのないものです。大人になると仕事と家事や育児の両立がよく言われますが、自分の時間はあまり尊重されません。娘には好きなことをする時間をずっと大切にしてほしいから、私が自分の時間を楽しむ姿を見せています。お母さんが漫画を読んだり、絵を描いたり、友達とおしゃべりしていたら、お母さんにはお母さんの主体性があると感じられるはず。それは自分で人生を選択してほしいというメッセージでもあるんです。
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あなたの意見には価値がある
私自身、自分の人生を振り返ってみると、自分で選択したことであれば、たとえ失敗したとしても自分で責任を持ち、結果的に自信や幸せにつながってきたように思います。なので娘も、人生を自分で選び取ったという気持ちを大切にできるようにしたいんです。休日の過ごし方を決める日常の小さな選択も、親ではなく自分で選ぶ経験の積み重ねだと思っています。
私と夫は、子育てをするうえで「こどもの権利」を軸にしようと話し合い、夫婦で一緒に学んでいる最中です。「こどもの権利」には、こどもの命や健康が守られることだけでなく、こどもの意見が尊重されることも含まれています。小学1年生は考えていることを言葉で表現するのはまだ難しいかもしれませんが、大人が聴こうとする姿勢を示すことで「ちゃんと聞いてもらえるんだ」「意見を言ってもいいんだ」とこどもが感じられることが重要です。
娘には「こどもだから」「女の子だから」などと遠慮せず、自分の意見は価値があるものだと信じてほしい。それに、自分の意見に価値を感じられなければ、周りの人の意見に価値があるとも感じられないでしょう。自分の価値を認識し、主体性を大事にしながらも、周りの人を尊重できる人になってほしいと願っています。
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もうひとつ、家の中は娘の心理的安全性を保てる聖域になるよう心がけています。こどもはだんだん親から離れていきます。社会で生きていくうえで絶対に失敗するでしょうし、傷つけられることもあるはずです。親が守り抜くことは不可能ですが、家に帰ってきたら大丈夫。何があっても生きていこうと思える土台であり続けられるといいですよね。
イラッとしてつい怒ることもありますが、それが理不尽な怒りであった場合、「お母さんはこういう気持ちになって余裕がなくて怒ってしまったけれど、よくなかった」と謝るようにしています。支配的にならず、こどもをひとりの人間として尊重する言動を、とにかく真面目にやっていこうと思っています。
こどもが小学生になるとき、親はとても不安になりますし、大人が直面する課題がたくさんあります。ただ、不安を感じる自分が弱いわけでも悪いわけでもありません。不安や孤独はひとりで抱えると耐えがたいものですが、誰かと分かち合った瞬間に乗り越えられる性質に変わるのだと、私自身、体験して感じました。
不安だけでなく、喜びも分かち合いながら、こどもの成長の一瞬一瞬を味わい尽くしていきましょう。
※このインタビューは2024年3月に実施しました。
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特集「6歳からのネウボラ」 / OTEMOTO
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